発進
「テンマ・イカズチさん、カタパルトに乗ってください」
「了解、発進の準備をする」
俺は『機械の甲冑』をまとい、カタパルトに足を乗せる。
今俺がいるのは、母艦ラ・リベラッツィオーネ(La Liberazione)の中だ。
俺がまとっているのはエータ―パンツァー。
エーテルという粒子が物質化した鎧のようなものだ。
この感じはいつも変わらない。
発進前の緊張感だ。
俺はこれから、この飛行する母艦から出て、敵と戦いに向かう。
情報では村が襲われていた。治安が悪い?
そうだろうな。
なぜなら、現在、旧アルカディア共和国はバビュロニア帝国(Das Babylonische Reich)の領土となり、行政機能が崩壊していた。
今この国は強い者が己の自由を謳歌する乱世だ。
誰もが自分のことしか考えていない。
俺は常々この乱世を終わらせて平和をもたらしたいと思っていた。
だが、今の世界はそんな優しい考えをあざ笑うかのように蛮族や野盗が出没する。
今の俺にできることはそんな連中を討伐することくらいだ。
「テンマさん、発進してください!」
オペレーターが指示を飛ばす。
俺は短く了解と答えて、カタパルトから発進する。
「テンマ・イカズチ、発進する!」
俺はカタパルトから飛んだ。
俺の体に重力がかかる。
俺はエーテル粒子を噴出させて、パンツァーで飛行する。
何度も経験しているが、この爽快感はたまらない。
空を飛行するというのはなんてすばらしいんだろう。
さて、飛行は『当然』として、これから俺は近くの村に行かねばならない。
もちろん、飛行してだ。
近くの村は野盗に襲われていた。
それもただの野盗ではない。帝国の軍隊から離反した、パンツァー装備者だ。
俺はできる限り、速く救援に赴く必要があった。
ハイパーセンサーを展開して、目標までの時間をはかる。
「ジャスト、五分か! 間に合ってくれよ!」
俺は祈るような気持ちで、パンツァーを飛行させた。
「げはははははは! いいぜ! もっと逃げろ逃げろ!」
野盗のボスはゴメス。黒いバンダナを頭に巻き、茶色いあごひげをはやしている。
この男はこの村に何か欲しいものがあったわけではない。
この男に付き従う者もただ殺戮をしたかっただけである。
つまり、殺しを楽しんでいたのだ。
村人は逃げ惑い、殺されていく。
この野盗団はただの野盗ではなかった。
彼らはパンツァーで武装していた。
パンツァー装備者と一般人では戦いの結果は目に見えている。
そこに村長が現れた。
彼は銃を持っていた。
「はっはっはっはっは! じじい! そんな武器で何をするつもりだ?」
「おまえたちのようなやからは許せん! 絶対に生かして帰さんぞ!」
彼はこの村から何かを奪いたかったわけではない。
ゴメスはどこかうれしそうな顔をした。
「それで、じじいは何を見せてくれるんだ?」
「フン! きさまらに慈悲など不要だ! 死ね!」
じいさんが銃を発射する。
じいさんの狙いは正確だった。
この人はただの人ではない。銃の訓練をしたことがある。
銃弾はゴメスの顔をかすった。
「!? じじい!? てんめええええ!」
ゴメスが怒り狂った。
ゴメスの手にエーテルのクローが形成される。
ゴメスはそれでじいさんを殺すつもりだった。
俺のハイパーセンサーはすべてを捉えていた。
俺は左手からエーテルライフルを撃ち、ゴメスを牽制する。
「!? 誰だ!?」
「これ以上はやらせはしない!」
俺はじいさんを守るように着地した。
ゴメスは殺しを邪魔されて怒っていた。
怒りたいのはこっちだ。
「てめえ……そのパンツァーは何だ!?」
「このパンツァーか?」
パンツァーには名前がある。俺のパンツァーにもあるし、ゴメスのパンツァーにもあるはずだ。野盗たちがまとっているパンツァーにもあるだろう。
「ふむ……パンツァー『デーネ』……帝国の旧量産型パンツァーか」
「よく知っているじゃねえか!」
「そのくらいレジスタンスなら知っていて当然だ。俺のパンツァーの名前はエンデュミオン(Endymion)。おまえのは何だ?」
「俺様のパンツァーは『ベーオヴォルフ』よ! この俺のパンツァーの前に敵はねえ!」
野盗がよく言う。
こいつらは自分たちよりも弱いものしか狙わない。
自分たちより強い者には首を垂れる。
「おい、おまえら! こいつをかたづけろ!」
「ほー、おまえは戦わないのか?」
「フン! おまえごとき若造の相手は手下で十分だ。やれ!」
パンツァー『デーネ』が俺の周囲を囲む。
デーネの主武装はエーテルアックスだ。
俺はエーテルソードを抜いた。
俺は飛行し、デーネに斬りかかる。
デーネは反応が遅れた。
デーネは旧式だ。パンツァーとしては脅威になりえない。
俺はそのまま上昇してデーネの包囲網に穴をあけていく。
俺は猛然とデーネに襲い掛かる。
デーネは俺のスピードに反応できない。
旧式のデーネではエンデュミオンの相手は務まらない。
もっとも、いかにパンツァーの性能が良くても、装備者が弱いようではその力を、性能を発揮できないが。
俺はひたすらデーネに襲い掛かって斬っていく。
ほんの数十分で、デーネは全滅した。
俺はゴメスの前に降り立つ。
それはまるで天使が地上に降臨したかのようだった。
ゴメスの顔は青ざめていた。
部下たちは全滅だ。
たとえ生き延びても、野党としては終わりだ。
もちろん、俺はこの男を生かして帰すつもりはない。
「て、て、て、てめえ! よくもやりやがったな! ぶっ殺してやる!」
ゴメスがパンツァーを展開する。
ゴメスのパンツァーは灰色の狼を模したものだ。
「それがパンツァー『ベーオヴォルフ』か」
武器はエーテルアックスとエーテルクロウのようだ。
「死にやがれ!」
ゴメスがエーテルの斧を叩きつけてくる。
俺はそれをエーテルの剣で受け止める。
ゴメスは軍人崩れだ。
一応、その攻撃には軍の型があった。
だが、俺も帝国軍を相手に戦っている兵士だ。
対軍の戦いは手慣れたものだ。
「どうした? 気合だけでは俺には勝てないぞ? おまえの攻撃には強みがない」
「なめんじゃねえ!」
俺はわざとゴメスを挑発した。そうすれば、俺にゴメスの注意が向かうからだ。
「許せねえ! ぶっ殺す!」
ゴメスの斧が大型化した。
さすがにこれは武器で受け止めるのは不可能だ。
「くたばりやがれえ!」
ゴメスが大型の斧を振るう。
俺はスピードでそれをかわした。
ゴメスには武の型がない。ただ、がむしゃらに攻撃しているだけだ。
それでは俺には届かない。
俺は一気に加速した。
ゴメスがクローを叩きつける。
俺はそのわきを通り抜けた。
そのまま交差するときに、エーテルの剣でゴメスを斬る。
「がっ!? くそったれ……」
ゴメスは倒れた。
「ふう……これで野盗は全滅しました。この後の処分はお任せします。それでは俺はこれで!」
じいさんは何かを言おうとしたが、俺はその前に飛翔した。
空が心地よい。
こうして俺の出撃は終わった。俺は母艦に帰還した。




