表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【絶望から始まる英雄譚】呪われた右腕が輝く時、世界は彼を『王』と呼ぶ 〜半魔の少年、人間と魔族を繋ぐ英雄譚~  作者: 御影 零
第二章 継がれし希望

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/54

第40話 呪われた腕を、誇りに


 心臓が、高らかに鼓動を刻む。  


 僕の覚悟に呼応するように、指先からはナイフのような鉤爪が鋭く伸び、皮膚を漆黒の硬質な鱗へと塗り替えていく。


 右腕の解放による、溢れんばかりの魔力。  

 僕はそれを淀みなく全身に巡らせつつ、その奔流のすべてを『黒鋼の剣』へと流し込んだ。



 ――キィィィィィィィィン……!



 かつてのように魔圧に耐えかねて悲鳴を上げているのではない。  

 主の覚醒を祝福するように、黒鋼の剣は赤黒い閃光を纏って高らかに鳴り響いた。


 変貌を遂げた右腕からは、猛烈な赤黒い稲妻が絶え間なく溢れ出し、周囲の空気をジリジリと焼き切っていく。    

 鼻を突くのは、大気が焼き焦げる鋭い臭い。  

 空間そのものが震えるような重圧は、もはや紛れもない、かつて世界を震撼させた『魔王の威圧』そのものだった。


 吹き荒れる雷光と、絶望的な熱量。  


 その光の渦中で、僕はゆっくりと、戦慄に固まるドバルガスを見据えた。


「……こ、小癪な、ハッタリをォッ!」


 恐怖を打ち消すように、ドバルガスが吼えた。  

 全身のスパイクから溢れ出すのは、今までとは比較にならない最大出力の禍々しい黒い稲妻。


「死ねェ、虫ケラがああああッ!!」


 ドバルガスが絶叫し、逃げ場のない黒雷の嵐が僕を飲み込もうと迫る。


 けれど、避ける必要もないと肌で感じていた。

 僕はただ、静かに一歩を踏み出した。


 ――バチィィィィィィンッ!!!


 迫りくる黒雷がアレンの放つ『真の雷鳴』に触れた瞬間、脆いガラス細工のように、いとも容易く粉砕された。    


 それは防御などではない。  


 格上の魔力が、格下の魔力を存在ごと「否定」し、消滅させたのだ。  


「な……な、んだ……と……!?」


 黒い嵐を割りながら、僕はただ、真っ直ぐにドバルガスを見据えて歩を進める。


 恐怖に耐えかねたドバルガスが、狂ったように猛攻を仕掛けてきた。  


「死ね死ね死ねェ! 消え失せろ、この化け物がぁッ!!」


 黒い雷を纏った巨大な拳が、豪風を巻き起こしながら幾度も叩きつけられる。  

 だが、今の僕には、その一撃一撃が酷く緩慢で、そして「軽い」ものに感じられた。


 僕は足を止めない。  

 頭上から降り注ぐ暴力の雨を、あるときは首を僅かに傾けて回避し、あるときは裏拳で無造作に弾き飛ばす。


 ――バチィィンッ!


 僕に触れた瞬間に赤黒い閃光が弾け、ドバルガスのその硬質な皮膚を、容易く焼き焦がしていく。


「ガ、アァッ!? 腕が、オレの腕がぁっ!?」


 攻めているはずのドバルガスが、接触するたびに悲鳴を上げ、後ずさる。  

 僕は止まらない。

 一歩、また一歩と、死神のような足取りで距離を詰めていく。



 最後に振り下ろされた最大の一撃。

 その剛腕を、僕は左手で軽く受け流した。


「……終わりだ、ドバルガス」



 僕は静かに一歩を踏み出した。  



「ぐ、うおおおあああッ!!」


 恐怖に塗りつぶされたドバルガスが、最後の手向けと言わんばかりに黒雷を爆発させた――はずだった。


 だが、衝撃波も、轟音もない。    

 ただ、赤黒い閃光が世界を白く染めた、次の瞬間。  


 ドバルガスが放っていたすべての黒雷と、その巨体の半分が、赤黒い雷光の灼熱によって「切り取られた」かのように蒸発し、消え去っていた。


 あとに残されたのは、微かな焦げた臭いと、すべてが終わったことを告げる死のような沈黙だけだった。


 荒れ狂っていた赤黒い稲妻が、霧が晴れるように静かに収まっていく。  


 僕はゆっくりと振り返り、驚愕で目を見開いたままの師匠とミレイユさんのほうを、静かに見つめた。


「……待たせてごめんね。すべてを受け入れるのに、少し時間がかかっちゃった」


 僕は右腕の黒い鱗を、愛おしむようにそっと撫でた。    

 かつては絶望の象徴だったこの腕も、今は、僕の大切な二人を守り抜くための、誇らしい僕の一部だ。


 僕の明確な意志に従い、右腕の黒い鱗が、さらさらと砂のように崩れていく。  

 あとには、以前と変わらない僕の腕が残された。


 二人の前に一歩踏み出し、僕は真っ直ぐに二人を見据えた。  

 その瞳に宿る光は、もう以前のような迷い子のそれではない。


「僕はもう、大丈夫。……これからは、僕が二人を守るよ」


 まだ、世界なんて大きなものは見えていない。  

 けれど、この腕の中に宿る熱は、僕の目の前にいる「大切な世界」だけは何があっても守り抜けると、確かな誇りを持って脈打っていた。


「…………」


 ミレイユさんは、呆然と僕を見つめた後、ふっと憑き物が落ちたように笑った。  

 そして一歩歩み寄ると、乱暴に僕の頭をかき回す。


「……ははっ。随分と生意気なこと言うじゃないか、アレン」


 その掌から伝わってくる温もりは、僕の覚悟を優しく包み込んでくれるようで、何よりも心強かった。


 師匠もまた、ボロボロの身体を支えながら、ゆっくりと頷いた。  

 その瞳には言葉にならないほどの感慨が滲み、教え子の眩しい背中を誇らしげに見つめている。


「……ええ。立派になられましたな、アレン様」


 見上げれば、雲一つない真っ青な空がどこまでも広がっている。    

 降り注ぐ真昼の光を浴びながら、僕は黒鋼の剣を静かに鞘へと収めた。    



 僕たちの旅は、ここからまた始まる⋯⋯!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