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リプロダクション

 俺は目を開けている。

 開けているはずだ、しかし光が消えていく。光は時間だった、と彼は思い出し、それをつかもうと暗がりに手を伸ばした。

 機能停止までの数秒間、側面をえぐられた人さし指が少しだけ上下した。それが終わると、彼をさいなむすべてのものはいつわりのない闇に溶けた。



 路地の奥は静まりかえっていた。

 二体の再現体。一方はあおむけに倒れていて、広がったコートがそれを羽虫のように見せていた。もう一方は壁ぎわに座り込み、まわりを取り囲むがらくたと同化して見えた。

 人間の少女が駆け寄ったが、再現体はその手を押しのけてよろよろと歩き出した。

 相手が最後に撃った一発が左脚をつらぬいていて、武器屋の忠告どおりホーネットの欠陥が指を削っていたが、どちらも大した問題ではない。再現体どうしの殺し合い。これも問題にならない、都市に暮らす人々の誰が気にするだろう。

 仕事は完了した。


「パーシバル」

と呼ばれ、彼は自分の名前を思い出した。

 不格好な歩みをとめず、「これで終わりだ」と答える。

 ゼインが残した叫びが思いがけず彼の中で鳴り響いていた。まだ何もできていないとあの再現体は言った。

 では、この俺は?

 リプロダクションとしての正しい完了を求めながら、結局は何をしてきたのだろう。

「待って」

 ヴィーの声が追いかけてきたが、彼は機械的に返した。

「ここを離れろ。母親のもとに帰れ」

「ママはもういない!」

 彼女はその一言に感情を爆発させた。

 パーシバルはふり返る。ヴィーには、やっと絞りだすかすれた声しか残っていなかった。

「いないの。誰も……」

 その声も途絶え、音を失った唇と頬が震える。白い両手を持ちあげて顔をうずめた。

 この子は器用ではない。俺たちに似ている、とパーシバルは気づく。

 けして交わらない二本の線がある。それが揺れた時、ふくらんで近づきあう曲線の頂点にいる者。片方は彼女で、もう一方にはゼインが立っていた。

 線は今も動いている。そしてヴィーは安定を、感情を落ちつけるための重りを求めている。

 俺という重りを与えたとして、長くはもたない。


 確かな考えを抱きながら、しかし彼は少女を突き放すことができなかった。

 濡れたような影の中にふたりは立っている。通りから流れてきた喧騒の上に、ヴィーの弱く透明な声が落ちた。


「行かないで」


 そのとき保障ぎれの再現体の頭に浮かんだのは、居室に置いている古びたソファーだった。

 意識は足もとのボール箱へ、さらにそこにしまってある補助燃料に絞られていく。依頼人からの特別手当…… 次に使うと決めていた。

 俺はそれを果たしていない。

 自身の執着と、執着をむけられる感覚。それは彼を少しだけ楽観的にした。

 結局なにができたのかという問いへの答えは、残りの三ヶ月間、もしくはもう少し長い時間の中にあるかもしれない、と。


 脚を引きずり、ゆっくりと歩き出す。

 固まりかけた手がうつむいた背中にとどく。ヴィーは顔をおおったまま身体をあずけてきた。

 暗い部屋に座り闇を待つには、まだ早すぎるようだった。




                      ( 了 )

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