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要塞

天気は小雨、騎士の乗る馬が二頭、並走している

その後ろにはオルレイン公爵家の紋章の入った馬車、そしてその後ろにも騎士が乗る馬が二頭、並走している


「叔父上はさっぱり屋敷に顔出していただけませんね、多忙なのは存じ上げてますが、たまにはお茶の誘いにも参加していただきたい」


オルレイン公爵、アレンの街とこの辺一帯の領主でベネディクト神父の甥だ


「リチャード、私は貴族社会の付き合いに習った習慣は性に合わなくてな、お前こそ教会に顔を出したらどうだ?王都の生活が多すぎるのもあまり感心せんぞ」


「叔父上、それにしても古い兵の訓練所の事よく覚えてましたね、領主の私でも知りませんでしたよ、何に使うんですか?欲しいだなんて」


即答しないのがベネディクトの癖である


「リチャードはスラムの少年と話をした事はあるか?甘えた子供で居ることが許されない子供、大人のフリしなきゃならない子供の面倒を見る子供だ」


リチャードは困惑する


「ありません、訓練所と何か関係あるんですか?」


もったいぶったワンクッションが入ったところで本題に入る


「スラムの子の家にしたくてな、木柵で囲われた訓練所は子供たちだけで街の壁の外で暮らすのにはちょうどいいと思ったんだ」


「叔父上が考えてされる事なら私は応援させてもらいますよ、父上より叔父上に育てられたようなもんですからね私は」


ベネディクトはアレンぐらいの頃のリチャードに、剣を教えていた事を思い出していた


「それでだ、教会に寄付した形にして私がどう使おうが税も免除でいいのだな?」


「ハイ勿論です、他の貴族も騎士団も、一切口出しできない、言わば教会の領地です」


「叔父上着きましたよ」


騎士たちは周囲を警戒している、二階建ての建物の高さがある太い丸太だけで作られた木柵はふた昔前の要塞のような雰囲気だ


騎士が二人、縦横どちらも馬車の二倍はある観音扉の横にある小さなドアから中を確認に入って行った


「異常ありません!」


わずかな時間駆け足で回ってきたようで騎士の呼吸は少し荒かった


「お前は馬車で待っててもいいぞ」


「せっかくここまで来たのですから私もお供しますよ叔父上、中にも少し興味があります」


そういうと御者と騎士を二人表に待たせて4人で中を回る

木柵の裏は外から見て上半身しか見えない高さで一周する回廊になっている

攻める側、守る側に分かれて訓練していたのだろう


弓の練習をする場所、井戸、トイレ、水浴び場や倉庫が回廊を屋根代わりに並んでいる


中央には三階建ての巨大な丸太小屋、食堂が一階だったのだろう、釜土が6つ並んでここにも井戸がある、床板は無く土のままだが硬く締まっていた


使われなくなったテーブルと椅子が奥にキレイに積まれている

階段が二つ、対角に壁際真っすぐに二階まで伸びている、そして直角に向きを変え三階まで無駄のない動線で階段は続いている


二階は板張りだ、兵たちが土足のまま長年訓練されてたのが分かるすり減り方だった、三階も同じ広さ、、ちょっと違うのは中央に櫓に上る梯子があるくらい


「叔父上!井戸の水も使えそうですよ」


「これなら文句のつけようもないな、リチャードここ貰うぞ、良いな」


「はい、手続きはこちらで終わらせておきますから、今から叔父上の物です」


回廊の上で外からの曲者へ弓を引くイメージトレーニングしていた騎士が、あるじの帰るぞの一言で飛んできた


「ところでリチャード、一軒寄り道して、明日か明後日にでも荷馬車一台頼めないか?」


「勿論いいですよ」


街まで戻って来た、門は当然顔パスで止められることも無く商人の馬車の横をすり抜け街へ入る


ベネディクトの指図通り馬車は進み


「ここでちょっと待っててくれ」


そういうとベネディクト神父は頭を下げる通行人達に手だけ挙げながら裏路地に消えた


「美味しそうだねマリー」


パンを焼いていたマリーが振り返る


「神父様!久しぶりだな、元気だったか?」


マリーは神父相手でもタメ口だ


