罠 2
ヨロヨロとふらつきながら歩く人が先輩女子の方に近寄り、その肩をぐっと掴んだ。
骨が砕けそうなほどの力と恐怖で、先輩女子は絶叫した。
シュウはすぐさまその頭に拳を一振りし、ゾンビの脳天を吹き飛ばした。
言葉を失った先輩女子は後ずさりをしながら、シュウを大きく見開いた目で見ていた。
「え……何が起きてるの?今、どうやって、えっ?」
先輩女子はパニックを起こしている。
シュウは冷静に会話を試みるも、彼女は何度も同じようなことを言うだけだった。
「ちょっと!」
聞き覚えのある声と共に地面が一瞬で凍りついたかと思うと、ゾンビ化した人だけ足元も一緒に凍りついた。
「やっぱり、あの教室あんたたちでしょ?」
息を荒げながら右手を前に冷気を操るレイだった。
「何してんだこんなとこで」
「レイ?!」
レイは右手を握りしめ拳を持ち上げると、ゾンビはゆっくりとその場に固定され、レイが拳を勢い良く開くと、亀裂とともに地面に崩れ落ちていく。
「……ハァ。やってくれたわね」
先輩女子はもう言葉を失っていた。
レイは先輩女子に歩み寄り、別人のような声色で話す。
「大丈夫ですか?」
「あ、え、え」
「よくわからないですよね。急にこんなこと」
凍りついた道の中、レイはぼやかしながらも先輩女子に事の説明をした。
正直、レイもなぜこんな事になっているか頭の整理が追いついていなかった。
(これだと初期の方と同じ……今は意識はそのままでゾンビの力だけ付与できるように改良されたはずなのに……)
「どういうこと?」
少し頭痛が引いてきたコースケが問いかけた。
レイはコースケの能力をすっかり意識し忘れていたようだった。
少し驚いて振り向きつつも、冷静を装っているように見える。
「もともと他国に依頼されて進んでた計画なの。上層部は身の安全と金さえあればいい奴らしかいないから」
「何となくその……ばら撒く話は聞いてたけど、もう始まってるってこと?」
「理性がなくなる初期型と、理性を保てる改良型の2種類を依頼してきた国に送る。国内では改良型をばら撒いて一般人を強化する……私はそこまでしか聞かされてないわ。その先どうするのか、何が狙いなのか……」
「何がしたいんだよ」
区民センターからは続々と感染した人々が出てきては、一般人に襲いかかりそのウイルスは次へまた次へと広がっていく。
「私が知るわけないでしょ」
「どうすりゃいい?」
レイは外のゾンビを始末するから、先輩女子の保護と区民センターの中で何が起きているのか確認してきてほしいと4人に頼んだ。
リクは先輩女子の保護、他の三人は区民センターに入っていった。
「アンタ人守れるの?」
「失礼な。確かにシュウが一番強いけど、俺だってやるときはやるんだよ」
リクは先輩女子をその場に座らせ、一緒に側についた。
「何かあったらすぐ言ってください。あんまり詳しいこと言えなくて、すみません」
「うん……」
*
一方、区民センターといえば、中はカオスと化していた。
それなりに大きさがあり、感染した人がウロウロしては一般人は叫び声も上げず抵抗するか、逃げ惑っている。
「やべえな」
「下手に動くと犠牲が増えかねないな……」
「大丈夫、やってみる」
(もしもし、聞こえますか?今頭に直接話しかけています。落ち着いて聞いてください)
コースケは生存者に向けてその力を使っていた。
(今細かい説明はできませんが、非常事態です。私たちは助けに来ました。すぐ助けに行くので頭の中で考え事をしていてください)
「で、どうすれば?」
コースケは思考を巡らせる。
生存者の位置がその思考の大きさや距離から大体割り出せる。
「俺が2人に指示を出す感じで……」
シュウはそのスピードが何よりの強みだが、一般人にしてみれば速すぎて、移動するだけで殺しかねない。
自分たちはトキマサの薬のおかげでデフォルトで身体が多少強化されているため、シュウに超スピードで運ばれようと、少し服が焦げ、少し酔う程度で済むのだ。
一般人なら丸焦げか、衝撃で即死するだろう。
よって、救出はナオヤ、ゾンビ撃退はシュウ、それにコースケが指示を出す、これしかなかった。
「やっぱリク居たほうがいいんじゃね?あいつ血で触手みたいなの出せるし、効率が……」
「いや、リクは物理攻撃が効かない実質不死身だからあっちについてもらってる。それに、このセンター全部を短時間でくまなく調べるにはシュウが適してるし、ナオヤは行きにくいところも静かに出入りできるうえにその力を触れている人に伝えられるから、大丈夫」
思考が特に集中しているのはワクチン接種を謳っている大ホールの方向だった。
「シュウは今すぐ大ホールに行って。助けるよりゾンビを倒して。なるべく一般の人に関わっちゃダメ」
「お、おう……」
中々強い衝撃波の風圧と共にシュウは走っていった。
「ナオヤ、一緒に助けに行こう」
「おう」
(リク、それからレイさん。そっちに余裕が出来そうだったら、こっちにも助けに来てほしい。正直自信がない……)
リクは先輩女子の隣で唇を軽く噛み締めた。
見たところ、レイ1人で場を凌げているし、ここでずっと側についているのも納得がいっていなかった。
「やっぱ俺あっち行くよ。1人で何とかできるだろ」
「……その人はどうするの?」
リクは立ち上がったところで動きを止めた。
この1人のために救えるかも知れない大勢の可能性を捨てるのか、確実にこの1人を守り切るのか。
「こうなっちまった以上、命も質より量、って感じかな。軽く見てるわけじゃないけど、重く見すぎると全て片付いた後に後悔しそうなんだよ」
実際、既に後悔で身体はギッシリ埋め尽くされている。
死ぬまで付き纏うだろう。
「それに、お前いるなら任せられるっつーか」
「……あっそ。じゃあ行けば」
「うん、ありがと」
リクはダッシュで区民センターへと走っていった。
(俺もそっち行く。レイが頑張ってくれるらしい)
(ごめん、ありがとう)




