新たなミッション
それから二週間たった。俺はリフレッシュすることができた。
俺は司令室に行った。
シグルドから用があるという。いったい何だ?
「テンマ・イカズチ、入ります」
「よく、来てくれた」
シグルドは執務をしていた。
シグルドが顔を上げる。
シグルドもまた旧アルカディア共和国の軍人だった一人だ。
彼はレジスタンス『エスペラント』を創設した。
「今日は何の用ですか?」
「君ももう知っているだろうが、レジスタンスは帝国の『マカイロス要塞』を攻撃する」
「その話でしたか」
「今まで我々は守りに集中していたが、これからは攻めに入るつもりだ」
「帝国が弱体化しているのですか?」
「確かに、今帝国軍は守勢に立たされている。今回の作戦はラ・ステッラ・ドーロと合同で行う。指揮権は我々にある」
「彼女たちも出撃を?」
「そういう協約を結んでいる。まあ、主戦力は我々レジスタンスが担う。彼女たちはあくまで補助戦力だ。パンツァー『グラーヴォ(Glavo)』を本格的に投入する」
「例の新型パンツァーですか?」
パンツァー『グラーヴォ』はレジスタンスの新型量産型パンツァーだ。
帝国に対する切り札とも呼ばれている。
開発したのはリョウタロウ博士だ。
俺もパンツァーの装備者として、開発に協力した。
量産型パンツァーは性能の高さよりも、武装や機能の統一性が重要だ。
つまり、運用思想が重要なのだ。
レジスタンスの戦略思想が結晶化したのが、グラーヴォだ。
この機体にはパンツァー『クリシュナ』のデータが使われている。
「君にも協力してもらってようやく帝国に攻勢をかけることができる。我々は今、帝国を追いつめつつあるんだ。このチャンスを逃すわけにはいかない」
「つまり、我々は帝国に攻撃を仕掛けると?」
「その通り」
シグルドはしらふで言った。
これはどうやら期待できるんじゃないだろうか。
帝国への本格的攻勢……。
アルカディア共和国軍の最終目的は帝国の打倒である。
そしてアルカディア共和国を再び樹立することだ。
そのためなら、命を捧げる者もレジスタンスにはいる。
俺たちが忠誠を誓っているのは共和国であり、独裁者が君臨する帝国ではない。
独裁者コンスタンティウス大統領の存在は俺たちには認められない。
『皇帝』の支配は受け入れられない。
俺は気分が高揚していくのを感じた。
今度の作戦から本格的な帝国攻撃である。
これは帝国打倒の第一歩だ。
今までは帝国から攻撃されることの方が大きかった。
それがこちらから攻撃できるのだから、戦略的な優位性をこちらが持ったということだ。
「それで、作戦はいつから始められますか?」
「一週間後だ。それまでに、演習などを済ませておくつもりだ。今回の作戦ではレジスタンスの戦力の八割を投入する。この戦いの勝てば、帝国の首都バビュロンへの道が開かれる。非常に重要な作戦だ。君の活躍を期待している。以上だ」
「それでは失礼します」
「ああ」
「……」
俺は司令室から出た。
俺は自分の気分が高揚していくことを感じた。
よっしゃー! これからきっと楽しくなるぞ!
「機龍は八割がた機能不全です。修理するより、スクラップにした方がよろしいかと」
「……」
「閣下?」
この男は不愉快な言い方しかできないのだろうか?
私、コンスタンティウス・フォン・ベルンシュタインはステーキから口を離した。
「聞いている。君は機龍が戦闘不能だと言ったな?」
ベルナドットがにやりと笑う。
あいかわらず、嫌な男だ。
とはいえ、有能であることも確かだ。
有能な人材を遊ばせておくほど帝国は暇ではない。
「アウレーリア・コルネーリか……まったく、やってくれる。機龍は我々の秘密兵器の一つだぞ? それをぼこぼこにされたのだから、私の虫の音が気にくわないのは当然だろう?」
「閣下、私は事実を単に述べているだけです。あくまでファクトです。それは目をそらしてはいけません。機龍の修理は不可能です」
「……フン」
コンスタンティウスは食事を再開した。
それをベルナドットは冷ややかに見つめる。
まったく、この男は人をイラつかせるのが得意なのか!
コンスタンティウスの食事は最高級の食事だ。
帝国では食事は最高指導者たる大統領と一般庶民では差別されて当然だと考えられている。
帝国軍人も同じだった。
将校には必ずシェフが付き、美食が堪能される。
帝国では美食と快楽が堪能されるべきだからだ。
これは私が導入した新しい文化だ。
最高指導者と末端の民衆では取る食事が違って当然なのだ。
「それで、レジスタンスが攻勢を考えているらしいな?」
「確かに、その通りかと」
「敵の狙いはどこだ?」
「それはわかりかねます。現在、調査中です」
「調査中だと?」
私はベルナドットをにらみつけた。
この男は当事者としての意識があるのか!
「きさま、なめているのか?」
「閣下は疑い深い。そんなはずがあるわけがないでしょう。私も帝国軍人ですよ?」
「それで、どう対応するつもりなのだ?」
「まあ、戦力を動員するしかありませんな。パンツァー部隊の補給と整備をして敵を待ち受ける、そんなところでしょうか?」
「情報はないのか?」
「残念ながら、レジスタンスが次にどこを攻撃するかは不明です。我々は想定しうる……」
「もういい!」
「閣下?」
ベルナドットはどこ吹く風だ。
まったく、この男にはイライラさせられる。
私は強制的に会話を打ち切った。
会話が不愉快だったからだ。
「閣下、ご不安かと思いますが、我々は最善を尽くします」
「当然だ! おまえたちは私を守るために存在しているのだからな! もうよい! 下がれ」
「しかし……」
「私はもうよいと言った」
「はっ」
まったく、不愉快な男だ。
一方ベルナドットも大統領の部屋から出て行った。
「ふふふ、暗愚な男だ。戦場では勇敢だったらしいが、知略戦には向かないな。あの男はあくまで戦いで雌雄を決しようとしている。そこには戦略よりも、武勇で解決するという思考だ。それでは最高指導者とはいえんな」
ベルナドットは大統領執務室から外に出て、冷笑を浮かべた。
それはコンスタンティウスという男に対する軽蔑だった。




