第2話 違法魔導具
巡回していた警察官に捕まえた窃盗犯を引き渡し、盗まれた荷物も元の持ち主に無事に渡す事ができた。改めてこの件は解決と言って良いだろう。
「あの男性、大丈夫でしょうか。違法な身体強化魔法のせいで足の筋肉がボロボロになってましたよね?」
オフィスに向かう足で心配そうにソフィアが俺に尋ねる。
確かに犯人の両足は炎症を起こし真っ赤になっていた。あれは筋繊維が酷いことになっているだろう。身体強化魔法はシンプルゆえにこの手の副作用が起きやすく、下手に使うとこうなるのだ。
「自業自得だろ……ああ、違う! じ、自業自得ですよ! それにあれぐらいなら治癒魔法で回復できる範囲かと! しかし、その、ソフィアさんはお優しいですな!」
気を付けないとすぐに言葉遣いが素に戻ってしまう。ソフィアは年下だろうけど、仕事仲間として敬意を持って接しなければ。
「ふふ……! ご、ごめんなさい! 話し方がぎこちなさすぎて面白くて……! 私には敬語とか使わなくて大丈夫ですよ! 普段通りでお願いします!」
ソフィアに笑われた上に気を遣われてしまった。
「すまんね、育ちが悪くて……ソフィアが笑って仕事に支障が出たら困るし、いつも通り行くよ。ああ、ソフィアも敬語とか別にいいからな?」
「私はいつもこんな感じなので! お気遣いなく!」
普段からエリートらしく丁寧な暮らしをしてそうだな。手入れが面倒そうな羽とか手入れが行き届いてるようだし。その割には手荷物が少ないんだよな……既に転居先に他の荷物は送っているのだろうか。横を歩くソフィアを見ながらそんな余計な心配を抱いてしまう。
……というかこいつ、飛ばないんだな? ハーピーって飛んで移動するものだと思っていたが……普通に俺の歩幅に合わせられるぐらいには健脚っぽいけども。
「それにしても空が狭いですねぇ、ミドラルの街は……」
空を見上げながらソフィアがそんな感想を漏らす。
「ああ、この辺は土魔法で高層まで構築した魔法建築ばかりだからなぁ。土地の有効活用としては良いと思うが、どうにも風情がなくて俺は好かんね」
今はまだ良いが、この手の建築が増えるとそのうち自分がどこにいるか迷いそうだ。俺がガキの頃は城以外の建築物はせいぜい四階程度だったのに……魔族との交流で文化が一気に押し進んだ弊害だ。
「これも時代の流れってやつですかね……サンライトは星空が綺麗なのですが……」
腕組みしながら大人びた事を言うソフィア。
「まぁ向こうは観光地になってるし景観法とかやらで守られるんじゃないか? 知らんけど。おっと、着いたぞ」
「ここが! そ、そろそろ首が痛いです……」
高層建築群の中でも最も高い建物……連邦捜査局の本部だ。
ここが俺とソフィア……魔法捜査官の拠点になる場所だ。
◇◇◇
建物内の高層移動用エリアの入り口にはゲートが設けられているが、警備員が俺とソフィアの腕にある魔法規制課の腕章を見ると無言でゲートを開けてくれた。魔法捜査官のオフィス区画は六階、昇降機にソフィアと乗り込み操作板に手をかざし、「六階!」と念じる。
「おお、動きました! 話には聞いていましたが便利な魔導具ですね!」
上層に移動する昇降機に感動するソフィア。
「ぼんやり操作すると階層間違えるんだよな、これ。というか、初めて?」
「はい! サンライトにある建物の高さ的にこの手の装置は無くても良いので!」
「ああ、なるほどね」
サンライトには戦時中に一度だけ訪れたことがある。気候も穏やかで綺麗な場所だった。だからこそ作戦に躊躇いが生まれたのだが……今更だな。
六階に到着すると、昇降機の扉が自動で開く。
「やぁやぁ、初日からお手柄だったねぇ。ジョン・ロック捜査官、ソフィア・コルウス捜査官」
待ち構えていたのはふくよかな体型に管理官用の外套を羽織った魔族の女性、俺達の上司であるサキュバスのアミ・ウェスペル管理官だ。いつ見てもデカイ胸に目が行くが、全体的に丸い。結婚して幸せ太りしたとかどうとか……いや、そんなことよりまずは共通敬礼でご挨拶だ。
「アミ管理官! おはようございます! 本日より着任しましたソフィア・コルウスです! 犯人逮捕は偶然ですが、ありがとうございます!」
俺より先にソフィアが元気よく挨拶する。
「おはようございます、アミ管理官。無事、ソフィアを送り届けましたよ」
俺もそれなりの挨拶を決める。
「はぁい、おはようございます。二人とも制服似合っていますよ」
優しく微笑むアミ管理官。待ち構えられた時は何かやらかしたかと思ったが、この感じだとそうでは無いようだ。
……それにしてもオフィスが静かだな。ほとんど出払ってる?
