帰り
俺はレジスタンスベース『エスペーロ』に帰ってきた。
当初は武者修行の旅のつもりだったが、ラ・ステッラ・ドーロとかかわってすべてが変わった。
今、ラ・ステッラ・ドーロのメンバーはレジスタンス『エスペラント』に受け入れられている。
彼女たちはレジスタンスに協力するという道を選んだようだ。
正直、今後も彼女たちといっしょに戦えるのはうれしい。
俺は司令室で、レジスタンスのリーダー『シグルド・リーヴァ』と話していた。
「そうか。厳しい旅だったな」
「はい、俺たちはアウレーリアを犠牲にして戻って来ました」
「それにしても……」
「? 何か?」
「ああ、機龍というのが気になってね」
「はっきり言って化け物でした。俺では手がでなかった」
「ふむ……君ほどの剣士がそう言うのなら、それほど危険な代物なのだろうね。なんにしても、よく帰ってきてくれた。しばらくは休むといい。心も体もな」
「はい、ありがとうございます」
「それでは下がってよろしい」
「あの」
俺はどうしても尋ねたいことがあった。
「どうかしたか?」
「ラ・ステッラ・ドーロの残党はどうしますか?」
「彼女たちは当分、協力者になってもらう。これからいっしょに戦うこともあるだろう。その代わりとして、レジスタンスは彼女たちの首領アウレーリアを助けるための手助けをするという協約を結んだ。これで同盟軍というわけだ」
「そうでしたか」
彼女たちもアウレーリアのことを心配しているに違いない。
アウレーリアはあの後、帝国軍に大打撃を与えて囚われたそうだ。
アウレーリアがどこに囚われたかはわかっていない。
俺は彼女が心配だった。
身を挺して彼女は俺を逃がしてくれた。
彼女には借りがある。それを何としてでも返したい。
それに借りがあるというのはあまりいい気分ではなかったからだ。
アウレーリアへの借りは必ず返す!
そう思って、レジスタンスベースを歩いていると、奥からシャオユエが現れた。
「ティエンマー!」
「やあ、シャオユエ!」
シャオユエは俺にダイブしてくる。
この子は俺に受け止められると思っているな。
やれやれだ。
「半年ぶりだね!」
「そうだな。意外と短かったな」
「私、さびしかった」
「ごめんな、俺のわがままで」
「ううん、ティエンマーは悪くない。でも、もっと遊んでほしかったのも確か」
「安心してくれ。今日からしばらくはレジスタンスにいる」
「? ティエンマー、何かあった?」
「……どうしてだ?」
「何か、ティエンマーは元気がない」
こんな子供にも見抜かれるなんて、俺はそんなにわかりやすいか。
まいったな。
「そう、見えるか?」
「……うん」
「まあ、いろいろあってね。アスカはいるか?」
「うん、いるよ。ティエンマーが帰ってきてうれしがってる」
「そうか。俺はアスカと話しに行く。かまってあげられなくてごめんな」
「ううん、大丈夫」
「それじゃあ、俺は行く」
俺はエスペーロの研究室に向かった。
そこにはアスカの姿があった。
「アスカ! ただいま!」
「テンマ! お帰りなさい!」
「今戻ったところなんだ」
「そうなの。半年ぶりね」
「ああ、そうだな」
「何か、変わったわね?」
「そうか? 自分ではわからないんだが?」
「うん、変わった。修行のおかげかしら?」
「ははっ、そうかもしれないな」
「半年間、何をしていたの?」
「まあ、長い話になるが……」
俺はアスカに旅のこと、ラ・ステッラ・ドーロのことを話した。
アスカはわかってくれた。
「そう、大変だったわね」
「俺はまだ未熟だ。俺がもっと強ければ、アウレーリアを犠牲にすることはなかったんだ」
俺は自分の拳に力を入れる。
それをアスカが柔らかく包み込む。
俺はドキッとした。
「テンマのせいじゃないわよ。クウマさんがいても撤退を選んだんでしょう? なら、仕方がないわ」
「俺は必ず、アウレーリアを助け出す」
「うん」
「必ずだ。俺は借りを返す」
「そう、ね。しばらくは忙しくなるんじゃない?」
「まあ、俺たちが次に帝国から狙われるということもあるか」
「そうそう、テンマ」
「何だ?」
「エンデュミオンを貸して」
「エンデュミオンを?」
「整備するわ。いつでも戦えるようにね」
「ありがとう。こんなことを頼めるのはアスカだけだ」
「それが私の役目だもの」
アスカはそう言うと、ほおを赤く染めた。
俺とアスカはしばらく黙った。
だが、悪い沈黙じゃない。むしろ心地いい。
ふしぎだ。沈黙はどこか嫌な感じがするはずなのに、アスカとのあいだの沈黙はどこか情緒を伴う。
俺は目を閉じる。
この感じをずっと感じていたかった。
アスカはどう思っているんだろう?
心地よく感じているだろうか?
そう感じてくれたのならうれしい。
「テンマは、次の作戦のことを知ってる?」
「いや?」
「今度はマカイロス要塞を攻撃するようよ」
「マカイロス要塞……」
「海沿いにある要塞ね」
「なるほど、シグルドはそこを占領して、帝国首都へと道をつなげたいわけだ」
「きっと、激戦になるわ」
「そうだな。だが、俺も戦士だ。そんなことでビビってられないさ」
「テンマはどうして戦うの?」
「俺はアルカディア共和国を信じているからな。ほかのみんなもいっしょじゃないか?」
「確かにレジスタンス『エスペラント』ではアルカディア共和国に忠誠を誓うわね。でも、それだけかしら?」
「というと?」
「帝国では暴力を行使したい人間が軍に入ると聞くわ。レジスタンスはどうかと思って」
「まあ、戦いにしか生きられない人もいるさ。父さんだってそうだ。父さんがレジスタンスに協力しているのは武の道を極めるためさ」
「私は戦争が怖い」
「怖い?」
「ええ。戦争が長引くほど、人の理性がおかしくなっていくように感じて……」
「だから、俺たちは戦争に呑まれないようにしないといけないのさ」
「テンマは大丈夫?」
「俺は戦いが好きなわけじゃない。確かに、一剣士として剣の道を極めたいという願望はある。だが、それは暴力を極めることじゃないさ」
「そろそろ、食事の時間ね」
「ああ、行こうか」




