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第三話 立川駐屯地の昼食

立川駐屯地での訓練初日。


基礎体力測定を終え、早くも限界を迎えた繁。一方、晶は相変わらず元気いっぱい。

そんな二人を待っていたのは、吉川教官のおごりによる昼食でした。


さて、立川駐屯地の名物料理とは?

 2027年 10月12日 昼 定員食堂


 基礎体力測定が終わった頃には、繁はすでに限界だった。

 芝生の上に座り込み、大きく息を吐く。

「……死ぬ」

「死んでない」

 隣で晶が平然と言った。

「いや、俺の気持ちの話」

「気持ちなら問題ない」

「お前、本当に俺の兄弟じゃなくて良かったと思うよ」

「妹には言われたことがある」

「あるのかよ」

 少し離れた場所では、吉川が腕を組んで二人を見ていた。

「……」

 その横で、近藤が小さく呟く。

「おかしいですね」

「何がだ?」

 吉川が聞き返す。

「二人とも、基礎能力が高すぎます」

「まあ、普通の高校生じゃないな」

「違います」

 近藤は真剣な顔で首を振った。

「高いという表現では足りません」

 吉川は苦笑した。

「まあ、昼飯にしよう。腹が減っては訓練にならん」


 食堂。

 昼時ということもあり、多くの隊員が行き交っている。

 しかし、吉川が選んだのは少し離れた六人掛けのテーブルだった。

「今日の昼飯は俺のおごりだ」

 三人が顔を上げる。

 吉川は笑う。

「せっかく立川まで来たんだ。名物を食べて帰らないとな」

「名物?」

 繁が首を傾げる。

「立川ランチだ」

 その瞬間。

「本当ですか?俺は大盛りで」

 加藤が食いついた。

 吉川は笑った。

「加藤、お前好きそうだな」

「分かりますか?」

「朝から見ていれば分かる」

「さすがです!」


 近藤はメニューを確認する。

「私は、バッカン茶碗蒸しで」

 繁が首を傾げる。

「……すみません」

「はい?」

「それ、昼飯ですか?」

 近藤は不思議そうな顔をした。

「はい」

「茶碗蒸しですよね?」

「はい」

「だけ?」

「あと少しあります」

 繁は安心した。

「ですよね」

 しばらくして。

 運ばれてきた料理を見た瞬間、繁は固まった。

「…………」

「どうした?」

 加藤が聞く。

「いや……」

 繁は目の前の皿を見る。盛り付けられているのは、どれも見慣れたものだ。だが、量が半端ない。

「立川ランチって……こういうものですか?」

 加藤は笑った。

「食えば分かる」

「説明になってない」

 隣では晶が加藤の大盛りを見る。

 ちらり。

「……」

 そして小さく舌打ちした。

「?」

 繁が気付く。

「お前、今なんか言った?」

「何も」

「いや、言っただろ」

「腹が減っただけだ」

「お前、朝も普通に食ってただろ」

「動いたからな」

 繁はため息をついた。

「俺、もう食欲ない……」

「食え」

 加藤が即答する。

「午後は格闘だぞ」

「え?」

 繁の顔が引きつる。

「午後……格闘?」

 晶は普通に頷いた。

「当然だ」

「お前に言われると腹立つな」


 そこへ近藤のバッカン茶碗蒸しが届いた。

 繁は目を疑った。

 飯盒ほどもある容器に、八分目まで茶碗蒸しが詰まっている。

「……近藤さん」

「はい」

「それ、一人分ですか?」

「違います」

 繁は安心する。

「あ、ですよね」

「小盛りです」

「…………」

 繁は言葉を失った。

 加藤が笑う。

「食文化に慣れろ」


 食事をしながら、繁がふと思った。

「そういえば近藤さん」

「はい?」

「俺たち、本当に一ヶ月ここにいるんですよね?」

「そう聞いています」

「普通じゃないですよね?」

 近藤の箸が止まった。

「……」

「近藤さん?」

「普通ではないですね」

 繁が嬉しそうに晶を見る。

「ほら!」

「何がだ」

「やっぱり俺の感覚がおかしいわけじゃない!」

 しかし近藤は続けた。

「ただし」

「はい?」

「すでに正式な訓練計画として決まっています」

 近藤は真っ直ぐ繁を見る。

「理由が分からないからといって、午後の訓練をしなくていいことにはなりません」

「…………」

「食べてください」

「はい」

「午後は格闘です」

 繁は晶を見る。

「……」

 晶は黙々と食べていた。

「晶」

「何だ」

「助けて」

「食べろ」

「お前もそっちかよ!」

 横で加藤が笑う。

「青葉。近藤を味方につけようなんて十年早い」

 繁が言い返す。

「加藤さんは晶と遊んでればいいじゃないですか」

 その瞬間。

 加藤の箸が止まった。

 晶が顔を上げる。

「午後、楽しみだな」

 加藤はニヤリと笑った。

「……おう」

 繁だけが嫌な予感を覚えた。


訓練も規格外なら、食事も規格外。


どうやら立川駐屯地では、茶碗蒸しの「小盛り」も普通とは少し違うようです(笑)。

そして、ようやく自分の理解者を見つけたと思った繁でしたが、近藤さんはやっぱり近藤さん。


午後はいよいよ格闘訓練。

加藤と晶、どうやら妙なところで意気投合してしまったようです。

繁の受難はまだまだ続きます。

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