配信(ヤラセ)の終わりと、シークレットサービスの流儀——不審な電波はハッキングして遮断します
配信の終わりと、シークレットサービスの流儀——不審な電波はハッキングして遮断します
「お、俺のバックには『炎上神ワイズ』様がついてるんだぞ! 原住民どもが、神の配信を邪魔してタダで済むと思ってんのかぁぁっ!」
右肩を失い、血だまりの中で無様にのたうち回る偽勇者・ゼロスが、狂乱しながら空に向かって絶叫した。
すると——彼の言葉に呼応するかのように、ポポロ村の上空に立ち込めていた雲がどす黒く変色し、ゴロゴロと不気味な雷鳴を響かせ始めた。
さらに、村の周囲を飛び回っていた透明な球体——ゴッドチューブの配信カメラが、一斉に神谷シンを取り囲み、空中に巨大なホログラムのモニターを投影した。
モニターの向こう側から、苛立ちを含んだ傲慢な男の声が村中に響き渡る。
『チッ……使えないゴミ勇者が。せっかくの悲劇の撮れ高が、てめえのせいで台無しだ』
「ワ、ワイズ様! お助けを! あの黒服の男を、神罰で焼き殺してください!」
『言われなくてもそうしてやるよ。原住民ごと村を【神罰の雷】で消し飛ばして、「魔物の自爆から村を庇って散った悲劇の勇者」ってシナリオに書き換えてやる!』
神の口から放たれた、あまりにも身勝手で残酷な言葉。
村人たちが「村が消し飛ぶ!」「神罰だ!」とパニックに陥り、キャルルやマンミアも上空の雷雲から放たれる規格外の魔力プレッシャーに顔を蒼白にさせた。
だが、誰よりもパニックに陥っていたのは、他ならぬシンだった。
「ひぃぃぃぃぃっ! 上から雷!? 絶対に無理です、丸焦げになっちゃう! 避雷針もないのに! 僕の安全な寝床を上から監視して放火するとか、どんだけ悪質な不審者ですかぁぁっ!」
シンは両手で頭を抱え、涙目で大絶叫した。
しかし——彼の指先は、すでに懐の暗号化戦術端末『ATAK』を猛スピードで操作し終えていた。
『シンはん、聞こえるか!』
イヤホンから、村の役場の屋根裏に潜むニャングルの声が飛んでくる。
『上空のカメラと雷雲を繋いどる魔力通信の帯域、周波数のパターン解析できたで! こいつら、偉そうに神とか名乗っとるが、やっとることはただの遠隔操作や!』
「ニャングルさん、さすがです! つまり、神様の配信も突き詰めればただの電波! なら、物理的に遮断してハッキングできますね!」
シンの泣き顔の裏で、元USSSの『電子戦対策マニュアル』が瞬時に起動した。
(上からの見えない攻撃。僕が一番嫌いな『不可避のリスク』だ。……絶対に、ここで潰す!)
「……スキル発動。通信の邪魔ですから、切らせていただきますね」
シンの声が絶対零度に冷え込んだ瞬間、【合衆国官給品】が連続で実体化する。
まずシンの背後に現れたのは、巨大なパラボラアンテナや複数のレドームをルーフに搭載した黒塗りの装甲シボレー・サバーバン——大統領の車列に随伴する移動通信管制・電子戦車両、通称『ロードランナー』。
さらにシンの両手には、奇妙なライフル型の巨大な機器が握られていた。
それは銃弾ではなく、強力な妨害電波を照射して不審なドローンを強制的に墜落させる、指向性対ドローン妨害装置——『C-UAS ジャマー』である。
『ハッ、なんだその鉄の箱と筒は? 魔法の杖でもないガラクタで、神の力に抗えると——』
「うるさいですよ」
モニター越しに嘲笑う炎上神ワイズに向かって、シンはC-UASのトリガーを容赦なく引いた。
ブォォォォォォォォンッ!!
