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3人は心臓を何かで押しつぶされそうな感覚に襲われた。
小学生の頃からの親友が目の前で引き裂かれたら、まだ16歳の少年たちにとってはただの恐怖でしかなかった。
3人とも、思うように体が言う事を聞かなかった。
「ぁあ、え、リク?」
コースケは特にその瞬間を細かく捉えており、その瞬間に受けたショックは誰よりも大きかった。
言葉が話せなくなっていたリクが、頭の中で自分がここで終わる覚悟をしている声が聞こえていたのだ。
体を掴まれ引き千切られるその時まで、頭の中では想像を絶するであろう恐怖に耐えながらひたすら声を上げていたのをコースケだけは知っていた。
投げ飛ばされた後も、上半身の方からはか弱いリクの声が聞こえており、床に落ちた瞬間、電源を切ったかのようにその声はパッと途絶えた。
コースケは何の声も上げずに頭から倒れた。
頭からは漫画にでも出てきそうなほど湯気が立ち上っている。
「コースケ……?」
「何でこんな……」
シュウとナオヤは生気の無い抜け殻のように、倒れたコースケをじっと見つめていた。
「博士、信号が1つ途絶えました……」
「何?バグか?」
「いえ、先ほど赤色の信号が2つに別れ、逆方向に離れていった後ピタリと止まったかと思うと、信号が消えたのです」
「赤色、2つに別れた……?切断でもされたというのかね……?まあリク君なら心配いらんよ」
花一の家でパソコンで何やら作業をしていたトキマサは唐突な花一からの知らせに一瞬焦ったが、すぐにパソコンに向き直った。
花一からデバイスを受け取ると、黄色の信号を指さして眉をしかめた。
「コースケ君のほうがマズいかもしれん。おそらくリク君がやられたショックでオーバーヒートした」
「どういう事なのです?リクさんなら心配要らないとは……?」
「あれ、言ってなかったか。リク君は細胞がそれぞれ互いに一体となる力を持っている。信号が2つに別れたのはゾンビにひき千切られでもしたんだろうが、いわばそれも細胞が外部の力によって物理的な距離を作られただけにすぎない」
「はあ、つまりは……」
「リク君は物理攻撃で死ぬことはない。木っ端微塵にされようが八つ裂きにされようが、元の形に戻るってことだよ」
トキマサはその小さい丸メガネをクイッと持ち上げ、白衣の襟を慣れた手つきで整えた。
「では、コースケさんのオーバーヒートというのは……」
「まあ、そっとしておけばまた冷えてくるさ。向こうにはリク君がいるし、ワシらはあの4人を信じて場を任せておくとしよう」
「は、はあ……」
――ここはどこだろう。
真っ暗闇の中、自分のことも何も見えない、本当の漆黒の闇の中。
水中に浮かんでいるような感覚、だが呼吸は普通にできるし、明らかに周りに水は無い。
「俺、死んだのかな。だとしたらここは天国か地獄か……」
浮かんでいるが位置が下がり、そのまま沈んでいくのを感じる。
次第にそこに一定の間隔で鳴り響く心音のような音が迫ってくるのを感じると、自分の胸に手を当てる。
(あれ?)
自分の心臓の鼓動を感じられない。
それに、心なしか辺りが真っ暗闇から少し黒みを帯びた深い赤色に変わっていく気がする。
そして、目の前に眩しい一筋の光が見えた――
「なあ、俺の記憶違いじゃなければさ、リクの能力はすごい怪力で、血を操れて、傷がすぐ治るみたいな感じだったよな」
ナオヤがか細い声でシュウに尋ねた。
「いや、あれはもはや傷じゃねえだろ。即死だって、あんなの」
シュウが諦め半分に抑揚のない平坦なトーンで答える。
「どんなにバラバラにされても元に戻ろうとするって、確か博士が……」
「何訳わかんねえこと言ってんだよ」
ナオヤは記憶をたどっていつか聞いた説明を思い出そうとするが、自分の良い都合に書き換えられていそうで確信が掴めない。
シュウはリクの説明は聞いた覚えがなかったので、ナオヤがありもしない奇跡に縋っているようにしか見えなかった。
「あぁ……嘘だろ、嘘だと言ってくれ神様」
「神に頼んで現実になるなら苦労しねえよ……」
そう呟いたシュウがリクの上半身の方を見ると、そこにあるはずのリクの上半身がなかった。
(……?)
反対に下半身の方を見るも、やはりそこにはリクの下半身はない。
「どうした?」
「わ、わっ!えっ?!」
シュウは一瞬、真横にリクが見えた気がした。
なんならリクの方から声もかけられたような気がする。
「ウアァァァ」
「ッガァ、ガ、ゲェエ」
ゾンビ2体が飛びかかる予備動作に入ろうとしたその瞬間、シュウとナオヤの耳にリクの声が入り込んできた。
〈一歩も動くなよ?〉
2人はリクの声を信じて体を微動だにせずピタリと止まった。
その隙を見逃さずゾンビは2体がかりでシュウに向かって飛びかかる。
(え、ヤバくね?)
ナオヤのすり抜けを学習したゾンビはシュウを徹底的に叩こうと共同で襲いかかるが、それも虚しく終わった。
シュウの目と鼻の先で突然2体ともバラバラに切り刻まれ、肉片がゴロゴロと落ちていく。
「えっ、え、うぇえぇ……?」
「何がどうなってんだ……?」
ドロっとした赤い液体が人の形を成すと、それはやがてリクになった。
「あっ」
ナオヤはほっと胸をなで下ろし、シュウは彫刻の像のように固まったまま顎が外れていた。
「よお、どうしたんだよ?そんな顔して」
「ガ、ガぁぁぁぁ……」
シュウは一時的に知能が著しく低下していたようで、ナオヤはリクを見るなり少し吹き出していた。
「お前どうすんだよそれ」
ナオヤはリクの股間あたりを指さして口角を微妙にピクつかせながら笑いを堪らえている。
というのも、リクは一旦身体の細胞を全てリセットし、再構築して復活したので全裸なのである。
服はビリビリのボロボロで着ようにも着れなそうだった。
「あっ、えっ、マジか、ちょっ、見んなよ!!!」
その場でしゃがみ込み局部を隠しながら恥ずかしがるリクを見て、ついにナオヤは堪らえきれなくなった。
「笑うな!!!お前も全裸になってみろよ!!」
「いやーごめんって。にしても新鮮すぎて……」
さっきまでの緊張感が嘘かのように、いつものような和んだ空気感へと変わっていく。
「そうだシュウ、俺に服取って来てくれよ頼む……」
「ぁ?……はっ!?」
やっとシュウに意識が戻る。
「なんかよく分かんねえけど本当に元に戻ってる……全裸だけど」
「シュウさま、服を取って来ていただけないでしょうか」
「え、別にいいけど……全裸だし」
リクに指をさしたシュウは青く火花を散らすと、瞬きよりも早く手に衣服を持った状態で立っていた。
「ほらよ」
「なんとありがたきしあわせ」
少し雰囲気も落ち着くと、倒れているコースケを横目に3人はブロック状の固体に切り分けられたゾンビを見つめていた。
「で、こっからどうするよ」
そう言って3人は互いに顔を見合わせ、肩をすくめては「さあ?」を繰り返すループにハマっていくのだった。




