パンツァー『モンゴーロ』
「くっ、まさか、レジスタンスの新型パンツァーがここまでやるとは!」
ゾルゲ司令はいきり立った。
司令はこのままではマカイロス要塞が陥落すると予想していた。
まずい……。
これでは自分の責任問題に発展する。
ゾルゲ司令がそうであったように、帝国軍の将校は無責任で、保身に走る傾向があった。
ゾルゲ司令は考える。
真っ先に浮かんだのは逃亡であった。
しかし、今は兵士の目がある。
それでは、撤退という案はどうか?
これは意外に行けると思われた。
帝国では撤退は逃げると同一視されにくい。
しかし、マカイロス要塞を放棄したとあっては、コンスタンティウス大統領が烈火のごとく怒るであろう。
それは今後の昇進に差し支える。
困った。何か妙案はないものか。
帝国軍を勝利に導いてくれるもの……。
ん? そうだ、あれがあった!
「おい!」
ゾルゲ司令は横柄に言い放った。
「はっ!」
「今から、メガパンツァー『モンゴーロ(Mongolo)』を出撃させろ!」
「今からですか?」
「そうだ! 我々は劣勢だ! だが、メガパンツァーならこの事態を挽回できる! 急いで準備しろ!」
「はっ!」
メガパンツァー……それは大型パンツァーのことである。
通常のパンツァーを上回る大きさを持ち、大型で、攻撃、防御、機動力に優れる……。
欠点は大きなコストがかかること。
早々量産できるものではない。
テンマたちに脅威が襲いかかろうとしていた。
戦況はレジスタンス優位に進んでいた。
すべては、シグルドの知略とパンツァー『グラーヴォ』のおかげだった。
テンマは空中をひるがえって、エーテルライフルを撃つ。
ヴィーキングがエーテルビームに貫かれて、海上に撃墜された。
戦場では、総司令官の知略が試される。
戦場は一般兵の努力ではなく、最高司令官の知略によって決まる。
テンマが戦えているのは、シグルドが頭脳で敵司令官を圧倒しているからだ。
兵器は思想によって運用される。
兵器はただ製造されるのではない。
何らかの設計思想にもとづいて、開発される。
パンツァー『グラーヴォ』はエーテルマシンガンを装備している。
それにエーテルサーベルが付く。
エーテルマシンガンで接近し、エーテルサーベルで斬り捨てる――それがパンツァー『グラーヴォ』の戦い方だ。
ここまで、帝国が押されているのは、帝国では蛮勇を評価する伝統があり、知略で勝負するなど卑怯だと考えられていたからだ。
帝国軍の知略軽視ははなはだしい。
そもそも、帝国軍人は読書などという柔弱な趣味を軽蔑していた。
それは学者のすることで、勇敢なる軍人がやることではないとされていた。
戦闘で堂々と戦い勝つ、それが帝国軍人の魂だと考えられた。
「このまま行けば、敵左翼は総崩れだ。俺たちの勝ちは近い」
「テンマ」
「シグルド司令?」
そこにシグルドから通信があった。
「今のうちに補給と整備を受けろ。一度帰投するんだ」
「わかりました。一時、退避します」
「うむ」
シグルドはこれからのことに向けて何か考えているのだろう。
俺はシグルドに従って、補給のために母艦に戻った。
俺は水分を補給する。
ずっと戦いっぱなしだったから、疲労がある。
うまくいけば、夜までには勝てるだろう。
マカイロス要塞の陥落は目前だ。
「おや、剣士殿はこんなところで何をしているのですかな?」
「コンノ大佐……」
コンノ大佐は自動販売機でお茶を買った。
「いやはや、私にはこれが一番ですな」
「それは故郷の?」
「ええ、そうです。私の故郷の飲み物です。グリーン・ティーですよ」
コンノ大佐はテンマの隣に座った。
お茶を、大佐はラッパ飲みする。
「俺はアルカディア共和国で生まれました。故郷のジャポンは知りません」
「一度、アスカさんといっしょに行ったらどうですか?」
「そうですね、平和になったら考えます」
「ずいぶん、硬いことで」
「これが性分なんですよ」
「なら、これ以上は言いますまい」
「俺たちは勝てますかね?」
「よほどのことがなければ勝てるでしょう。もっとも、そのよほどのことがあれば、最悪、撤退に追い込まれますな」
「大佐はこの戦争をどう見ていますか?」
「帝国はそもそも、領土が大きい。ジャポンも今では帝国の領土です。アルカディア共和国も吸収された。広大な領土はそれを維持するのが難しい。そこにつけ入るスキがありそうですな」
「マカイロス要塞を落とせば、帝都バビュロンまでは一直線ですね」
「それが司令の狙いでしょう。司令は戦略に通じておられる」
「つまり、司令は今後の予定も視野に入れていると?」
「まあ、そうですな。少なくとも、私にはそう見えますが」
『テンマ・イカズチさん! 整備が済みました! 至急、発進してください!』
オペレーターがテンマの発信を告げる。
俺は飲んでいた、エナジードリンクを一気に飲み干した。
「出撃のようで」
「ええ、それでは行ってきます」
「ご武運を」
俺は再びパンツァーをまとって、カタパルトから出発した。
「さて、行くか!」
テンマは海上を一気に飛び立つ。
空気がテンマに当たった。
その時、マカイロス要塞の地下から、何か大きなものが出てきた。
あれは何だ?
俺はハイパーセンサーを起動させた。
なんと、現れたのは下半身が四角いシルエットに、人型の上半身が取り付けられたものだった。
「あれは……パンツァーなのか?」
それにシグルドはすぐ気づいた。
あれは?
シグルドは嫌な感じをした。
「はーっはっはっはっはっはっはっは! 諸君、ご苦労!」
「これは……ゾルゲ司令か」
「今から、メガパンツァー『モンゴーロ』を発進させる! 諸君らは射線上から退避したまえ!」
メガパンツァーが長い砲身を突き出した。
そこのエネルギーが集まる。
味方には射線上から退避するよう指示が出されているようだ。
「まずい! 今すぐ、味方パンツァーを散開させろ!」
シグルドの指示が全機にいきわたる。
しかし、それは遅かった。
メガパンツァー『モンゴーロ』から発射されたビームはパンツァー『グラーヴォ』を多数呑み込んだ。
シグルドは歯をかむ。
シグルドはすぐにテンマに通信をつなげた。
「テンマ!」
「シグルド司令?」
「今のを見たか?」
「ええ、味方が一気にやられました」
「あれを放置するわけにはいかない。今すぐあれを止めろ!」
「わかりました!」
俺はメガパンツァー『モンゴーロ』の前に行った。
こうしてみると大きいものだ。
だが、大きいからって勝てないとは限らない。
俺はエーテルソードを持って『モンゴーロ』に立ち向かった。




