歪み 1
トキマサは4人がいる場所の少し手前で車を停め急いで駆け寄るが、4人は魂の抜けたような表現が顔に張り付いたマネキンのようだった。
「何がどうなってるんだ……」
久しぶりに花一に会い、家に住まわせてもらうことになった時にはなかった違和感がここ数日急に現れては大きくなっていた。
急にメガネを外す事が増えたり、姿勢や話し方もわざとらしいと思うことが増えていた。
もはや別人かと思わずにはいられないほどに。
一旦花一のことは忘れて目の前の事に集中しようと、トキマサは頬を思い切り押しつぶすように叩く。
トキマサが何度声をかけても返事はなく、4人はピクリとも動くことはなかった。
完全にお手上げ状態で眉間に指を押し当て、首を傾げてみるも、頭がうまく回らない。
一般人達は皆避難し終えると、さっきまでの轟音と悲鳴は嘘のように静寂が訪れる。
無音のビジネス街に5人はポツリと残された。
*
かろうじて被害圏外だった首相官邸では大勢の人々が押しかけ、内部では緊急の会見が開かれていた。
「私どもといたしましても、現状を完全に把握しきれておりません。一刻も早く少年たちの身元を特定し、復興に注力いたします」
総理はマスコミにそうコメントをすると、浅く一礼したあと視線を少し下げながら会見の場を去っていった。
「何が起きている?町一帯がわずか数分足らずで壊滅したというのか?!」
慌てた様子で側近がタブレット端末の映像を見せる。
ついさっき全国に放送された4人の少年が建物を破壊する映像だった。
「これは、人間なのか……?」
「人知を超えた何者か、はたまた宇宙人の類か……」
その映像に映るのは確かにシュウやリク、コースケにナオヤだった。
コースケが空を舞い、リクが超速で走り抜け、シュウが拳を握ればビルが崩壊し、ナオヤがコンクリートを溶かし、ドロドロになったところをまた固めている。
誰がいつの間に、どのようにして撮ったのか、その映像はまるでSF映画さながらのエンタメ、第三者に見せる為に撮影されたような鮮明な映像だった。
「この4人を捕らえるんだ……指名手配だ。額は億単位でも良い……この国が破壊される前に何としてでも捕らえるよう声明を出してくれ」
総理のその言葉が、国内の情勢を一気にかき乱す事となる。
「分かりました……ですが、あのようなバケモノに太刀打ちするにはどうすれば……警察や自衛隊でも敵わないのでは?」
「私も完全に把握は仕切れていないのだが、1つ前の防衛大臣の頃から新しい防衛についての計画が進められているらしい。世界の不安な情勢に対し、核を持たない我が国が他の列強に対抗するための武器を、なんとかかんとか……」
側近も総理の話を聞いて少しピンときた節があった。一時期政府の内部で、ピリピリとした空気が張り詰めていた時期があった。
今は亡き前の防衛大臣のその計画は賛否両論のもので当時は防衛大臣派か、財務大臣派かで派閥が分かれていた。
「人そのものを兵器にする、あの計画ですか……?」
側近は当時の派閥争いでその論争の内容に大きなショックを受けたことから、無意識に深層に大きく記憶が刻まれていた。
「当時世界でも類を見ない天才科学者を雇い、防衛大臣の計画に強引に参加させたとか……薬の開発を任されたその天才科学者は突如姿を消し、時々現れたと思えばその度に顔色は悪くなっていって、結局薬の開発が完成する前に防衛大臣は不審死を遂げてしまったのだとか……」
総理はゆっくり大きく深呼吸をした。
指は微かに震えており、額からの冷や汗がこめかみから頬を伝い、顎まで落ちてきている。
その重みによって汗の雫がピトリと静かに落下すると、総理の足のすぐ横の地面に小さな跡を残した。
「異能を使う人間……異能戦争でも始まるというのか……?」
「ええ、恐らく……なんならもう始まっています。目には目を、歯には歯を……ならば異能には――」
総理と側近の言葉がピッタリと噛み合う。
「異能を」