「ええっと、アミ管理官、俺達に何か用事がある感じですよね?」
でなきゃ昇降機の前で待ってたりしないよな。
「本当は皆に君達を紹介する予定だったんだけど、その君達が捕まえた犯人が厄介でねぇ。とりあえず、会議室で説明するから付いてきて」
俺とソフィアは顔を見合わせてから、アミ管理官の後ろに付いていくのであった。
◇◇◇
広い会議室を三人で使うには少し贅沢な感じだが、管理官が一緒なら何も言われないだろう。それに魔法建築特有の無機質な壁は広いのに圧迫感を感じさせる。広くて良かった。
「ええっとねぇ、君達が捕まえた犯人の男が身体強化魔法を使っていたのは知っているよね?」
アミ管理官が犯人の理解度を確認する。目線は俺の方を向いているな。
「ええ、もちろん。使用後に筋肉が損傷していたので、雑な詠唱か違法な魔導具を使っていたんでしょうね」
「ですが効果はかなり強力だったかと……恐らく素人の魔法ではありません」
俺の回答にソフィアが捕捉する。言われてみればかなりの速さだった。人にもぶつかってないし、暴走していた訳でもない。
ウェスペル管理官は俺達の回答に頷いてから、小さくため息をついた。
「……結論から言うと、何者かが違法な身体強化用魔導具を流してるっぽいんだよねぇ。で、書類仕事してた捜査官達にパトロールついでに魔導具所有許可書の抜き打ち所持チェックをしてもらってるわけ」
それで魔法規制課のオフィスが静かだったのか。
「オフィスに来てもらって早々で悪いんだけど……これからジョン君とソフィア君には街に出て違法魔導具の調査をして貰うよ」
調査? 抜き打ち検査じゃなくて?
「私達は検査ではなく、調査なんですか?」
ソフィアも同じ疑問を抱いたらしい。
「ボヤ騒ぎのジョンには自由にやってもらった方が今朝みたいに上手く回りそうだからね! 好きでしょ? 遊撃隊みたいな仕事!」
急にノリが軽くなるアミ管理官。
好きか嫌いかで言えば好きではあるが……
「俺達新人なんですけど……はぁ、どうなっても知りませんよ」
新人にやらせる仕事では無いと思いつつも上司命令には逆らえない。
「ソフィア君もそれで良いね?」
「もちろんです! 任せてください!」
胸を張りながらアミ管理官に返事をするソフィア。
ソフィアは飛べるだろうし、上空から追跡とか得意そうだよな……アミ管理官は適当に見えて、しっかり考えて仕事を回しているんだな。ソフィアといい俺への過大評価はどうかと思うが。
「さぁ行きたまえ! 中途採用のホープ達!」
会議室の扉を指差し、別に必要の無い出動命令を出すアミ管理官。
ノリが軽い上司である。面接の時もこんな感じだったし。その面接もほぼ雑談で終わったのが記憶に新しい。俺とソフィアを配属させようとしたのも、このサキュバスが首謀者だと噂されていたが果たして……
「ジョンさん行きましょう!」
ソフィアが扉の前で俺を手招きしていた。行動が早いなぁ。
「少し休憩してから行こうぜ。今日はきっと長丁場になる」
それに調査とは言うが何をするか、しっかり考えて行動しないとな。
そんな事を考えながら俺は重い腰を上げ、ソフィアの元へ向かうのであった。




