第4話 早期解決に向けて
友好都市の観光を中断し、魔法規制課のオフィスに戻ってきた。
昇降機を降りてオフィスの方を覗くが戻ってきている職員はいないようだ。
「アミ管理官はこいつを連れてこっちに来いと言ってたけど……何をする気だ?」
「何かお考えがあるのでしょう。それよりジョンさん、軽々と担いでいますが……身体強化魔法を使ってます? 魔力は感じられませんが……」
ソフィアが俺の周りをぐるぐる周りながら俺が魔法を使っているのではないと疑っている。
ソフィアが捕らえた違法魔導具使用者の男は俺が自分の筋力で担いでいる。気絶しているから若干重いが、暴れられるよりマシだ。
「これぐらいなら魔法はいらねぇかな……」
「流石はノースランドの英雄……! 魔法に頼らない戦い方も熟知されているという事ですね!」
ソフィアが目を輝かせ始める。そういう訳では無いのだが……そういう事にしておくか……
「おお、本当に捕まえて来るなんて……ストレートに観光しておいでって行った方が良かったかな?」
アミ管理官は苦笑いしながらこちらに歩いてきた。
……やっぱりあの命令は観光して来いって意味だった訳ね。
「……犯人捕まえてきたらまずかったですかね」
小声で俺に耳打ち……翼で繋がっているとは言え、ソフィアの口と俺の耳に距離がある。なのに耳元からソフィアの声が聞こえてくる。風魔法の応用か?
さっきも風に乗るとか言ってたし、風魔法が得意なのは本当のようだ。
俺は少し屈んでソフィアに耳打ちする。
「……まぁ、大丈夫だろ」
「捕まえたものはしょうがないからねぇ! まずは取調室に行こうか! こっちだよ!」
アミ管理官はそう言って歩き始めた。取調室か……男がすぐに教えてくれれば良いんだけどな……目が覚める時間も込みで。
◇◇◇
「……うげぁ!? げほっ! な、なんだぁ!? なんで水をぶっかけられて……!」
アミ管理官は取調室の椅子に男を座らせてロープで括り付け、コップ一杯の冷水を顔面にぶっかけた。俺とソフィアは部屋の隅っこでアミ管理官の尋問の様子を見学中のため、黙ってその様子を眺めている。
「おはよう少年。起きて早々に悪いんだけど、あなたが乗っていた魔力の出力を違法改造したホバーボードをどこで手に入れたのか……お姉さんに教えて貰っていいかしら?」
「お、お姉さんって年齢でもないだろ、おばさん! しかもそんなだらしねぇ体で青少年の心を動かせると思ってんのか!? 痛々しいぜ! でかいのは乳だけにしてほしいよ!」
……世間知らずのガキンチョだなぁ。
アミ管理官は笑顔のまま、男の前髪を上にひっぱり、目と目が合うように顔を近づける。
「……テンプテーション」
「あがっ!?」
テンプテーションは精神操作系の魔法であり、相手に自分を魅力的な存在だと思い込ませ、自分の思い通りに命令して操る事ができる。
魔族のサキュバスが得意とするそれは、構造がまだ解明されておらず人族が扱えない魔法の一つである。最もこんな魔法が解明されて悪用された方がヤバイのは明らかで、法律上も一部例外を除いて使用を禁止されている。
「もう一度聞くわよ? ホバーボードはどこで手に入れたのかしら?」
アミ管理官の口調が強くなる。まぁ、あんな事言われれば機嫌悪くなるよな。
「はい! アミ様! アイアンポット通りの外れにある、マジックアイテムショップです! 店名はマジックセル! どうか、その包容力のある体で俺を包み込んでくださいますか!?」
……場所は大体わかったけど、おかしな事も口にしてるぞ。
「アミ管理官? そいつ、大丈夫なんですか?」
「副作用みたいなものだから。さて、少年、どうして違法な魔導具を買っちゃったのかな? 知らずに買った訳じゃないでしょう?」
尋問を続けるアミ管理官。
「はい! アミ様! つえー魔導具を持ってると女の子にめちゃモテるからです! でも、今の俺はアミ様に認められたらそれで良いっす! 付き合って三ヶ月の彼女も捨てます! どうか俺をアミ様の下僕にしてください!」
変な情報の比率が増えてきたぞ……テンプテーションも万能じゃ無いんだな。
それにしても安直な動機だ。犯罪を犯してまでする事か?
