表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラッドカーストファンタジア  作者: 十三番目
第三章 血の盟約

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/75

第七十滴 美味


 対抗戦後の連休が終わり、学園に向かう生徒たちの姿が目立つ。教室に着いた霊藻(たまも)は、席に座る天璃(あめり)の姿を見て微かに眉を寄せた。


「おはようさん」


「お、おはよう……天璃ちゃん」


 窓の外を見ていた天璃が、霊藻と兎々(とと)に気づき挨拶を返す。二人を見る天璃の表情は、大怪我を負ったとは思えないほどいつも通りのものだった。


「今日は休みやと思てたわ。怪我の具合はどうなん?」


「かなり良くなったよ。授業は座って聞くだけだし、問題ないかなって」


 脇腹の傷に加え、多量の出血。たとえ神領(しんりょう)の治療を受けたとしても、ほんの数日でここまで回復するだろうか。

 疑念は疑惑となって、霊藻の脳裏をチクリと刺していく。


「いくらなんでも早すぎやないか? 無理しとんなら──」


「天璃ちゃん、お待たせ〜」


 気配のない登場に、兎々がビクリと身体を震わせた。片眉を上げた霊藻が、途中まで出かけた言葉を呑み込む。


「早かったね」


「寮の催しについて確認されただけだからね〜」


「催しって、三大寮の?」


 ファンタジア女学園では、対抗戦の他にも、寮によるイベントや学園祭などが企画されている。職員室から戻ってきた珠羅(しゅら)が、「そーそー」と肯定を返した。


「えっと、それぞれの寮の代表が、何をするか決めるんだよ」


阿留多伎(あるたき)は寮長やからな。十中八九、天璃も駆り出されることになんで」


 意外な内容に、天璃は思わず珠羅を見上げた。


「珠羅ちゃん、寮長だったんだ」


「各寮の中でいっちゃん強い猛獣が、寮長になるっちゅう決まりやからな」


「面倒だし、やりたくなかったんだけどね〜」


 学年に関係なく、カーストによって選ばれる仕組みらしい。弱肉強食が染み込んだ場所では、実に合理的な方法だ。


「たしか、天穹(てんきゅう)寮の寮長は司空(しくう)やったな。夢幻(むげん)寮の方は伏せられとるが、今年も代理が来る可能性が高そうやで」


九重(ここのえ)って、裏側(こっち)の事情に詳しいよね〜」


「家からも、ちくいち情報(手紙)が送られてくんねん」


 耳が早いと笑う珠羅に、霊藻が肩をすくめる。

 四人ともが席に着いたことで、不意に真面目な空気を纏った霊藻が、声のトーンを下げた。


「ほんで、いつにする?」


「うーん。なるべく早い方がいいよね」


「天璃ちゃんに合わせるよ〜」


 いつが何を意味するかは、誰が言わずとも分かっていた。


「こっ、今週の、金曜日はどうかな。月に一度の食事会で、先生たちは、本館のレストランに集まってるから……」


「それええな」


 警備の巡回はあれど、教師がいない分、余計な邪魔が入りにくくなる。兎々の提案に、霊藻がそれでいこうと頷いた。


 担任である結解(ゆげ)が、教室のドアを開く。

 一歩遅れて入ってきた生徒たちは、新たな獲物であり、生贄枠に当たる生徒たちだった。


 人員が補充されたことで、教室内に緊張が走る。転入生をチラリと見た霊藻が、天璃たちの方へ視線を戻した。


「詳しい話は放課後にでも……と言いたいところやったが、今日は無理そうやな」


 教室のスピーカーから流れるメロディーは、放送を知らせるものだ。次いで、機械的な音声が、狩りの始まりを告げた。


「……うそでしょ……」


「対抗戦が終わったばかりなのに、もう狩りだなんて……」


 恐怖、絶望、諦め。

 生徒たちから漏れた声には、そんな感情が含まれていた。




 ◆ ◆ ◆ ◇




 仲良く腕を組んだまま、寮への帰路につく。

 木々の間から差し込んだ日差しが、天璃の雪のような肌を照らした。


「珠羅ちゃんは、狩りをしなくてもいいの?」


 隣を見上げた天璃が、ふと気になっていた疑問を口にする。


「いーのいーの。天璃ちゃんといる方が楽しいし、もう充分狩ってきたからね。あーでも、あんまり狩りをしなくなってからは、『たまにでいいから獲物を食べるように』って言われることもあるかな」


「それって、先生に?」


「まあそんなところ〜」


 にこりと笑った珠羅が、天璃の目を見返す。

 ──話す時は、ちゃんと私のことを見て。

 そんな言葉を伝えて以来、珠羅は天璃が話しかけるたび、こうして目を合わせてくれるようになった。


「人間って美味しいの?」


「んー? 個体差はあるけど、美味しいよ」


 質問を繰り返す天璃に、珠羅が緩く首を傾げた。


「その……先祖返りは、どうやって人間を食べるのかなって」


「今は人間よりの姿をしてるけど、獣や虫、魚の先祖返りなんかは姿を変えることができるからね。前に見た人魚の先祖返りは、狩った獲物を水の中で捕食してたかな。あ、女郎蜘蛛の先祖返りは、糸で巻いて食べるらしいよ〜」


 身体を屈めた珠羅が、天璃の顔の近くで内緒話かのように振る舞う。思わず笑みをこぼした天璃は、口元に手を当てると、珠羅に乗っかり小声で話し始めた。


「珠羅ちゃんも、姿を変えられたりするの?」


「神って、定まった姿がないんだよねー。人間の理想や想像を反映してる分、人間よりの姿で固定されることが多いけど、実際はあやふやだったりするし。出来ないこともないと思うけど、必要にならない限りしようとも思わないって感じかな〜」


 これまでの珠羅は、姿を変えようなんて考えたこともなかった。けれど、天璃を自らの元に縛りつけておけるなら、珠羅は容姿さえ捨ててもいいような気がしていた。


「変えてほしい?」


「ううん、そのままがいい。私ね……珠羅ちゃんを初めて見た時、なんて綺麗な人なんだろうって思ったの」


 まるで人を魅了する悪魔のように、妖しさと美しさの中に、得体の知れない何かを潜ませている。


「でも、珠羅ちゃんのことを知っていくうち、それ以上にすごく可愛い人だなって思うようになったの」


 何をされても、仕方ないと許してしまえるほどに。天璃は珠羅のことが、可愛くて仕方ないのだ。


「だから、そのままでいて」


 ありのままでいいのだと微笑んだ天璃が、珠羅の頬を手のひらで包み込む。

 太陽に透ける髪が、粉雪のように煌めいた。


 今にも溶けてしまいそうな天璃の姿を見つめ、珠羅は天璃を冷やすように、腕の中へとしまい込んだ。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