マリーの歯が飛んだ日
今は昼過ぎ、最近の日課になった昼寝から起きて
年長組3人、櫓の上で豆茶を飲んでいた
新兵3人が木柵回廊を木剣片手に巡回している時だった
「何か用ですか?」
とエドが外に向かってちょっと大きめの声で話しかけてる
「誰か来たみたいだな、ゴブリン、野犬と物騒な客しか来なかったが人みたいだ、行ってみよう」
「この辺じゃ見かけない馬車だな、領主様か?」
「ダンジョン関係だとギルド本部のお偉いさんとかか?」
「まあ人間で何よりだ」「確かに」
戸の傍まで行くと新兵たちが「キーファー」って人が来た
「なに?!」
俺達三人は大急ぎで表に出た
「ヨッ!」
近衛騎士団の制服姿で片手を挙げて笑ってるのは俺たちの大兄貴「キー兄ィ」だった
「お久しぶりっす!キー兄ィ、どうしてここが分かったんですか?」
キー兄ィと肘を互いに合わせる懐かしい挨拶を4人でする
スラムの壁に「引っ越した行先の神父の聞け」って変な文章書いたのお前らだろ?
「スラム寄ってくれたんすね、嬉しいです、馬車入れましょうね」
と言ってかんぬきを外し観音扉を開けるとキー兄ィが馬車に合図する
「ここじゃなんだから食堂に行きましょう、マリーも驚きますよ!」
「それにしても本当に要塞に住んでんだな、俺が居る時からこんなのあったのか?」
「はい、現役バリバリで訓練所で使われてたはずですよ軍のですけど」
「ベネディクト神父が全部、段取り着けてくれたみたいだな、俺もしょっちゅう身柄引き取りで迎えに来てもらい世話になったもんだ」
食堂の前まで来たら俺たちは「シーっ」のジェスチャーをして静かにする
キー兄ィも分かったもんでこっそり中を覗くとマリーの背後から近づく
「ワッ」と驚かせて振り返ってさらに驚く顔を見てキー兄ィもご満悦だ
「キー兄ィ!!!!!!会いたかったわーー!」
「驚いただろ?」
それから他の子達も交え食堂で、どれだけ偉大な先輩なのかみんなに聞かせるタイムが始まったが
俺はあの事件の事を思い出していた
ある時一人のホームレスが流れてきた、20代後半ぐらいだったろうか?
寒い時期でスラムに置いてやってたのだが、どこで手に入れたのか分からない
が酒の瓶を持って酔っぱらいながら帰ってきた
誰かは忘れたが毛布にくるまって焚火の傍で丸くなってる子がいた
「邪魔だ!ガキ!」と言って男が蹴った
「ああ、このおっさん死んだな」ってその場の全員は一瞬で悟った
キー兄ィが無言のまま、男を蹴り飛ばし壁まで飛んで行った、キーファーの子
に手を上げるのは愚か者、当時この界隈の常識だった
散々殴った後、腕を一本折った
「次、この辺ちょろちょろしてたら残り3本と頭潰すからな!」
キー兄ィの言葉に怯えながら頷くと広場から出て行った
「アイツ、詰所行かないだろうな?ちょっと追ってみるぞ!」
キー兄ィがほっとけというが気になるので後を追った
嫌な予感は当たった、詰所に男は入っていった
全員大急ぎでスラムに戻り作戦会議、張本人のキー兄ィだけ落ち着いていた
酒の瓶を見て思いついた
「キー兄ィ俺を殴ってくれ!あの男が暴れて最後この瓶で刺そうとしてるところをキー兄ィが助けた事にしよう」
「あ?何言ってんだアレン、正気か?」
いいかい聞いてよ、殴っただけで飽き足らず、男は瓶をこうやって割って(実際に割る)全員殺す!と叫んだ事にする、いい?
