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ブラッドカーストファンタジア  作者: 十三番目
第三章 血の盟約

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第六十七滴 血液


「連れてくるのが遅い。一歩間違えば、死んでてもおかしくなかったぞ」


 横たわる天璃(あめり)を診察していた神領(しんりょう)が、ため息をつきながら立ち上がる。入れ替わるように近づいた珠羅(しゅら)は、ベッドの端に腰掛けると、眠る天璃の頬を指でそっと撫ぜた。


「どのくらいで治る?」


「傷が塞がるまで三日。跡がなくなるまで五日。失った血液も含め、体調が戻るまでに三日半ってところだな」


 大まかな日数を挙げた神領が、不意に真面目な空気を漂わせる。


「とはいえ、それは以前までの話だ」


 少し低められた声が、話の深刻さを表しているようで。珠羅の視線が、自然と神領の方へ向けられた。


「骨折した際の御門(みかど)は、まだ()()の治癒速度をしていた。人間を基準にするなら、いたって正常な範囲だ」


 薬棚から小瓶を取り出した神領が、中を覗くように掲げる。


「この薬には、とある人外の血が混ぜられている。飲んだ者は一時的に驚異的な治癒能力を得るが、同時に、拒絶反応として激痛に襲われる代物だ。だが、御門にはその兆候が全く見られなかった」


 人によって多少の差は生まれるものの、本来なら誰にでも現れる症状のはずだ。

 静かな医務室に、淡々と語る神領の声が響く。


「恐らく、御門は人外の血に対する適応力が高いタイプだ。医者になってから、稀にそういった者と出会うことはあったが、ここまでの相手には僕も初めて会ったよ」


「ふーん。それで、神領先生は何が知りたいの?」


「この短期間で、御門の身体にはあり得ない程の変化が起こっている。僕が治療するまでもなく、傷がすでに塞がりかけていたんだ。だがな、この薬に……継続した効果はないんだよ」


 神領が何を言おうとしているのか、おおよそ察しがついたのだろう。黙って耳を傾けていた珠羅が、面白がるように目を細める。


阿留多伎(あるたき)、おまえ──御門に何をした?」


 この短期間で変化を起こせる者がいるとすれば、それは天璃の傍にいた珠羅だけだ。

 核心を突く問いかけに、珠羅はゆるりと笑みを浮かべた。




 ◆ ◆ ◆ ◆




 分厚いカーテンの引かれた部屋に、黒いローブが舞う。

 隙間から覗く月明かりを眺めていた男の前で、配下が恭しく膝をついた。


「実験の結果が出たようだね」


「はい。今回の被検体ですが……拒絶反応により、死亡しました」


「そうか。それは残念だったね」


 惜しむような声だが、表情に変化はない。沈黙する配下へ、男は「新しい協力者はいるのかな?」と口にした。

 

「すでに目星はつけております」


「優秀な部下がいて助かるよ」


 深く首を垂れた配下に、男が薄く笑みを浮かべる。


「それと、例の生徒については、本土にいる同志も調査を続けているようです」


「ふむ。何か分かったことはあるかい?」


「……いえ、まだ何も。申し訳ありません」


 配下の肩に手を置いた男が、何度か優しく叩く。労いの込められた行為に、配下が恐縮した様子で目を伏せた。


「構わないさ。分からなかったということもまた、有用な情報だからね」


 去っていく配下から顔を背け、デスクの椅子に腰掛ける。仄かに輝く月明かりが、男の金糸のような髪を照らした。


「神も魔物も妖も……人ならざるモノたちは、全てこの世を去ってしまった。残った純粋な存在は、今や吸血鬼だけだ」


 溢れた独り言には、どこか切実さが滲んでいる。


「必ず見つけてみせる。人間を、人外へと至らせる方法を──」


 ワイングラスを手に取った男は、中で揺れる真っ赤な液体を見つめ、味わうように口に含んだ。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 昔から、感情を読み取るのが得意だった。

 特に、目は分かりやすい。言葉でどれだけ偽りを重ねようと、目は絶対に嘘をつかないからだ。


 試合を観戦したのは、相手の性格や癖を知るため。先に知略を示したのは、自分への印象を操作するため。

 初めから、全ては盤上にて行われた出来事だった。


 人でも人外でも関係ない。

 感情を持つ存在なら、天璃はたとえ神であっても──相手を盤上へと誘える自信があった。


「……あの、神領先生」


「起きたか。阿留多伎なら表彰式で外してるぞ。迎えが来るまで、そこで休んでおけ」


 カーテンを開けた天璃が、ベッドから下りようとするのを留め、神領は丸椅子を天璃の近くまで移動させた。


「調子はどうだ?」


「平気です。傷も痛くないですし、視界もはっきりしてます」


 驚くほどいつも通りな身体を見下ろし、天璃が不思議そうに目を瞬かせる。神領はそんな天璃の姿を、何とも言えない表情で見つめていた。


「御門。もし、阿留多伎から逃げたくなったら……僕のところに来い。自由とまではいかないが、それなりの手助けはしてやれる」


「どういう意味でしょうか? 私が珠羅ちゃんから逃げる理由なんて、ないと思いますが」


 突然の提案に、天璃がピタリと動きを止める。

 濃いクマの張り付いた目を向け、神領は雑に括った髪を後ろへと払った。


「なら聞くが、対抗戦の舞台は場外だったな。さらに言うなら、今日の天気は快晴だ。アルビノのおまえが──いつから日光を浴びても平気になった?」


 

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― 新着の感想 ―
そういえば日光ダメだった。珠羅さんに何かされたのだとしたら、それはそれでとても良い。そういうの好きです
あまりに試合の内容気にしすぎて日傘さんの存在忘れてたけど……たしかに( `・ω・) ウーム…
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