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母艦

 俺は母艦のブリッジに向かった。

 ブリッジではコンノ大佐がシートに座っていた。

 パンツァーは展開を解いて、非物質化してある。


「さすがだな、テンマ君。ここから見ていたが、あれだけのパンツァーを一人で倒してしまうとはね」


「連中はパンツァーに頼っているからですよ。パンツァーの性能に甘えているんです。戦士としては三流でしたね」


「はっはっはっは! それを連中に聞かせてやりたいね。今回の討伐はご苦労だった。しばらくは休んでいいよ」


「わかりました」


 俺は短く答えてブリッジを出る。

 コンノ大佐とはそれなりの付き合いだ。

 俺の父クウマ・イカズチとは友人に当たる。

 そのため、俺は幼いころからコンノ大佐を知っていた。

 この人は他人をおもんぱかる人だ。

 それに気さくだった。もっともそれがレジスタンス内での昇進に歯止めをかけているのも確かだった。

 軍には冷徹な思考が要求される。

 レジスタンスは軍事的システムを導入している。

 レジスタンスの正式名称は『アルカディア共和国軍』だ。

 レジスタンスはあくまで『共和国』の、君主や独裁者のいない国の軍隊なのである。

 現在の政権は『バビュロニア帝国』を名乗っている。

 最高指導者は大統領だが、現在の大統領は独裁者だった。

 コンスタンティウス・フォン・ベルンシュタイン(Konstantius von Bernstein)というのが、その名前だ。

 この男は『革命』と唱えて、軍事力による独裁を行った。

 俺たちはこの男を許すことができない。

 この男は俺たちの敵だ。

 この男はアルカディア共和国を滅ぼして、バビュロニア帝国を作った。

 それは祖国を滅ぼされたということだ。

 そもそも帝国ができて何かいいことがあっただろうか?

 否だ。

 帝国ができたメリットはこの独裁者や中央政府がなくなって、自分勝手にふるまっている独立勢力くらいだ。

 むしろ帝国になってから治安は悪化した。

 俺たちはそんな帝国を倒し、共和国を復興させるために帝国と戦っている。

 共和国に問題があった。

 それは認めよう。

 共和国もほかの国々と同じで腐敗があったのも事実だ。

 だからと言って、帝国を作っていいとはならない。

 帝国ではコンスタンティウスが軍事力による独裁を行っている。

 軍事的な独裁は国民の不信を買っている。

 それが分かっているからか、大統領は軍事力の増強に熱心だ。

 彼は軍事力を増大させることで、自分の権力を固めている。

 彼からすれば、軍隊こそが自分の権力の基盤なのだ。

 大統領は国民を信じていない。

 彼が信じているのは軍隊だけだ。

 軍隊こそ、彼が身をゆだねることができる唯一の組織なのだ。

 俺はそんな帝国に『反逆』する者の一人だった。

 レジスタンスはみな、帝国への反逆者だ。

 レジスタンス員は共和国を取り戻すために戦っている。

 俺たちの合言葉は『Für die Freiheit』だ。

 俺たちは自由のために戦う。

 現在の帝国支配下では圧政がまかり通っている。

 そんな体制への反意を込めて、そんなスローガンを使っていた。

 さて、政治の話しはここまでにしておこう。

 


 俺は母艦の研究室に向かった。

 この研究室ではパンツァーの開発や整備が行われている。

 母艦の中でもパンツァーの整備ができるようになっていた。

 もっとも、研究室の研究員は主(おも)にパンツァーの開発に従事している。

 俺がここに来たのは、会いたい女性(ひと)がいるからだ。


「ティエンマー!」


 研究室から現れたのは、まだ十代前半の少女。


「やあ、シャオユエ。元気にしていたか?」


「うん! ティエンマーが来るまでいい子にしてた!」


「それはいい子だったな。よしよし」


 俺はシャオユエの頭をなでる。

 言っておくが、この子が会いたかった女性(ひと)ではないぞ?

 俺はロリコンじゃない。

 シャオユエは金髪の髪に赤い瞳をした女の子だった。

 まだ小さいのにエーテル工学を学んでいる。

 彼女は天才的で、早熟だった。

 シャオユエは名前からわかる通り、中華系だ。

 だから、この子は俺のことを天馬(ティエンマー)と呼ぶ。

 彼女は俺になつていた。

 そもそも彼女がレジスタンスに保護されたのは、俺が廃墟で彼女を見つけたからだ。

 それがきっかけで、俺たちは彼女の後見人になっていた。


「ねえ、ティエンマー! 遊んで!」


「ああ、いいぞ。ただ、もう少し待ってな。アスカはいるか?」


「アスカお姉ちゃんは中にいるよ」


「じゃあ、ここで待っていてな。アスカと会ってくる」


「あら、テンマ。帰ってきたの?」


「あ、ああ。今帰ったところだ」


 この人はアスカ・イザヨイ。

 パンツァー工学の研究者にして、俺の想い人だ。

 彼女は茶色の髪を長く伸ばし、白衣にブラウス、赤いタイトスカートといった格好だった。


「おかえり」


「あ、ああ」


 アスカが俺を抱きしめてくる。

 俺はアスカのいい匂いにおかしくなりそうだ。

 俺の胸板にアスカの形のいいバストが当たる。

 正直めっちゃドキドキする。

 アスカは抱擁を解いた。


「ああ、そうそう。テンマ、エンデュミオンを渡して」


「? なんでだ?」


「一度、本格的に整備したいのよ。モニターでテンマの戦いは見ていたけど、テンマに合うようにチューンナップしたいの」


「ああ、そういうことか」


 俺はパンツァーリングをアスカに渡した。

 パンツァーは展開前はリングになっている。


「確かに、受け取ったわ。ねえ、テンマ?」


「何だい?」


「エンデュミオンはどう?」


「ああ、俺に合っているし、剣術も再現可能だ。いいパンツァーだよ」


「いいニュースよ」


「ニュース?」


「あなた専用の新型パンツァーを開発する計画があるの」


「新型!?」


 俺は興奮してしまう。

 新型パンツァー……男ならそのロマンが分かるだろう。

 パンツァーは専用機でも自分の所有物ではない。

 あくまで、レジスタンスのものだ。

 とはいえ、新型が設計、開発されるのは正直うれしい。

 今のうちから、楽しみだ。


「どんなパンツァーなんだ?」


「まだ、正確には構想段階だけど、天使をイメージしてくれるといいわ」


「天使か。いいデザインだといいな」


「それは期待していて。エンデュミオンよりもっとあなたに合う機体だと思う」


 パンツァーのデザインは神話や伝説の英雄や神々、魔物にちなんでいるものが多い。 

 例えば、俺のパンツァー『エンデュミオン』も神話から由来している。


「で、新型パンツァーの名前は何だ?」


「それはまだ秘密。今はまだ機密情報よ」


 アスカがフフっと笑った。

 アスカは帝国から逃げてきた研究者だ。

 帝国では自分の望む研究ができないからと、レジスタンスに入った。

 レジスタンスでは主(おも)に、レジスタンス用パンツァーの研究をしている。

 レジスタンスも独自パンツァーを保有していた。

 

「そろそろ、シャオユエのところに戻らないとな。遊んであげるって約束したんだ」


「そう……私もどこかに遊びに行きたいなー?」


「え?」


「誰か、誘ってくれないかなー?」


「わかったわかった。今度、いっしょに行こう」


「さっすがテンマ、わかってるじゃない。じゃあ、約束だからね?」


 そう言うとアスカは奥に引っ込んでいった。

 さて、シャオユエと遊んであげないとな。

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