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【絶望から始まる英雄譚】呪われた右腕が輝く時、世界は彼を『王』と呼ぶ 〜半魔の少年、人間と魔族を繋ぐ英雄譚~  作者: 御影 零
第二章 継がれし希望

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第39話 守るための覚醒

 

 彼女は戦いから目を逸らさず、恐ろしいほどに冷静な瞳で戦場を見つめていた。


「ダメって、どういうことですか!? 師匠は互角に戦って――」


「ガルドの動きがもう鈍ってきてる。あいつは一人であの化け物の重圧を捌き続けてるんだ、当然だよ。でも、ドバルガスはまだまだ力を温存してるね。……アタシが加勢してもどっこいどっこい。これに確実に勝つには、アレン、あんたの力がいる」


 ミレイユさんが僕の右腕を掴み、鋭い口調で畳み掛ける。  

 掴まれた腕から、彼女の真剣さと、わずかな焦りが伝わってくる。


「バルディアの門を破壊したときのような力を――ガラからアタシを助けてくれた、あの力を、今ここで出すんだよ」


 ミレイユさんの言葉が、僕の背筋を凍らせた。  



 あの時のこと。


 あの力。



「……わからないんだ。どうやってやったのか、自分でも全然……! あの時は、ただ無我夢中で……」


「――考えなくていい、感じるんだ!」


 ミレイユさんは僕の右腕を掴む手に、さらに力を込めた。


「あんたの右腕は、すでに答えを知ってる。その腕に渦巻いているのは、世界の理を食い破る『魔王の力』の欠片だよ。それを抑え込もうとするのをやめて、ただ剣へ導くだけでいい」


 ガキンッ、という激しい音。  

 視線の先では、師匠の剣がドバルガスの重圧に耐えかね、火花を散らしながら押し込まれている。

 師匠の足元の地面は、耐えきれぬ圧力でクモの巣状にひび割れていた。


「アタシは普段から、必要な場所に、必要な分だけ魔力を回して戦ってる。地を蹴る足、振り抜く腕、そして剣先――刹那の瞬間に全魔力を一点へ流し込む。それがアタシの戦法やりかただ」


 ミレイユさんが僕の右腕を掴む手に、ギリギリと力がこもる。  


「アタシみたいな半端者にできるんだ。……その右腕に『規格外』を宿したあんたに、できないはずがないだろ?  その力を飼い慣らしてみな。そうすりゃ、あんたは誰にも届かない場所へ行ける。  ――ガルドの命を繋げるのは、世界で唯一、あんたのその力だけだよ!」


「……っ!」


 ミレイユさんは、まるで小さな弟を慈しむように、僕の頭をポンと叩いた。


「……大丈夫。あんたなら、できるよ」


 その言葉を最後に、彼女は弾丸のような速さで戦場へと跳んだ。


「さあ!そこをどきな、デカブツ!!」


 ドォォォォンッ!!


 大剣と剛腕が正面から衝突し、周囲の空気が爆ぜる。  

 三メートルもの巨軀を誇るドバルガスが、ミレイユさんのたった一撃で数メートルも押し戻された。


「なっ……なんだと、この女ァ!?」


「悪いわね。あの子が準備できるまで、私が遊んであげるわ」


 ミレイユさんが不敵に言い放つと同時に、師匠が音もなくドバルガスの背後へと回り込んでいた。


「小癪な真似をォ!」


 ドバルガスが背後の師匠をすり潰そうと、巨大な裏拳を叩きつける。  

 だが、その一撃が届く直前。


「――そうはさせないよッ!」


 正面からミレイユさんが地を蹴った。  


 全魔力を瞬時に「脚」へ。

 爆発的な加速で距離を詰め、振り下ろされるドバルガスの剛腕に、下から大剣を叩きつける。


 ガギィィィンッ!!


 刃とスパイクが激突し、火花が散る。

 力比べでは負けるはずのミレイユさんだが、衝突の瞬間、彼女の魔力は「腕」へと移動し、怪物の怪力を真っ向から弾き飛ばした。


 わずかに浮き上がったドバルガスの巨体。  

 その一瞬の隙を、師匠が見逃すはずがなかった。


「シッ……!」


 鋭い呼気とともに、師匠の細い剣が閃く。  

 ドバルガスの膝裏、そしてアキレス腱。

 防護が手薄な一点を正確に射抜き、深い斬撃を刻み込む。


「ギァァッ!? この虫ケラどもがぁッ!」


 怒り狂ったドバルガスが、全身のスパイクから無差別の黒い放電を放った。  

 師匠は「無」の影となってその間をすり抜け、ミレイユさんは大剣を盾に、魔力を「防御」へと一点集中させて耐え凌ぐ。


 ミレイユさんが盾となり、剛力を受け止め、注意を引きつける。  

 その隙を師匠が刺し、削り、絶望的な力の差を技術で埋めていく。


 二人の『猛者』による、完璧なまでの共闘。  

 それは、一秒の遅れも許されない、死線の上で踊るような美しささえ感じる連携だった。


 だが――その背中越しに、僕は見た。


 二人の息が、わずかに乱れ始める。  

 対して、怪物の瞳には依然として、底知れない暴力の熱が宿っていた。



(――なにをやってるんだ、僕は!)



 自分の不甲斐なさに、激しい怒りが突き上げてくる。  



 僕は――。


 守られるだけの子供でいるのは、もう、おしまいにしよう。  

   

 すべてを、守る。


 二人を、この場所を。  


 ぎゅっと強く握りしめた右腕を見つめ、僕は心の底から、内なる深淵へ向かって叫んだ。



(……来い、来い!応えてくれ。僕はもう、迷ったりしない。

 行こう。……共に!!)



 その瞬間、右腕の奥底で眠っていた『力』が、歓喜に震えた。



 ドクンッ!!




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