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ブラッドカーストファンタジア  作者: 十三番目
第三章 血の盟約

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第八十三滴 普通は


 結局、今回の会議は散々なことになった。


 号泣しながら頼み込む舞宵(まよい)と、舞宵を宥めるため承諾した天璃(あめり)。ひとまず納得した様子の氷雨(ひさめ)に、どこか不機嫌そうな珠羅(しゅら)

 先ほどとは一転、喜びではしゃぐ舞宵に、我慢の限界を迎えた夏論(かろん)が雷を落とした。


 室内の照明が割れ、辺りに焼け焦げた臭いが漂う。

 ボロボロになった会議室を前に、とりあえず今回は解散しようという流れになったのだ。



「珠羅ちゃん」


「んー?」


「怒ってる?」


 教室へ戻る最中、天璃は繋いだままの手を引くと、珠羅の方を見上げた。立ち止まった珠羅が、桃花の如き瞳を見返す。


「怒ってないよ。ただ、ちょっと面倒なことになったな〜って思ってただけ」


 白魚のような手が、天璃の頬に触れる。反射的に閉じた瞼を親指でなぞると、珠羅は「私以外、見えなくなればいいのにね」と感情の読めない声で呟いた。


「おやまあ。これはこれは、御門(みかど)さんと阿留多伎(あるたき)さんではありませんか」


 通路の向かいからやってきた(ぜに)が、天璃たちに気づき足を止める。


「ほんまやねぇ。奇遇どすなぁ」


「にゃにゃ……! このにおいは、性悪女のものにゃ!」


 清妃女(きよひめ)茶美(ちゃみ)も合流したことで、通路の片側が閉鎖状態になった。

 小ぶりな丸眼鏡の下で、銭が糸目をしならせる。


「学年対抗戦での優勝、おめでとうございます。流石の手腕といったところでしたよ」


「試合、見てたんだね」


「ええ、そりゃあもう。当日は観戦席まで行ったくらいですからねぇ」


 敗北した割に、銭の機嫌は随分と良さそうだ。胸中を推し量ろうとした天璃は、通路の反対側から二人分の足音が近づいてくるのを耳にした。


「なんや、もう会議終わっとったんか」


 意外そうな顔をした霊藻(たまも)の隣には、ホッとした様子の兎々(とと)が並んでいる。


「うちらも戻る途中やってん。ちゅうか、なんでそないなとこに突っ立って……」


「あらぁ、女狐はんやないの」


 一瞬で空気が鋭くなった。

 口調こそ荒くないものの、ぶつかった視線には、研ぎたての刃のような鋭利さが潜んでいる。


「蛇女がなんの用や。今さら負けた腹いせにでもきたんか?」


「いややわぁ。あては女狐さんみたいに、誰かを化かす才能はあらへんさかい。ほんまに偶然どす」


 目つきだけで人を殺せそうな霊藻に、清妃女は煽るような笑みを浮かべた。空気に当てられた茶美が、耳をイカのように折り曲げる。


「そこら辺にしといてくださいね、清妃女さん。あたくしはただ、御門さんにお礼を言いにきただけなんですから」


「お礼を言われるようなことをした覚えはないよ」


 銭とは宝探しで会ったきりだ。身に覚えのない言葉に、天璃が無表情で銭を見つめる。


「おかげさまで、一儲けできまして」


 指でお金の形を作った銭が、視線を茶美の方へ流す。悔しそうに天璃を睨みつける茶美を横目に、清妃女が口元を手で隠した。


「あても欲しかった茶器を買うてもろたさかい、御門さんには感謝してるんどす」


「ウガーッ! おまえのせいで、吾輩の三ヶ月分のお小遣いがなくなったにゃ!」


 断片的だった情報が繋がり、真相があらわになっていく。怒る茶美の姿に、天璃は静かな声で答えを口にした。


一組(私たち)が勝つかどうか、賭けをしてたんだね」


「そういうことです。あたくしの家系は、代々商いを生業にしておりましてねぇ。『富とは金であり、金をもたらす者こそ正義である』という家訓の元で育ってきました。ですのでこれは、ほんの気持ちということで」


