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ダーク

 居室に戻った時には夜になっていた。

 パーシバルは照明をつけずソファーへむかい、銃をしまうと身体を投げ出すように座った。四肢が重く感じるのは燃料の問題だ、と彼は自分に言い聞かせた。

 ひさしぶりに掲示板の前に立ち、貼り紙ではなくやってくる人々を見定めて話しかけ、ようやく探偵らしい仕事をしているという男の名前を聞き出す。それから本人に会い、事件の詳細を引き渡してから1300号室を教え……

 製造後の訓練から従軍時代を通し、これほど疲れたのは初めてだった。

 珍しく独りごとをこぼした。

「これで終わりだ」

 あとは目を閉じるだけでいい。少しの明るさを感じるが問題はない。二度と開かなければ、やがて光は本当の闇に変わる。


 首をそらし、背もたれに頭をあずけた。それから彼は身動きひとつしなくなり、窓から流れてくる外の音だけが暗い部屋を行きかった。

 少しの時間が過ぎた時。

 突然、背後のドアが強くたたかれた。

「パーシバル・ダーク? 私だ、キッドソンだよ」

 先ほど別れてきたばかりの“探偵”だ。

 パーシバルはすばやく身を起こした。急いでドアを開けると、小柄な初老の男はコートの襟の陰から「知らせとこうと思ってね」とささやいた。

「言われた部屋に行ったが留守だったよ。階段に転がってた者に聞いたら、帽子をかぶった男の子が走っておりてったそうだが、その子が依頼主かね?」



 ヴィーは夜の街にいた。

 パーシバルが残していった地図を握りしめ、何度も見なおして少しずつ進んでいく。すれ違った男女が卑猥ひわいなからかいの言葉を投げてきて、彼女は慌てて帽子を引きさげた。

 人ごみを抜けてにぎわいは遠くなる。街灯をこえて路地に折れると、細長い建物たちがとたんに陰気な影をまとって一面にそびえ立った。

 別の世界に踏み込んだのを肌で感じた。

 番地を確かめた彼女は、ひとつの居住棟の入口をくぐった。

 リフトを避けて階段をあがる。一歩ごとに心臓が大きく膨らみ、額から冷たい汗が流れた。紺色のドアの前に立つと、深呼吸してから背筋を伸ばした。

 細い手が呼び鈴を押す。

 しかし応答はない。ヴィーは数回ドアをたたいてみたが、物音はしなかった。

 心の底でホッとした時、「おい、うるせえぞ!」ととなりの部屋から男が顔を突き出してきた。ヴィーは身体ごと飛びあがる。

 中年の男は怪訝けげんそうに彼女をにらんだ。

「なんだ、ガキじゃねえか。そいつになんの用だ」

「か、顔を見に……」

「兄弟か?」

 思いもよらない質問をうけ、ヴィーは息がとまりかけた。エカートを奪ったリプロは、私と似ている?

 引きつった顔にどんな事情を感じとったのか、男は一転してやさしい声になった。

「角のバーにいるかもしれねえよ。行ってみな」

 駆け出したヴィーの背後で扉が閉められる。それは引き返す道を完全にふさぎ、彼女をふたたび闇の中へ押し出した。

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