第5話 マジックセルでの攻防
「おお、これだこれ。一回教習で乗ってから、ずっと表で乗り回したかったんだよな」
「巨大な金属の瓶? 座席やハンドルはついてますが……跨って乗るんですか?」
ソフィアが瓶と評したこれはジェットブルームと呼ばれる乗り物。
魔力を込めると地面から浮き、さらに魔力を込めると瓶底に位置する推進装置によって高速で移動できる代物だ。
「ソフィアの風魔法の移動に比べたら遅いかもしれんが、魔力の消費を抑えて最大限の効果を出すのが魔導具の良い所だからな」
そんな事を言いながらジェットブルームの操縦席に跨る。教習所と同じだ。問題なく操作できるな。魔力を少し込めると起動して、ゆっくりと浮かび上がる。
「風圧があるからゴーグル推奨だ、ほれ」
ジェットブルームにぶら下がっていた防護用のゴーグルの一つをソフィアに投げ渡し、俺もゴーグルも装備する。
ソフィアはゴーグルを身につけると恐る恐る後部座席に跨り、両手で俺の腰辺りを掴む。
「よぉし、飛ばしていくぞ。しっかり掴まれよ」
「ジョンさん。これだけ大きいと資格のような物が必要なのではありませんか?」
……
「今、この国にこいつを扱う法律は無い。2階の窓の高さでの空中移動を取り締まる法律もな!」
「せ、せめて安全運伝で」
ソフィアの発言を聞き終わる前にハンドルに魔力を込めながらレバーを引く!
浮上しながら急加速し、一気に屋内から外へ飛び出す!
空中で横回転しながらアイアンポット通りに向かって加速!
ソフィアがなんか叫んでいる気がするが、風切り音でよく聞こえない!
やはりこの乗り物は気持ちが良い! 民間で販売されるようになったら流行って規制されそうだが……しばらくはこの自由な空をずっと独占していたいな!
◇◇◇
アイアンポット通りを突き抜け、無事に目的であるマジックアイテムの店に到着。
魔力の出力を抑え、ゆっくりと地面に降りる。
「おお……到着しましたか……自分で制御できない移動って怖いですね……」
先に地面に降りたソフィアがふらつきながらジェットブルームの感想を述べた。
「このじゃじゃ馬を制御するのが楽しいんだよ」
俺も地面から降り、ソフィアと一緒に近くにいた人族の女性捜査官の元へ向かう。
「すみませーん、伝令を聞いて応援に来たんですけど」
「ん? 誰だ君達は……見た事がない顔だが、制服は魔法捜査官……あ! 今日から配属の新人!?」
「本日より規制課に配属になったジョン・ロックです」
「同じく、ソフィア・コルウスです!」
俺とソフィアは同時に共通敬礼を行うと、女性の捜査官も共通敬礼を返してくれた。
「メイベル・スターマークです! アミ管理官からお二人は街を観光中とお聞きしていましたが……」
メイベルは俺達の後ろにあるジェットブルームをちらっと見ながらそう言った。
俺達がコミュークを持ってない時そう伝令されていたようだ。
「まぁ、緊急事態だと思うんで。相手が魔法を使っているなら人数多い方が良いでしょう?」
都合の悪い事を誤魔化すために話題を変える。
「それはそうなのですが……魔導具で防御魔法を展開されてしまって、魔法が通らない上に物理的介入も難しく……」
メイベルが現場の方を振り返ると建物全体が魔力を纏っており、他の捜査官が手を出してない感じ、歯が立たない程の強度のようだ。入口は特に魔力量が多い……なるほど厄介だ。
「しかし、我々が包囲してる限りは立てこもってる人も逃げられないですよ?」
ソフィアが要塞の欠点を口にする。
裏口が路地に繋がっていない区画なので表を押さえれば相手も出てこれない。
「それが透視を使ったら中で魔法陣を書いているようでして……状況的に転移魔法を実行しようとしているのではないかと」
「転移魔法!?」
思わず叫んでしまい咄嗟に口を抑える。
メイベルが透視魔法を使えるのは置いておくとして、素人の転移魔法なんて危険すぎる! 犯人だけの被害ならまだマシで、周囲を巻き込む事故になる可能性もある!
「メイベルさん、早く止めないと!」
ソフィアも転移魔法の危険性を理解している。むしろ捜査官であれば全員が理解しているはずだ。
「そうしたいのですが先程もお伝えしたように、防御魔法で手出しできないんですよ!」
困ったな……こうしている間にも魔法陣が完成に近づいていく。
転移魔法クラスになるとすぐには完成しないだろうが、向こうには時間が山程あるわけだ。
「おい! 転移魔法なんか使うんじゃない! どれだけ危険かは魔法を扱う奴なら理解しているだろ!」
「うるせー! だったら捜査官全員俺の店から離れやがれ!」
男性の捜査官の呼びかけに反応する犯人。若い男の声のように聞こえた。
「……音が通るんですね? じゃあ、どうにかできるかも」
ソフィアは今の会話で何かに気付いたようだ。
「どうするんだ? 風魔法でも通らないと思うぞ?」
風魔法は目に見えにくいが魔力を含んだ風のため防御魔法の対象になってしまうはずだ。
「季節外れですが、お店の前で焚き火をしましょう!」
ソフィアはいたって真面目な表情で焚き火を提案した。
……どういうことだ?