 トランプ程のカードを取り出した銭が、天璃へと手渡す。カードの表には、財宝を囲むようにとぐろを巻く蛇の絵が描かれていた。


「本来はお得意様に渡す物なのですが、上等な客はいるだけで富をもたらしますからねぇ。欲しいものができた際は、どうぞご贔屓に。相応の金さえもらえれば、学園(ここ)では手に入らない物であってもお売りしますよ」


 天璃を正面から見つめた銭が、含みのある笑みを浮かべる。手を胸の前に当て一礼すると、銭は清妃女たちと共に通路の反対側へ歩いていった。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 ティーカップからのぼる湯気が、茶葉の香りを運んでくる。

 放課後になり寮へ戻った天璃たちは、木目の美しいアンティーク調のテーブルを囲んでいた。


 吸血鬼のことを黙っている訳にもいかず、話がしたいと切り出した天璃に、兎々がこの前のお返しにと部屋へ誘ってくれたのだ。


「素敵なお部屋だね」


「せやろ。元からある家具以外は、ほとんど兎々が選んでんねん」


 霊藻たちの部屋には、おしゃれな調度品の他にも色々な物が飾ってあった。

 照れた表情の兎々が、恥ずかしそうにお礼を口にする。


「にしても、真祖の吸血鬼なぁ」


 話を聞き終え一服していた霊藻が、ふとため息を落とす。


「そういえば、真祖って日光を浴びても大丈夫なの?」


「真祖に弱点っちゅうもんはあらへん。まあ、弱体化みたいなんはかかるらしいけどな」


 舞宵の様子を見る限り、氷雨は普段から自由に動き回っているようだった。弱体化というのも、真祖にとってはそれほど重たいものではないのかもしれない。


「問題は、真祖がなんで学園(ここ)におるかや。件の実験と関わりがあるとすれば、えらい難儀なことになんで」


「それはないと思うよ〜」


 否定を口にした珠羅に、霊藻が訝しげな視線を向ける。


「真祖ってものすごーくプライドが高いからね〜。もし関わりがあるなら、下っ端なんて寄越さずとっくに自分で動いてたはずだよ」


「たしかに、一理あんな」


 弱肉強食のカーストでは、頂点になるほど一匹狼も増えていく。何故なら、そこらの有象無象を使わずとも、自分一人で事足りるからだ。


「せやかて、可能性が否定できん以上、その真祖が天璃に執着する理由も、実験に関係あらへんとは言い切れんはずや」


「……直接、話を聞いてみるのはどうかな?」


 天璃の提案に、一瞬ピリリとした空気が流れる。


「今後も会議で会うことにはなるだろうし、何となく……遠回しに探るより、直接聞いた方が良い気がして」


「会議の場なら阿留多伎もおるし、むしろええのかもしれんな」


 身の安全を危惧していた霊藻だが、下手に探るより、正面から行った方が安全かもしれないと思い直したようだ。


「浮気しちゃダメだよ〜」


「珠羅ちゃんがいるのに、他の人に目移りなんてしないよ」


 不満そうに天璃を抱き寄せた珠羅と、その頭を優しく撫でる天璃を前にして、霊藻が意外そうに目を瞬いた。


「なんや。えらい距離が近なった思いよったけど、知らん間に付き合うとったんか」


「え?」


「……は?」


 きょとんとした様子の天璃に、霊藻も混乱から疑問を返す。


「珠羅ちゃん、私たちって付き合ってたっけ?」


「んー、もうそういうことでいいんじゃない?」


 いや、あかんやろと出かけた言葉を、霊藻は喉の奥に押し込んだ。

 “普通は”なんて言葉が目の前の二人に当てはまらないことを、霊藻は既に嫌というほど知っている。


 半目で天璃たちを眺める霊藻の隣では、兎々がパチパチと嬉しそうに手を叩いていた。


 

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