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ブラッドカーストファンタジア  作者: 十三番目
第三章 血の盟約

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第七十一滴 血のカースト


 狩りが行われた翌日は、授業が午後からになる。

 いつもよりゆっくりと教室に向かった天璃(あめり)は、廊下の隅ですすり泣くクラスメイトたちを見かけた。


 対抗戦の時に、何度か関わりを持った四人組だ。いつも四人で行動しているようだったが、今は三人しかいない。

 ギャルっぽい生徒が欠けているのに気づき、天璃は無言で横を通り過ぎた。


 可哀想だが、諦めるしかない。

 何故ならここは、()()()()()()だからだ。


 猛獣にとっての楽園は、獲物にとっての地獄になる。

 天璃の隣を歩く珠羅(しゅら)は、ほんの一瞬も視線を向けることはなかった。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 テーブルに、宝石のようなケーキが並ぶ。

 放課後になりカフェを訪れた天璃たちは、お茶を片手に今後のことを話し合っていた。


「天璃は飲み物だけでええんか?」


「お昼、食べすぎちゃって。あんまりお腹が空いてないんだ」


 やんわり断った天璃に、霊藻(たまも)が片眉を上げる。紅茶に息を吹きかけていた兎々(とと)が、味見してみないかと天璃にケーキを差し出した。


 兎々からの気遣いを感じ、天璃がケーキを口へと運ぶ。美味しいよと微笑む天璃に、霊藻も自身のケーキを差し出した。


「うちのも食べてみ。一口くらいやったら食べれるやろ?」


 素直にお礼を言う天璃に、変わった様子はない。けれど、そのいつも通りが、霊藻にはどことなく不自然に感じられた。


「決行は金曜として、問題はどないして探るかやな」


「そもそも、吸血鬼って島のどこら辺にいるの?」


 太陽が苦手という割に、建物の中で見かけることはなく、それらしい場所も見当たらない。不思議そうな天璃にニンマリと笑った霊藻が、指を床の方に向けた。


「この下や」


「下って……地面の下ってこと?」


「せや。学園の敷地のどこぞに、専用の入口があるらしいねん。寮が併設されとらんのは、夜になるとあいつらが動きだすからやろな」


 これだけ広い土地がありながら、寮と校舎は少し離れた場所に建てられている。その理由は、先祖返りと吸血鬼の遭遇を防ぐためだったようだ。

 カップをソーサーに置いた兎々が、遠慮がちに口を開く。


「せっ、先生たちがいない間に、校舎の地下室を探してみる……とか」


「まあ、それがいっちゃん確実かもしれんな。地下は立ち入り禁止やが、たとえバレても今回は見逃すしかないはずや」


 地下室、入口という言葉に、天璃はふと別棟の光景を思い出した。

 壁に描かれたピラミッドの模様。空から降る黒い雨。

 宝探しのコインとよく似た壁画の横には、“ブラッドカースト”という文字が彫られていた。

 

「ねぇ、珠羅ちゃん」


「んー? どうしたの?」


 考えごとでもしていたのか、一拍遅れて珠羅が天璃の方を見る。


「前に、私が地下に落ちたことあったよね。あの時の場所に、もう一度行けたりしないかな?」


「床を壊せばいけると思うよ〜」


 暗闇を通って移動できる珠羅とは違い、天璃は生身の人間だ。再び地下室へ行くためには、物理的に穴をあける必要がある。


 霊藻たちの視線を受け、天璃は鞄からメモ帳を取り出すと、白紙の部分に地下室で見た壁画を描き込んだ。


「そら学園(ここ)のシンボルやな。カーストを意味するピラミッドと、恵みを表す雨。充分な雨を少数で得るか、多数で取り合うかっちゅう、弱肉強食をそのまま絵にしたようなシンボルや」


