表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

ゼイン 2

 引き金にかけた指を鋭い声がとめた。

「ヴィー!」

 表通りから光を背負って影が駆ける、おとろえた再現体の不器用なリズムで。

 ゼインは一瞬迷ってから新たな追っ手に銃を向け、最初の一発を放った。バランスを崩したパーシバルが前のめりになって手をついた。

 凍りついていたヴィーが悲鳴をあげて走り寄る。その背中に銃口を定めながらゼインは完全に混乱していた。この者たちはなんだ、なぜ人とリプロが一緒にいる?

 パーシバルは片ひざを立て、首を垂れていた。正面から滑り込んだヴィーか震える手で抱きついた。

「パーシバル……!」

 彼は「大丈夫だ」とささやいて少女をかばう。右の腕、指先は効かなくても守ることはできる。そして闇に隠した左手には、相手と同じホーネットを握っていた。

 彼はゼインから目を離さずに言う。

「少しずつ、俺の後ろに。隙を見て店に逃げろ」

「一緒にいる」

 上着ごと肩がつかまれる。ヴィーの指の細さを感じながらパーシバルはいっそう声を低くした。

「言うとおりにしてくれ、これは俺からの依頼だ」

 彼女は答えなかったが、そろそろと両手をおろしはじめた。

 少しだけふり返り、立ちはだかるゼインをとらえる。彼は全然違っている、ママとも、パーシバルとも。もうリプロではなくなってしまったのかもしれない……

 だったら、そこにいるのは何?

 その瞬間、すばやく立ち上がったパーシバルの手が彼女を後ろへ押し出した。



 二発の銃声はほとんど重なって路地に響いた。

 パーシバルの手が反動リコイルに跳ねあがり、肩を弾丸がかすめる。相手が路地の奥へ身を返すのが見えた。彼は、ヴィーの軽やかな足音が角を曲がったのを確認して相手へ突進した。

 壁をこえようとしていたゼインがパーシバルの頭を蹴り飛ばす。パーシバルはその足にしがみつき、全体重をかけて引きずりおろした。相手は地面にたたきつけられ、「ぐっ……!」と苦しげにうめく。

 そのまま押しつけようとしたが、ゼインはものすごい力を出して同規格のパーシバルを投げ飛ばした。

 彼は壁ぎわの廃材に背中からつっこんでいく。

 なだれ落ちる金属板の中で必死にもがいた時、彼の左肩を硬いブーツの底が踏みつけた。衝撃でホーネットが手を離れ、カチャリと音がした。


 視線をあげた先に、追いつめられた再現体が見下ろしていた。

 手前にある銃口はパーシバルの基幹部をぴたりと狙っていたが、彼が見返したのは相手の顔だった。険しくつりあがった目は周囲にあるどの闇よりも濃かったが、不思議な火が見えない明かりを灯している。

 俺はあの火を持たない、とパーシバルは感じ、あがった息の下から話しかけた。

「お前の身体は、長く軍務に耐えたらしいな」

 ゼインの顔がゆがみ、深い陰影をつけた。

「……ああそうさ。右がだめになるまで十二年と五ヶ月、いい記録だろう。だがまだ動く、少なくともお前よりは」

 彼は笑っていた。パーシバルの冷静な部分が筋道をたぐりよせていく。

「メンテナンス権」

と、ゆっくり告げた。

「お前は有効なIDを奪おうとした。それで最初にアロンソを殺したが、リプロとばれるのを嫌う彼はカードを持ち歩いていなかった」

「再現体の探偵がいるとはね。軍はいつだって重要事項を教えてくれない」

 ゼインの笑みが凶相を帯び、パーシバルの錯覚を呼びおこす。そこにいるのは人間であり、不要な再現体を処分しようとしている……


 一度そう思うと、相手の平坦な口調にさえ秘めたものを感じた。

「あの武器屋は俺のことを不運アンラッキーだと言った。そのとおり、放り出されると同時に保障ぎれだ。この辺境をさまよって……」

「はたらきを終える。俺たち全員が完了のために造られている、自然なことだ」

 パーシバルは目を細め、ゼインの奥底を見ようとした。彼のかかえる不安定な炎、その出所をどうしても知りたかった。

 みずからの完了を捨てても。

「お前はなぜ生きようとする?」

 この単純な問いが、ゼインが盾にしていた感情にひびを入れた。

「俺は……」

 わずかに浮いた視線が過去を一巡する。長い戦いの記憶は水となって感情の裂け目に染み入り、侵食し、圧力をかけて外を目指す。

 砕けた心の下からむきだしの絶望が現れた。

「俺はまだ何もできていない!」

 銃をかまえる手に力が入ったのがわかり、パーシバルは武器を取り戻そうとした。それに気づいたゼインが勢いづけて肩を踏み、同時に狙いを定めなおした。



 つづく一連の動作に声はなかった。

 パーシバルは、ゼインの背後から細い腕が伸び、彼をひと息につかまえるのを見た。

 なにかを叫んだ再現体の顔と、ふり払われたヴィーの小さなシルエット。肩から重さが消えるとともに目の前の銃口が横にそれた。

 身体が動く。


 無意識に探りあてたグリップを握りしめた。引き金は確かな意識をもってひかれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