アミ管理官が右手の指で音を鳴らすと、男は糸が切れたようにぐったりしてしまった。呼吸はしているし、また気を失ったっぽい。
「……アミ管理官? そ、その人、大丈夫なんですか?」
ソフィアが男の事を心配する。
「大丈夫大丈夫! 副作用もない安全安心の魔法だから! テンプテーションで相手を壊しちゃったら意味ないでしょ?」
普段のアミ管理官が戻ってきた。
明らかにヤバそうな状態だったけど……資格持ちが言うんだからそうなのだろう。
あまり深く踏み込みたくないし、 話を違法魔導具の件に戻すか。
「……アイアンポット通りだと、残りの二人が逃げて行った方角ですね。中心街からはずれるし、多少治安が悪いんですよねぇ……」
治安が悪いと言ってもミドラルの治安の良さと比較しての話である。
地方のスラム街に比べたら可愛いものだ。だからこそ魔法を使った軽犯罪が増えているとも言えるが。
「アミ管理官、私達もマジックセルと呼ばれるマジックアイテムショップに乗り込むべきですか?」
ソフィアがうずうずしながらアミ管理官に尋ねる。
仕事熱心な子だ……おじさんはちょっと疲れたよ。
「うーん……いや、近くにいる捜査官達に行かせるよ。初日からこんなに働いて疲れてたでしょ? 用ができたら呼ぶから休憩室で休んでなよ」
「わかりました!」
元気よくアミ管理官に返事をするソフィア。上官命令に刃向かわずにしっかり忠実なのはヤル気勢にしては珍しいタイプだな。
「上官命令なら仕方ないっすねぇ。ああ、そうだ、通話できる魔導具って、支給されてるんですよね? 受け取っておいても良いですか? 今回も応援を頼めたかもしれない状況だったんで」
実際、ソフィアがいなかったら取り逃していた可能性が高い。
ああいう場面は集団で包囲網を敷くのが一般的だろう。
「仕事させたくないから渡してなかったんだけどね……まぁ、良いか。休憩のついでに使い方とか覚えておいて、はい」
アミ管理官はコートのポケットから手の平サイズの板状の魔導具とその説明書と思われる紙を取り出し、俺とソフィアに手渡してくれた。
「おお、やっぱ最新式のコミュークなんですねぇ。俺が前線にいた時はもっと分厚かったですよ」
魔力回路が日々最適化されているんだなぁと感動を覚える。
「ノースランドの魔導具開発は本当にすごいねぇ。じゃ、ジョン君は使い方大丈夫な感じね。ええっと、ソフィア君は……」
俺とアミ管理官がソフィアの方に視線を向けると、ソフィアはいろんな角度でコミュークを眺めながら、頭に『?』を浮かべている感じだった。
「アミ管理官、ソフィアには俺から教えときます……」
「……よろしくね」
この子は魔法に強いんだか弱いんだか……
◇◇◇
「うわ! すごいですねこれ! 魔力を込めて念じると、イメージした相手と会話できるんですね!」
二人っきりの休憩室でソフィアにコミュークの使い方を教えると、ソフィアは早速俺のコミュークと接続して通話を始めた。適応力が早いのは若い奴の特権だなぁ。
「いや、この至近距離で使う事ないだろ……あと、魔力だけ込めると、画面に登録されてる連絡先が表示されるから、それを選んで通話もできるぞ。本部とか他の捜査官全体に連絡する時はその機能で……今は絶対使うなよ?」
「つ、使いませんよ!」
ソフィアのコミュークの画面に映る魔法規制課の文字。危なかった。
「それより、サンライトだとコミューク使わないのか? 遠方に連絡する時不便だろ」
「うーん、ある程度の距離なら風魔法で何とかなりますからねぇ……」
ソフィアはコミュークのおまけの撮影機能で俺を撮りながらそう言った。
「さっきも少し離れた距離で俺の耳にソフィアの声を聞かせてたよな……犯人捕まえた時も俺の魔法の軌道を変えたり、自分が風に乗って高速移動したり……どれも俺の知ってる風魔法の使い方と違うぞ」
「風魔法ってこういうものじゃないですか?」
きょとんとするソフィア。俺が間違ってるのか……人族の理解が間違ってることになるぞ。
「もっとほら、風で敵を切り裂いたり、突風で敵を吹き飛ばしたり……上位だと竜巻を発生させたりもするよな?」
「風魔法は何かしらを風に乗せて運ぶものですよ? ジョンさんの言った効果も実現できますが……」
ソフィアと俺とで魔法の認識が異なるようだ。
俺の《《精通している》》とソフィアの《《精通している》》という言葉の意味にギャップがある。
ソフィアにとって魔法は……
『こちら! 魔法規制課のメイベル! アイアンポットの違法魔導具店の店主に事情聴取を試みた所、いきなり魔法で攻撃された! 現在も店主は店に立てこもっている! かなり厄介な魔法で現場のメンバーじゃ手が出せない! 近くにいる者は応援を頼む!』
俺とソフィアのコミュークに伝令が入る。音声が重なりそうだったので俺の方は咄嗟に切ったが……現場は大変な事になっているようだ。
「ジョンさん! 行きましょう!」
立ち上がるソフィア。そうなるよな……
「ここから遠いし、俺達は休憩しろって言われてるんだけどなぁ……んー、いや、良い機会だ。アレで行こうぜ」
「アレとは何ですか?」
「配備されてるでっかいホバーボード的な奴。二人乗りだから運転は俺に任せろ」
「そんなものが……! よろしくお願いします!」
休憩室を出て昇降機に向かう俺とソフィア。
こういう時のためにあるんだから使うしかないよな!