◇◇◇
「炎よ……目の前のゴミを燃やせ」
近隣住民の手も借りて焚き火の準備が整い、俺の炎魔法で火を付ける。
マジックショットを使わずとも、俺の極小の魔力による魔法でゴミが燃え始める。
「煙がひどいな……で、どうするんだソフィア?」
「風よ」
ソフィアがそう唱えると焚き火の煙が建物に吸い込まれていく。
なるほど? 音が通るなら空気は通ると判断したのか。しかし、普通の家なら換気に気を使って設計されているはずだし、他の窓から煙は抜けてしまうのでは……
案の定、扉の横の窓から煙が漏れ……漏れない。少し煙が見えたが風が吹いて押し返されてしまった。まさか……ソフィア、お前!?
「向こうから出てきて貰えば話は早いですよね? 中の方ー! そのうち煙たいだけじゃなくて空気が薄くなって最悪死ぬかもしれないので、早く出てきた方が良いですよー!」
ソフィアの呼びかけに返事はなく、代わりにゲホゲホと咳き込む音が聞こえてきた。
「え、えげつねぇ……」
「まぁ音がしなくなったら、一気に煙は外に出しますので」
うーん、俺より年下とは思えない冷徹さだな。
そんな事を考えていたら足音がこちらに近付いてくる……!
入口から人族の男性が咽せながら飛び出してきた!
「げほっ! げほっ! 何てこと、しやがる!」
「動くな! もう逃げられないぞ!」
メイベルがマジックショットを構え叫ぶと他の捜査官達がマジックショットを男性に向ける。
……俺も構えなきゃ。
マジックショットを持たないソフィアはいつでも飛び立てるような姿勢で男を睨んでいる。
「へっ! 何も考えずに外に出たと思ったか間抜け共! 魔導具の店の店主が本気になれば……パーフェクトガード起動!」
男が魔導具を発動させる!
一瞬で男の周囲に球体の防御魔法が展開されてしまった。 男が一人入る程度の大きさだが……空間が歪む程度に魔力量が高い。ここまでの魔力を込めた魔導具を作れるのは相当な技術と魔力を持つ者だが……当然、許可なく作るのは違法、立派な違法魔導具だ!
「おい! どこでその魔導具を手に入れた! 」
「誰が言うかよ! それにお前らはここで終わりだ! 一方的に魔法を喰らう絶望を知るが良い!」
俺の言葉を無視して、男は別の魔導具を取り出す。
魔力強化の杖! 普通に魔法も使えるのかこいつ!
「雷よ! 防御魔法を破壊しろ!」
メイベルさんのマジックショットが放たれる!
それに続いて他の捜査官もマジックショットを放つ!
……が、男の防御魔法を壊せない!
「無駄無駄! 今度はこっちの番だぜ! 炎よ! 我が魔力を糧に偉大な炎の精霊の力を見せたまえ……!」
まずい! 男が詠唱を始めやがった! しかもこの入りは長めの高威力の奴!
「ソフィア、煙を中に送り込んで詠唱を止められないか!?」
「流石にどこかに抜けてしまいますよ!」
ダメか! だったら……!
「ソフィア! 俺を風であいつのところに吹き飛ばせるか?」
「で、できますけど、何をする気ですか!?」
「良いから!」
「風よ!」
背中に凄い風圧を感じた瞬間! 俺の足は地面を離れ、俺は男に向かって吹っ飛んでいく!
「ぐえっ!?」
防御魔法に激突! 魔力を帯びているものは全部通さない系かよ!
「バカが! 至近距離なら何とかなると思ったか!? 高い金払った魔導具に隙なんかねぇんだよ!」
男は勝ちを確信したように俺を煽る。
「……詠唱を中断したな?」
「だから何だってんだ! 無敵の俺はゆっくり魔法を詠唱し直すだ……け?」
マジックショットの銃口を防御魔法の中に突き刺す。
カードリッジの入っている部分で止まってしまったが……十分だ。
「戦時中も防御魔法はこうやって突破されたんだ。知らなかったか?」
「や、やめろ、こうさ」
「炎よ! 防御魔法内の男の装備品を焼き尽くせ!」
マジックショットのトリガーを引き火属性の魔法を発動!
防御魔法の中で炎が暴れ狂う!
「ぐぎゃあああああああ!?」
大事になる前に防御魔法が消え、ほぼ同時に炎も消える。
残ったのは全裸姿で倒れている男だけだった。
「……大人を舐めるもんじゃないよ」
正直、ソフィアばかり活躍していて申し訳なかったからな。
良い機会を作ってくれて感謝する。お礼に刑期もプレゼントだ。




