帝国軍
俺たちは夜、ビーチで焼き肉をやっていた。
もちろん、主導するのは俺だ。
焼き肉の匂いに多くのクルーが集まってきた。
基本的にはバーベキューだ。
「タレも用意したし、皿もある。これなら食べられるな」
「テンマ! 速く! もう食べたい!」
「も~おなかペコペコだわ!」
「ぼくたちももう持たないよ!」
「あー、まあいいか。食べたい奴は並べ。俺が焼き肉を分けてやる」
俺はまず、アウレーリア用に一番、いい肉を用意しようとした。
そこでアウレーリアからストップが入る。
「ストーップ、テンマ君」
「どうした?」
「私もみんなと同じでいいわ」
「? いいのか?」
「うちらはみんな同じ食事をすることにしてるの。帝国軍とは違うのよ」
「わかった。それなら、アウレーリアにもみんなと同じにするよ」
「ありがとう、テンマ君」
帝国軍は食事では高級将校には一流シェフが付く。
出される食事は階級によって差別されており、一般兵には大した食事が出されない。
食事でも差別されているのだ。
どうやら、ラ・ステッラ・ドーロでは食事は平等らしい。
ちなみにレジスタンスでは食事は少し、階級が高くなる方がよくなる。
肉はあっという間になくなった。
みんなおいしそうに食べている。
作った俺も感慨深い。
「ああ、そう、テンマ君」
「何だ?」
「明日は首都ラ・フォンテ(La Fonte)に帰るわよ」
「楽しかったのも終わりか。まあ、また日常が始まるわけだが」
「テンマ君」
「どうした?」
「はい、これ」
「これは……」
アウレーリアが出したのは二つのパンツァーリング。
青いリングと、赤いリングだ。
これはパンツァー『エンデュミオン』とパンツァー『クリシュナ』だ。
「どうして?」
「テンマ君にはいろいろと良くしてもらったからね。それにテンマ君みたいな人は広い世界を知ってもらいたいのよ」
「俺に出てけってことか?」
「それはテンマ君の自由意思に任せるわ。私はもう拘束しないことにしたのよ」
「俺は……」
「もちろん、テンマ君がここにいたいならそれは自由だけど」
「俺はしばらくここにいるさ」
「どうして?」
「あんたらを放っておけない。あんたらみたいなものを見ていると、どうしても介入したくなる。それがすべてだ」
「ふふふ、テンマ君もおせっかいねえ」
「いいだろ、別に」
俺は赤いドレスを着たアウレーリアの隣に腰を下ろした。
どうしてそんなっ行動をとったのか俺もわからない。
ただ、居心地の良さを感じたのも確かだった。
「ところで、どうしてラ・ステッラ・ドーロはできたんだ?」
「ふふふ、気になる?」
「ああ、まあ、な」
「まずはテンマ君、お酒は飲む?」
「まあ、軽くなら」
「じゃあ、ビール? ワイン?」
「じゃあ、ビールで」
俺はアウレーリアから渡されたビールを軽く飲む。
たまになら、酒を飲むのも悪くない。
俺はアルコール依存症じゃないんでね。
夜がさらにふけてきた。
「もともと私たちはアルカディア共和国の軍人だったのよ」
「やっぱりな。軍人文化を感じたぜ」
「帝国軍ができた時、私たちは独立する形で、組織を立ち上げた。私たちは帝国から大切な故郷を守りたかったの」
「それで、ニュンフィアを?」
「そうよ。帝国では女性軍人には需要がないから、私たちは私たちの組織を作った。自分たちのアイデンティティを守るためにね」
「それで女性軍人か?」
「そうよ。女性としての反抗でもあったの。女性も戦えるっている、ね。女性は家庭にいるだけじゃないって示したかったの」
「なるほどな。わかったような気がする」
「ふふふ、テンマ君はこんな女性はどう思うかしら?」
これは嫌な質問だった。
これでは試されているようではないか。
「まあ、いいんじゃないか。俺だって家事をやっているし、女が働いて、男が家庭に入っても」
「テンマ君はそうする?」
「俺は共働きを望むな」
「あら、意外と頭が柔らかいのね?」
「悪いか?」
「ううん……」
「司令!」
「? どうかしたのか?」
アウレーリアが厳粛モードになる。
この時の彼女は司令官の顔だ。
「帝国が、帝国がニュンフィアに攻め込んできました! 帝国軍の艦隊です! 艦の数は三隻です!」
「わかった。至急、指揮を執る。クルーを全員、『アンジェラ』に乗艦させろ! 遊びは終わりだ!」
俺たちは激動に巻き込まれた。
帝国軍が現れたのだ。
帝国はこの地味な幸せをも破壊するのか?
俺はそんな疑問を抱いた。
朝日を受けて、帝国軍の艦隊が現れた。
母艦『アンジェラ』は首都ラ・フォンテの上空で待機する。
ニュンフィア側が抗戦の準備をしていることは明らかだ。
「クックック、女のみの軍隊か……これは楽勝だな」
司令官はパストール少将だった。
少将は女を侮辱していた。
女ごときに我々にかなうわけがない。そう少将は考えていたのだ。
敵にもオリジナル・パンツァーがあるらしいが、女では男にかなうまい。
男の優秀さを思い知らせてやる!
劣等な女どもには力で分からせてやるに限る。
だが、少将は紳士を気取った。
降伏を訴えることにしたのだ。
「愚かで哀れな女性兵士諸君に告げる。おとなしく降伏したまえ。それがこちら側の慈悲というものだ。メイドとしてなら雇ってやらんこともないぞ?」
このパストール少将の言葉はラ・ステッラ・ドーロのクルーを激怒させた。
ラ・ステッラ・ドーロのクルーは軍人としてのスピリットを持っている。
メイドにしてやるなどと侮辱もいいところだ。
「おのれ、パストール! 我々を侮辱するか!」
「パストール、許すまじ!」
「パストールをメイドにしてやる!」
ラ・ステッラ・ドーロの量産型パンツァー『ニュンフェ(Nymphe)』を展開した女性兵士が出撃した。
パンツァー『ニュンフェ』はエーテルスピアとエーテルボウを装備している機体だ。
彼女たちは怒っていたが、冷静さを忘れたわけではない。
こうして、ラ・フォンテ上空の戦いが始まった。




