↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラッドカーストファンタジア  作者: 十三番目
第四章 記憶の真髄

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/100

第九十七滴 矛先の行方


「君はここに来る前、検査を受けただろう?」


「確かに受けましたが……何か問題でも?」


 血液検査と、医師の診察。どれも異常はなかったため、天璃(あめり)はファンタジアへの転入を許された。

 しかし、学園長の話を聞く限り、初めから天璃の入学を拒むつもりはなかったようだ。


「問題、か。事故により記憶を失っていることや、身寄りがなく一時的に保護されていたことは知っていた。提出された資料にも書いてあったからな。ただ、それがしは予言のこともあり、どうにも違和感が拭えなかった。それゆえ、調べさせたのだ」


 普通の人間が、予言の対象になるだろうか。

 一度芽生えた疑念は、そう簡単になくならない。さらに詳しい検査を行うため、学園長は天璃から採取した血液を、信のおける研究者へ送ることにした。


「君の血液は、どうやら特別性らしい。それも、吸血鬼たちが求める実験体の条件を、完璧に満たしている」


 研究者を除けば、学園長と結解(ゆげ)しか知り得ない情報だ。


「君たちが、吸血鬼のことを探っているのにも気づいていた。もちろん、咎めるつもりはない。信じてもらえるかは分からないが、たとえ黙認権がなくとも、それがしは容認するつもりでいた」


 真剣な表情の学園長を、天璃が黙って見つめる。


「予言の内容は、すでに始まっている。現に、君を中心として多くの生徒たちが動いた。それがしは──この機を逃すつもりはない」


 一癖も二癖もある者ばかり。けれど、天璃という存在を通じて、反発しそうな関係も不思議なほど成り立っている。

 あの幻想種(ファンタジア)さえ動かした天璃を見て、学園長は予言が正しかったことを確信したのだ。


「君が目的を遂げられるよう、我々も協力しよう。その代わり、それがしの目的にも手を貸してほしい。それが、それがしからの提案だ」


 悪い話ではない。元々、霊藻(たまも)は吸血鬼たちの実験を違法だと話し、珠羅(しゅら)や兎々(とと)も良く思っていなかった。

 だからこそ、地下の根城にも踏み込むことを決めたのだ。


「具体的には、どんなことを望んでいるんですか?」


 風向きが変わったのを感じ、学園長が微笑む。

 静寂に包まれた室内に、カチリと秒針の音が響いた。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 薄暗い室内に、黒いローブが溶け込む。

 男の前に跪いた配下は、奥にもう一人立っていることに気づくと、戸惑った表情を浮かべた。


「そちらの方は……」


「私の客人だ」


 男の客人は、少女とも女性とも取れる容貌をしていた。美しさの中に無邪気さを秘めたような、何とも言えない魅力を漂わせている。

 時間を改めようと立ち上がりかけた配下を、男が手で制した。


「構わない。このまま続けなさい」


「……かしこまりました」


 穏やかでありながら、逆らうことを許さない響きに、配下が姿勢を正す。


「学園にいる真祖が動き出した件ですが、やはり例の生徒が関係していたようです。それと……楪舞宵(ゆずりはまよい)の死亡が確認されました」


「死亡? 人間にしては優秀な子だと聞いていたが、いったいどんな先祖返りの不興を買ったのかな?」


「……先祖返りではなく、真祖のようです」


 柔和な男の空気に、ピリリとしたものが混じる。


「例の生徒──御門天璃の傍には、常に阿留多伎(あるたき)珠羅の存在があります。祝福の影響で催眠の類が効かないとなると、無傷での捕獲は困難だと判断しました。そのため、御門天璃を重症にすることで一時的に二人を切り離し、隙を突いて捕える算段だったのですが……」


 失敗したどころか、使える駒を失う事態にまでなってしまった。叱責を覚悟し頭を下げる配下の耳に、鈴を転がすような声が届いた。


「あめり……今、あめりと言ったの?」


「前に話した、神血(しんけつ)と呼ばれる者の名だよ」


 困惑する配下に代わり、男が口を開く。


「ふふ、ふふふっ。ようやく実験が完成しそうだと言うから来てみたら、ミゼルってばまさかそんな……」


「なにがおかしいんだい、ノア」


 男をミゼルと呼んだ女性──ノアは、笑いが止まらないのかクスクスと声をこぼしている。

 

「いいえ。あなたが気づけないのも無理ないわ。そうね……彼女を捕まえたいなら、わたしが手伝ってあげる」


 軽やかな足取りで、ノアがミゼルへと歩み寄る。

 楽しげに笑うノアの瞳は、血のように赤く染まっていた。




 ◆ ◆ ◆ ◆




 痛い、苦しい、悲しい。もう、終わりにしたい。

 ひどく疲れ果てた感情が、波のように押し寄せてくる。


 叶えられない願いの矛先は、自分か他者、どちらかを傷つけることでしか止められないと思っていた。だからいっそ、全てを“無かったことに”してしまえたらと願ったのだ。


 しかし、天璃に向けられた矛が珠羅を貫いた時、空っぽの心に強烈な痛みが走った。パズルのピースのように、天璃の欠けた場所には、いつの間にか珠羅の存在がはまっていたらしい。


 戦うための剣、身を守るための手段として珠羅を選んだ。ペットが飼い主を守るのは、契約としても正しいあり方のはずだと。そう、思っていたのに──。


「天璃ちゃん」


 身体を揺すられる感覚に、意識が浮上する。

 視界に映り込んだ姿に、天璃はふと息が吸いやすくなるのを感じた。


「うなされてたから、起こしちゃった」


「……」


「泣いてるの?」


 ぼうっと珠羅を見つめる天璃の目尻に、冷んやりした指が当てられる。


「……泣いてないよ。泣き方も、よく分からないから……」


「ふーん。私と一緒だね」


 寝起きのせいか、余計なことまで話してしまった。口を閉じた天璃に、珠羅が目を細める。


「ねえ、ゲームの続きしにいかない?」


「今から?」


「うん。だめ?」


 まだ夜明け前だが、もう一度眠りたいとは思えなかった。そんな天璃の気持ちを知ってか知らずか、珠羅は笑顔で首を傾げている。


「だめじゃない。……珠羅ちゃん」


「んー?」


「ありがとう」


 守ってくれて。傍にいてくれて。天璃の心を、埋めてくれて。ベッドから降りた珠羅の背中に、何重にも巻かれた感謝を呟く。


「天璃ちゃんの恋人(ペット)だからね〜」


 振り返った珠羅が、布団ごと天璃を抱き上げた。おくるみのように包まれた天璃を抱え、珠羅が当然のように口にする。


「うん、そうだね」


 このまま朝が来るまで、二人で布団にくるまり、並んで寄り添っていよう。

 そんなことを考えながら、天璃は珠羅の首筋にそっと頭を預けた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
不穏な夢だ…… ペットと書いて恋人と読むの、すごい好き。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。