「でも……雨の色が違う、ね」


 塗りつぶされた雫を目にして、兎々がぽつりと呟く。


「多分、血の雨を表しているんだと思う」


 彫られていた文字を描き足した天璃が、メモ帳をテーブルの真ん中に置いた。


「……ブラッドカースト、なぁ。先祖返りの強さには、血の濃さも関係しとるが……これをうちらのことやと言うには、ちょいと無理がある話やな」


「カーストはあっても、それだけで決まってる訳じゃないからね〜。そこらの獣を、神や精霊と同列にはできないってこと」


 付け加えた珠羅の声には、どこか嘲るような色が滲んでいる。


 畏れ、敬われてきた神。瑞獣として信仰されてきた精霊。

 妖魔を先祖に持つ者と、神霊を先祖に持つ者では、比較するのもおこがましいと言いたいのだろう。


「血液のみで決まるカースト……。つまり、ブラッドカーストが表しているのは──吸血鬼の可能性が高いってことだよね」


「そういうことや」


 満足げに唇を吊り上げた霊藻が、「当たりを引いたな」と続ける。入口の手がかりが別棟にあると分かり、天璃は思案顔で目を伏せた。


 糸口は見つかった。あとは、どうやって紐解くかだ。

 落ち着いた雰囲気とは真逆の脳内が、いくつかの方法を割り出していく。


 少し間を置いたあと、視線を上げた天璃が何かを言いかけた時だった。


「あー、真っ白ちゃんだぁ」


 高い位置で揺れるツインテールと、甘さを含んだ猫撫で声。テーブルの側に近寄ってきた未来留(みくる)は、天璃を目なりするなり、驚いた表情を浮かべた。


「あれぇ? 意外と元気そう。もしかして、もう治っちゃったのぉ?」


 まるで、対抗戦のことなどなかったかのような態度だ。


「真っ白ちゃんって貧弱なのに、治る速さだけはあたしたちと変わんないんだねぇ」


「この状況で、よう話しかけてこれたな。面の皮重ねてるだけあって、厚かましいやっちゃ」


 気安い態度の裏には、残虐な本性が隠されている。両手の拳を顔の前に掲げた未来留が、キュルリと目を潤ませた。


「えー。未来留、そういうの分かんなぁい」

 

 冷めた視線を向ける霊藻に、「こわぁい」と唇を尖らせた未来留は、天璃の背後に視線を向けたあと、くるりと踵を返した。


「またねぇ、真っ白ちゃん」


 嵐のように去っていった未来留に、霊藻が眉間の皺を増やす。


「天璃、目つけられてんで。しばらくは一人にならんよう、気ぃつけとき」


「うん、ありがとう」


 霊藻の言葉に頷いた天璃が、心配そうな兎々に微笑む。

 テーブルの下で重なった手を、天璃は宥めるように撫でておいた。




 ◆ ◇ ◆ ◇




【 おまけ 】




「自分のことを名前で呼ぶやつは、何がええと思とるんやろな」


「さあ? 可愛いとでも思ってるんじゃない〜?」


「かわええ、なぁ」


 理解し難いと眉を顰めた霊藻が、「良さが分からんねん」とこぼす。

 話半分に聞いていた珠羅が、天璃の方へと視線を向けた。


「ねぇねぇ、天璃ちゃんはどう思う〜?」


 霊藻と同意見か問われ、珠羅を見上げた天璃が、真顔のまま口を開く。


「そうだね。天璃もそう思う」


 呆気に取られた霊藻が、つんのめるように足を止めた。

 思わず凝視する霊藻をよそに、にっこり笑った珠羅が、「私はありかも〜」と満点の札を上げている。


「天璃、なんか悪いもんでも食うたんちゃうか? なあ、兎々──」


「……えっと、兎々もそう思う……よ」


 顔を真っ赤に染めた兎々が、絞り出すように答える。

 わずかな沈黙の後、霊藻は迷うことなく満点の札を上げた。


「ありやな」


「でしょ〜」


 

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