お兄ちゃんたちは居ないのかい?と言ってる後ろにアレン達三人が歩いてきた


「ここへお見えになるのも珍しいですね、何かあったんですか?」


「ここの子らみんなの家が見つかったぞ、明日馬車で迎えに来るがいいか?」


「えーーーーつ」x20


大騒ぎになってしまったのはわざとだろう


「そんないきなり言われてもお金だってまだそんなに貯まってないし」


「案ずるな、子供たちにとって安全この上ないって言うぐらいの優良物件だ、井戸も二つある、釜土もいっぱいある、その上無料だ」


「いどってなあに?」


エドは井戸が何か知らない


「マリー姉ちゃんが教えてあげる、沸かして飲まなくてもいい綺麗な水がいっぱい出てくるところだよ」


「へーーー」


周りの年少組も一応に驚いている、水は沸かさないと飲めない毒だと教わってきたからだ


「まあ、そういう事ですので馬車で送りますが明日でいいですかな?」


パトリックは俺とレオンの顔を交互に見ている


「一つ聞いていいですか?安全この上ないってどういう意味ですか?」


「要塞なんだよ、太い丸太の木柵に囲われてる、軍の訓練所だったところだ、領主から教会が貰ったからタダだし税も払わなくていい」


「俺たちの要塞!!」


レオンは完全に要塞の響きのロマンにやられているようだ、パトリックも断る理由無いでしょ!とこっちを見ている

幸い明日はクエストも入れてない


「ベネディクト神父、お世話になります、明日の朝には出発できるように準備して待たせていただきます!」


「行ったら気に入ると思うよ、公爵の荷馬車一台で間に合うかな?」


「なるべく早く迎えに来た方がよさそうですね」


神父の視線の先には今すぐ連れていけ!と言いたそうに布団や小さなぬいぐるみを握りしめた子供たちが居た


「ここは入り組んでて分かりづらいから路地の出口の表通りに馬車が来たらみんなで乗ってくれ、私が来れれば良かったんだが、明日は朝から忙しくてね」


ベネディクト神父は任務はこれまで、と言い残すと帰った


「布団と荷物は置いておいで、もうすぐご飯だから」


「えーーー」x6


気の早い子供たちは三階まで渋々荷物を置きに行った


今日は主食として定着したフライパンで焼いたパン、角うさぎ肉で作った干し肉、角うさぎ討伐の時に依頼人のおじさんから貰った、かぼちゃとネギを入れたスープだ

ここでの晩御飯も今日で最後かと思うと感慨深い、悪い事も多かったが楽しい思い出もある

レオンとパトリックは掛け替えのない家族であり親友だ、弟も妹も出来た


食事が終わると三階に上った、何才からここに居るのかは分からないが一番古い記憶はこの部屋で震えてる自分だった


もう寝よう、明日は太陽が昇る前から賑やかになるだろう




(五月蠅い、早朝どころか誰も寝ていない、勘弁してほしい、レオンは要塞、要塞、ぶつぶつ言っている)



なんとか朝になった、いつも早いクリス、エド、サロモ、ロゼは起きている

馬車に乗れるのが嬉しいみたいで馬車の話に花が咲いている


パンは既に焼きあがり、それぞれお気に入りの場所で食べている


マリーの姿が見えないが表通りと広場を行ったり来たりして馬車が来るのを待ち構えているそうだ


木の枝の歯ブラシで歯を磨いてるとマリーが飛んできた


「馬車来たよーー馬車、馬車!」


小さい子の荷物は俺達三人で持った、教会で貰った二、三枚の服、布団、ぬいぐるみを大事そうに持ってる子も

皆総じて荷物は少ない、当然か、馬車には御者とまだ若めの執事っぽい青年が荷物と子供が乗るのを手伝ってくれている


「アレンさんですか?当家主人であるオルレイン公爵に代わりご案内しますセバスです」


「今日はお世話になります、子供たちがうるさくて申し訳ないです」


両隣にレオンとパトリックもさっと並び頭を下げる


牽く馬は2頭、幌が付いてるタイプの荷馬車だが外が見やすい様に左右は上げられている


門を出てからさほど経たない内に街道を外れた、あまり使われてない道を進むと、街道を歩く人が豆粒ぐらいに見える距離で林に入ったと思ったら四角い開けた土地にその要塞はあった、一見、深い林に見えたのは目隠しの為に帯状に植えられてる並木があるだけだった