人間の耳には聞こえない、超高出力のジャミング電波が上空のカメラ群と雷雲に向けて照射される。
『な、なんだ!? 配信の信号が……通信が遮断され——』
バチバチッ!と火花を散らし、浮遊していたゴッドチューブのカメラが次々とコントロールを失い、地面に墜落して転がっていく。
ロードランナーの強力な電子戦システムが、神界と地上を繋ぐ魔力通信帯域を完全に制圧したのだ。
『ただ切るだけやないで。こっちの電波を無理やり乗っけたる!』
戦術端末を介してロードランナーのシステムに介入したニャングルが、悪徳商人顔負けの笑みを浮かべてキーボードを叩く。
村の広場に墜落したカメラが再び再起動した。しかし、そこに映し出されたのはワイズの姿ではなかった。
ニャングルのハッキングにより、先ほどのゼロスの「悲劇を演出するために火を放ってやる」という発言や、ワイズの「原住民ごと村を消し飛ばす」という『ヤラセの証拠音声と映像』が、ゴッドチューブの公式チャンネルを通じて、天界および大陸中の全視聴者に向けてノーカットで『生放送』され始めたのだ。
『あ、あぁぁぁっ!? 馬鹿な、神の回線が原住民に乗っ取られるなど——ッ!』
ホログラムの向こうでワイズが狼狽する声が聞こえたのを最後に、上空のドス黒い雷雲は嘘のようにスゥッと霧散して消え去った。
天界の運営システム(上位の神々)が、ワイズの「規約違反(ヤラセおよび不正介入)」を検知し、彼のアカウントを即座に凍結・強制ログアウトさせたのである。
シンの近代電子戦による、完全な勝利だった。
「わ、ワイズ様……? 嘘だろ、見捨てないでくれぇぇぇっ!」
後ろ盾の神を失い、ゼロスが血だまりの中で絶望の叫びを上げる。
そこに、トドメとばかりに、みかん箱の上からリーザの無慈悲な歌声が響いた。
「愛も富も一つの物〜♪ どっちもちょーだい(Want You!)!」
ズゴゴゴゴゴゴォォォッ!!
リーザの【貧乏神】スキルによるお賽銭箱型掃除機が、ゼロスの身体から猛烈な勢いで何かを吸い上げ始めた。
それは、ゼロスがゴッドチューブの収益で溜め込んでいた電子マネー残高であり、レベル100を維持していた『課金ステータス』そのものだった。
「お、俺のレベルが……俺の残高がゼロにぃぃぃっ!?」
パリンッ!と音を立てて、ゼロスが身につけていた残りのミスリル装備が、ただの石ころのように砕け散る。
さらに、バレットの爆風と混乱の影響で、ゼロスが履いていた靴の留め具が外れ——ポロリと、片方のブーツが脱げ落ちた。
「あ……」
その瞬間、ゼロスの視線がガクンと15センチほど下がった。
彼が履いていたのは、底に極厚のコルクが詰め込まれた『シークレットブーツ(厚底靴)』。
長身のイケメン勇者に見えていた彼の正体は、過剰な整形と厚底ブーツで底上げしただけの、貧相で小柄な男だったのだ。
ヤラセの証拠、ステータスの喪失、そして身体的なコンプレックス(厚底脱落)。
その全てが、今も回線が繋がっているゴッドチューブを通じて、全世界に無様な姿として晒され続けていた。
「俺の……俺の栄光がぁぁぁぁぁっ!」
ゼロスは両手で顔を覆い、子供のように泣きじゃくりながら、その場に崩れ落ちて額を地面に擦り付けた。完全なる社会的死、そして敗北だった。
「ふぅ……雷雲が消えましたね。これで安心して夜眠れます」
シンは安堵の息を吐きながら、涙目をごしごしと拭った。
そして、泣き伏すゼロスの背後に音もなく近寄ると、懐から工業用の黒い結束バンド(タイラップ)を取り出し、素早い手つきで彼の手首を後ろ手に縛り上げた。
「ひっ!? ご、ごめんなさい! 許して……!」
「止血は終わっていますが、暴れると大動脈の傷が開きますから動かないでくださいね。放火未遂と威力業務妨害の証拠は揃っていますので、あとは各国の警察か、ゴッドチューブの運営に引き渡すための事務処理を進めます」
淡々と、まるで郵便物の梱包でもするかのように、冷徹に罪人を処理していくシン。
その一連の流れるような作業を目の当たりにした村人たち、そしてキャルルとマンミアは、畏怖と熱狂の入り混じった眼差しでシンを見つめていた。
(神の怒りすら得体の知れない鉄の箱で無力化し、レベル100の勇者を、ただの罪人として容赦なく事務処理してしまう……!)
(なんて恐ろしく、慈悲深く、頼もしい『死神』……!!)
神谷シンという男に対するポポロ村の【強烈な勘違い】は、もはや絶対に後戻りできない次元にまで到達していた。
そして、この血生臭い大騒動の直後、シンは彼らにさらなる『ギャップ』を見せつけることになるのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「厚底ブーツざまぁ(笑)」「神すらハッキングする電子戦車両!」「事務処理される勇者!」と少しでもスカッとしていただけましたら、
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偽勇者とヤラセ神の件はこれにて完全決着!
次回、激闘を終えたシンが、エプロン姿で極上メシの炊き出しを開始します!?
ここからは楽しい「飯テロとヒロインの日常」の始まりです! 引き続きよろしくお願いいたします!