「お前たち殴るような奴、叩き出した俺がお前ら殴れんだろ?」
「キー兄ィ、死ぬまで鉱山労働にでもなったらどうするんだい?」
この一言でみんなキー兄ィがそんなことになったら大変だということで殴れコールが起こる
「ほんとにいいのか?じゃあ行くぞ」
右利きのキー兄ィの左の振り被らないパンチでも俺は飛ばされた、右目が開かないぐらい腫れてきた
「アレンじゃ騎士団の連中もいい気味だ、ぐらいにしか思わないんじゃないかな?ここはやっぱりあたしが一番だと思う」
ああ確かにそうだな、アレンじゃなって声がちらほら聞こえる
「キー兄ィ、どうぞ」マリーがほっぺたを出し
「お前までか?行くぞ」と俺の時より明らかに弱い左が出た時、マリーはわざわざパンチを迎えに行った
ほっぺに当たるはずだったパンチは口に当たった!同時に何かが飛んで行った
「あれ?」口の中を舌で探りながら違和感に気が付く、壁に貼ってある由一の割れた鏡に、顔を映し歯が一本無いのに気が付いた
「あああああたしの歯が無い」口元は切れてるし唇は腫れてるし痛そうな見た目だが歯が無いのがショックで泣きだした
キー兄ィが、オロオロしているのを見るのは、これが初めてだった
やがて騎士団が来た、突然暴れて子供たちの被害もこんな感じで、と怪我の状態、飛んだ歯、殺すと宣言した凶器の瓶
子供たちは口を揃えた
「キー兄ィが助けてくれなかったら俺たちはみんな殺されてた」
女の子が歯まで折られてるのも効果的だったらしい
詰め所に連れていかれたキー兄ィが干し肉貰って当日帰って来た
キー兄ィの騎士団入りはこの日に決まっていた
「アレン兄ィ、何ボーっとしてんのこんな楽しい時に」
「いや、マリーの歯が飛んだ日の事思い出してた」
マリーに睨まれてるような気はするが、俺は見ない
数名がかみ殺したように笑ってる、キー兄ィも人生が変わった日だから忘れられないだろう、笑ってる
これは話を逸らした方がよさそうだ、歯の話は終わり
「キー兄ィは当時の騎士団長に体術で勝って国王の下で働いてんだぞ、凄いだろ?」
クリス、エド、サロモが羨望のまなざしでキー兄ィを見つめてる
「ところで今回はお偉いさんの護衛?」
「まあな、財務の文官の護衛だ、なんでも都市計画の見直しがどうのオルレイン公爵と一緒にこっちに来た、まだこっちには居るが今回は顔出すの今日だけだな」
「そうそう、自分の荷物あんまり持ってこれなかったから大したもんじゃないがお土産がある、ちょっと取って来るわ」
そう言ってキー兄ィは馬車から何かとって来た
ボアの脚一本、丸ごとハムにしたものが二つ、マリーにはネックレス、俺達三人には長剣をくれた
「この剣はな、王家御用達の王都一の鍛冶屋が打った剣だ、どうしても金に困ったら売れ、結構な金になるはずだ」
「まあ、そんな心配いらないぐらい、あの頃よりいい生活出来てるみたいでホッとしたよ」
「キー兄ィ、まだ時間あるんでしょ?みんなでご飯にしよう、あたし作る」
「なんか懐かしいなあ、こうしてお前らと食事なんて」
こうして楽しい時間はあっという間だった
俺のあこがれの人、キーファー大兄貴
早めの夕食を食べ終わるとキー兄ィを案内して歩く
「この梯子の上が物見櫓なんですよ、目隠しに植えられてる木が邪魔で景色はそんなに良くないですけどね」
「結構高いな、大盗賊のアジト感があってなかなかいいな」
「誰かも似たような事言ってたな、なあレオン」
「ああ、キー兄ィがここにいるだけで、より盗賊のアジト感がマシマシですね」
「あのなあ、お前ら、、まあいい」
「これが最近飼いだした鶏です、卵はまだですけどね」
「ほうほう、オスはどうするんだ?食うのか?」
「年少組に任せてるんで泣かれそうですね、多分売ると思います、商人ギルドも入ったんで」
「中々計画的だな、いいじゃないか」
「実は新ダンジョンも見つけて、ここから近いんですよね、特例でEランクなんで解放されたらすぐ入れます」
「ん?実は俺もそれで来てるんだ、かん口令出てて都市計画って話になってるが」
「見つけてってなんだ?お前らが見つけた新ダンジョンなのか?」
「そうですよ、ゴブリン追跡してたら偶然見つけて、しばらくは大人しくしてれとギルマスに言われて砦に籠ってるんです」
「なんだそうだったのか、ここは田舎の貧乏子爵とかじゃないからむしり取られる心配はないな」
「そうなんですか?お貴族様も困ったもんですね」
「アッもうこんな時間か、帰るけど頑張れよ」
「はい今開けますね、さすが王都の騎士団のエース、時計も持ってるんですね」
こうしてキー兄ィは帰って行った
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