「もう着いたの?」「うおー本物の要塞だー!」「丸太の壁ー!」「まだ馬車がいいー!」


皆が好き勝手に色んな事言ってるが街から凄く近いところに、こんな要塞が隠してあることに俺は驚いた


正面の観音扉は開いている、馬車ごと木柵を超えると結構広い、正方形だろうか?中央の建物も丸太だけで作られていて、くすんでいるが、かえって趣がある


荷物もほったらかしで子供たちは探検スタートだ


パトリックとレオンで荷物を二階に運ぶ、セバスは木箱を下ろすと


「これは公爵夫人からの食器セットです、子供に合わせて割れても安全な、木製で一式入ってるのでお使いください」

「こちらの袋は石鹸やタオルが入っております」


おお!これはありがたい、ベネディクト神父は本当に何者なのだろう?


「セバスさん、ベネディクト神父は公爵様と親戚なんですよね?」


ちょっとカマかけてみた、この程度なら後で許されるだろう


「私はお仕えして日が浅いので詳しくは存じ上げませんが、父のような存在とお聞きしております」


「いえ、へんなこと聞いて申し訳ないです、今日はありがとうございました、恐悦至極でございますとお伝えください、、、で使い方あってます?」


「はい、最大限の感謝の意は受け取りました」


「実は私もまだ慣れてないので良く分からないというのが本音です」


と小声で教えてくれた


観音扉の外まで送ると御者とセバスは一礼して帰って行った


あちこち見て回っていると子供たちがどこにでも居る、


三階の中央の梯子から物見櫓に上ってみる、並木が無ければ街道は余裕で見えそうだ、レオンはここがお気に入りの様だ


「ほんとに要塞だな、国一つ潰すような大盗賊のアジトって感じじゃないか?気に入った」


パトリックは倉庫で何かを発見したらしい、手招きしてる


木柵沿いの倉庫の一つに入ると浅くて大きな木の桶、そこに釜土と筒で繋がっている、大きな木の桶と釜土の反対側は井戸ポンプがある


「これ風呂だよな?聞いたことあるぞ、貴族は何か月も飲める量の水を沸かして体洗うって、贅沢だねえ」


「薪集めるだけで大変だな、薪と言えば釜土の隣に結構薪残ってたな」


「それよりさっきから静かじゃない?」


家?と言っていいのか中央の建物に入るとみんな三階で布団広げて寝ていた


「俺らは何処で寝よう?広いから一部屋で全員寝ても余裕だよな」


「とりあえず一階は食堂だよな、スープみたいな熱い物、持って二階に上がるのも手間だし危ない」


夜騒いで居たせいで、まだ朝なのに寝ている子供はそのままに、俺たちは一階に降りる


「どうせ広すぎるんだしテーブルはこんな感じでどうだ?これなら全員の顔が見える」


パトリックはロの字型に長テーブルを並べて見せた、が


「ちょっと遠すぎないか?こうならどうだ?」


4本のテーブルをくっつけておいただけだが、なるほど、良さそうだ

人数分イスも置いてみる


「いいんじゃないか?」って事で決定


井戸水で豆のお茶でも三人で飲もうという事でもらった食器の箱を開けてみる


「言った通り、木の食器だな、フォークとナイフ、スプーンも入ってるぞ」


二人の目の前に食器を出すと


「木をよくこんなに薄く削れるもんだな」


「うんうん」


目を皿にして皿を眺めるレオンとパトリックが、ちょっと面白い


井戸の水を鍋に入れて、細い枝だけでお湯を沸かす

ティーポットも木製のが入っていた、持ってきた食品の箱を開けて豆茶を出して準備完了だ、ほどなくお湯も沸いたのでポットに注ぐ


取っ手の付いたカップは二種類あった、大きな方を3つ、豆茶で乾杯してみた


「何か用意するものとかあるかな?ギルドで下ろしてでも今必要なものがあったら買ってもいいと思うんだよね」


「農具とかか?柵の中でもトマトぐらいは作れそうだよな」


「あとは鶏だな、卵が毎日食べれる、外敵に鶏が襲われる心配が無い、ほんといい場所だよここ」


うんうんと全員で頷く


「問題は俺らが仕事に出た後、子供たちだけで大丈夫かな?勝手に出て山に入って迷子になるとか心配だ」


パトリックの言う事ももっともだ


いろいろ教えなきゃ駄目そうだな、それでも不安だ


小さな大人たちの子育ても楽じゃない















お読みいただき有難うございます、PVだけでも励みになります

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