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ブラッドカーストファンタジア  作者: 十三番目
第三章 血の盟約

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第八十滴 寮長


 兎々(とと)と雑談を交わしながら登校した霊藻(たまも)は、教室に入るなり半目で窓際の席を見つめた。


 天璃(あめり)にべったりと抱きついた珠羅(しゅら)が、甘えるように頬を寄せている。元々距離感の近い二人だったが、それを差し引いても異様な光景だった。


「なあ、隣のそれ……前より悪化してへん?」


「そうかな?」


 挨拶がてら声をかけた霊藻は、本当に分かっていなさそうな天璃に、なんとも言えない表情を浮かべた。


 相手を手のひらで転がすほどの賢さがありながら、時おり箱入り娘のように疎い一面が覗く。それでいて、許容度が高く、包容力は豊かときている。


 天璃のことを知れば知るほど、疑問は増えるばかりだ。諦めの滲んだ息を吐き出すと、霊藻は前の座席にカバンを置いた。


 兎々の背中に触れた天璃が、この前のお礼にとお菓子を手渡している。

 嬉しそうに笑う兎々を視界に収め、霊藻は緩やかに口角を上げた。




 ◆ ◆ ◇ ◇




「呼び出し?」


「大方、寮の催しの件やろな」


 去年もこの時期だったと話す霊藻の視線は、廊下に立つ生徒の方に向けられている。面倒くさそうに脱力した珠羅が、天璃の頭部に頬を擦り寄せた。


「天璃ちゃんも一緒にいこ〜」


「寮長の集まりなのに、私も行っていいの?」


「私の飼い主なんだから、良いに決まってるでしょ〜」


 天璃の手を取った珠羅が、スルリと指を絡ませる。

 思わず口元を覆った兎々は、顔を真っ赤に染めつつも、天璃たちの姿を食い入るように見つめていた。



 呼びに来た生徒は、いわゆる実行委員のような立ち位置らしい。天璃を連れてきた珠羅に何か言うことはなく、会議室まで案内すると、一礼だけして去っていった。


「他の人はまだ来てないのかな?」


「まあ、話す内容とかあるわけじゃないし、あくまで形式的なものだからね〜」


 学園の規則に従い集まってはいるが、催しに当たって何をするかは、各寮で決めればいいことだ。

 そもそも、猛獣に協調性を求めるのは間違っている。自由奔放な彼女たちにとって、形だけの会議など退屈なだけだろう。


 室内には太陽、月、星の描かれた椅子が置かれている。天璃たちのいる宙空(ちゅうくう)寮は、月をモチーフにしているため、座るべき椅子も明らかだった。


「貴様……なぜここにいる」


司空(しくう)さん」


 扉の先から現れた夏論(かろん)は、天璃の姿を見るなり怪訝そうに足を止めた。天璃をすっぽり抱え込んだ珠羅が、「飼い主なんだから別にいいでしょ〜」と答えている。


 拒否されるかと思ったが、意外にも夏論はすんなりと席に着いた。弱者と同じ卓を囲むなど、以前の夏論であれば絶対に容認しなかっただろう。


「失礼します。夢幻(むげん)寮の(ゆずりは)様は、到着が少し遅れるそうです」


「今年も代理か」


 背もたれに身体を預けた夏論が、不服そうに腕を組む。会議室に入ってきた生徒は、椅子の数が足りないことに気づくと、天璃に向けて声をかけてきた。


「予備の椅子でしたら、通路に出て二つ目の扉の部屋にございます。お好きな物をお持ちください」


 生徒の言葉に、天璃が珠羅を見上げる。


「取りに行ってくるから、珠羅ちゃんはここで待ってて」


「私も行くよ〜」


「大丈夫だよ。すぐそこだし、何かあったら呼ぶから」


 ね、と微笑んだ天璃に、珠羅はしぶしぶといった様子で腕を外した。良い子と頭を撫でた天璃に、珠羅がゆるりと目を細める。


 気まぐれで残虐な猛獣が、天璃に対しては従順なペットのように振る舞う。たとえそこにどんな思惑があろうと、天璃はやはり珠羅のことが可愛くて仕方がないのだと。そう、思った。



 会議室を出ると、真っ直ぐに通路が伸びていた。片側には扉が並んでおり、教えられた通り二つ目の扉を開く。


 窓から差し込む光が、部屋の中を照らしている。室内には椅子の他にも色々な家具が置かれており、奥には天蓋付きのベッドもあった。


 どうやら、保管場所としても使われているらしい。目当ての椅子を見つけ、取りに行くため足を進める。

 ──突然、天璃の背後で扉が勢いよく閉まった。


 振り返った拍子にバランスを崩し、咄嗟に近くの家具を掴む。しゃがみ込んだ天璃の手に、ピリリとした痛みが走った。


「……うるさいな」


 奥のベッドで、シーツの擦れる音が聞こえた。不機嫌そうな声は、どこか眠たげで。

 ゆっくりと起き上がった影が、片手で天蓋を持ち上げた。


 鮮やかな空色の髪に、アイスブルーの瞳。氷のように透き通った容貌は、見るもの全てを凍てつかせてしまいそうなほど鋭く、それでいて美しかった。


「会議にはお前が行けと言っておいただろ、ゆずりは……」


 天璃を映した目が、大きく見開かれる。

 ベッドから降りた少女の視線が、ふと天璃の手に向けられた。


 冷たいブルーの瞳が、燃えるような赤に染まっていく。見覚えのある光景に、天璃の口から呟きがこぼれた。


「吸血鬼……?」


 どうしてこんな所に吸血鬼がいるのか。それに、今はまだ昼間のはずだ。


「近寄らないでください」


 怪我を隠すように手を握り、急いで立ち上がる。強く握りしめたことで、溢れた血が手首を伝って流れていった。


 少女の視線が、ポタリと落ちた血の方へずれる。

 なんとか扉まで後退した天璃だったが、外側から鍵がかけられているのか、どれだけ押してもびくともしない。


 伸ばされた手を前に、天璃は珠羅の名前を呼んでいた。


 

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