ゼイン 1
酒を飲むふりにも疲れ、彼は早々に店を出た。
暗い色の目には怯えが貼りついていて、神経質に通りを見渡す。耳は、あの不規則な足音を探していた。
なぜリプロが自分を追う?
あのラッキーボーイに仲間がいたとは思えない。当局か企業に連絡がいったのだろうか。居室が見張られているかもしれない、このまま帰るのは得策ではない……
進めかけた足をとめた時だった。
「ゼイン?」
ささやく声が名前を呼び、彼は反射的にふり向いた。
夜の風が未舗装の道を駆け抜ける。舞いあがったコートのむこうに小さなシルエットが見え隠れした。子どもだ。彼は低く冷たい声で聞いた。
「誰だ」
「バイオレット・ドラシア。フェンス補修の、作業員の妹」
ゼインはまばたきをして相手を見据えた。
右足を引きずった若い男。
撃ち抜いた背中から赤い血がはじけたその瞬間、ゼインの世界が反転した。彼は二つ目の心臓を砕き、世界は裏返った状態で永久に固定された。
少女は帽子をとり、足を踏み出す。
「犯人は、人間だと思ってた」
距離をあけて立ちどまり、黒い瞳で彼を見上げてくる。
「話がしたいの。あなたは、どうして仲間を……」
同じ色と、同じ緊張。恐怖。
見つめあったわずかな時間、彼らは奇妙に均衡していた。
だがゼインはもはや人間よりも弱かった。彼の思考は自分という一個体のために回転する。子ども、再現体ではない、民間人。自発的に害してはいけない。
しかし撃てるのだ、必然だと信じさえすれば。
俺は身をもって知っている。
すばやく引き抜かれた銃がヴィーの心臓を狙った。




