絶対無敵スパチャアイドル伝説と防衛戦——僕のアイドル(護衛対象)に指一本触れさせませんよ
絶対無敵スパチャアイドル伝説と防衛戦——僕のアイドル(護衛対象)に指一本触れさせませんよ
迫り来る八十匹以上の魔物の大群。地鳴りのような足音がポポロ村の広場に響き渡る中、ボロボロの芋ジャージを着た人魚族の少女・リーザは、みかん箱の上で大きく息を吸い込んだ。
「さぁショーの始まりよ(It’s Show Time!)」
木の枝のマイクを握りしめ、彼女が歌い出したのは、かつて大流行した強欲系アイドルソング『Love & Money』だった。
魔物の咆哮を掻き消すほどに澄み切った、しかしどこか狂気を孕んだ歌声が、戦場に響き渡る。
「今日も私の為に世界が動く(まわって! まわって!)
愛も富も一つの物(どっちもちょーだい!)
ダイヤが欲しい♪ 土地も欲しい♪(Want You! Want You!)」
その瞬間、あり得ない現象が起きた。
リーザの歌声を聴いたマンミアたち自警団員の身体から、黄金色に輝く闘気が爆発的に噴き上がったのだ。
「うおおおおおっ!? なんだこれは! 身体の奥底から、無尽蔵の力が湧いてくるぞぉぉっ!」
マンミアが驚愕の声を上げる。彼女の持つ重装盾——パイルバンカーが、異常なほどの魔力光を帯びて唸りを上げていた。
これこそが、リーザの持つ裏の力。
彼女は落ちぶれてはいるが、腐っても海中国家シーランの王女であり、人魚姫だ。彼女の歌には、聴く者の時間を奪い、熱狂させ、精神の限界のタガを外す強烈な『バフ効果(状態異常:狂信)』が備わっていた。
「貴方の愛で生きていける(Fuuu〜!)
だから……もっともっと、愛して(課金して)ね?」
リーザがウインクと共に投げキッスを放つと、自警団の男たちは完全に理性を失い、狂戦士と化した。
「おおおお! リーザちゃんのためにぃぃっ!」
「俺の命を持っていけぇぇぇぇっ!」
マンミアを先頭に、黄金の闘気を纏った自警団が、レイザーワイヤーの手前で魔物の群れと激突する。
ズドガァァァァァンッ!!
マンミアのパイルバンカーが打ち出されるたび、硬い皮膚を持つオークが紙屑のように吹き飛んだ。男たちの粗末な槍も、闘気のバフによって鋼鉄の刃と化し、ゴブリンたちを次々と串刺しにしていく。
「ひ、ひぃぃぃ……っ! なんですかあの歌! みんな目がいっちゃってますよぉぉ!」
防弾シールドの裏に隠れていた神谷シンは、ガタガタと震えながらその光景にドン引きしていた。
(なんだあの異常なバフは!? 味方が強くなるのは生存率が上がって助かりますけど、テンションがおかしすぎます! 完全に洗脳されてるじゃないですか!)
だが、シンの危機管理レーダー(プロの勘)が、上空からの殺気を捉えた。
バササッ!
鋭い鉤爪を持つ三羽の鳥型魔獣『ハーピー』が、防衛ラインを飛び越え、みかん箱の上で歌うリーザに向かって急降下してきたのだ。
「リーザ、危ないっ!」
村長のキャルルが叫ぶが、彼女は地上の魔物の処理に追われて間に合わない。
リーザ自身は「私のステージの邪魔はさせませんの!」と鼻の穴に五円玉を装填しようとしているが、どう見ても間に合わない距離だった。
「ひぃぃぃぃ! ぼ、僕のアイドル(護衛対象)に上から来ないでくださいぃぃっ!」
シンが半泣きで絶叫した瞬間、彼の両手に新たな武器が実体化した。
7.62x51mm NATO弾を使用するセミオートマチック・スナイパーライフル——『KAC SR-25』。
サプレッサー(減音器)と高倍率スコープを搭載した、USSSのカウンタースナイパーチームが愛用する超高精度狙撃銃だ。
シンは恐怖で涙目になりながらも、シールドの縁に銃身を乗せ、瞬きする間に三羽のハーピーをスコープの中心に捉えた。
心臓は早鐘を打っているが、引き金を引く指先には1ミリの狂いもない。
プスッ! プスッ! プスッ!
くぐもった発射音が三回響く。
空中でリーザに襲いかかろうとしていたハーピーたちは、文字通り「不可視の何か」に頭を撃ち抜かれ、ボロ雑巾のように地面へ墜落した。
「え……?」
歌いながら目を丸くするリーザ。
彼女の目には、シールドの陰でガタガタ震えながらも、次々と空の魔物を撃ち落としていくシンの姿が映っていた。
その光景は、アイドルのライブを彩るための『特殊効果の演出(レーザー照明)』のようにさえ見えた。
「も、もう! 歌うなら安全な地下で歌ってくださいよぉ! 僕が心臓発作で死んじゃいますからね!」
「……っ!」
シンは泣きべそをかきながら文句を言っているが、彼が撃ち抜いた魔物の眉間からは、寸分違わず一撃で生命活動が停止させられていた。
リーザの胸の奥で、強烈な安心感と、ドクンと跳ねるような熱い感情が湧き上がる。
(この人は……こんなに怯えているのに、絶対に私から目を離さない。私のステージを、完璧に守ってくれている……!)
「……ふふっ。最高のプロデューサーですの!」
リーザの歌声がさらに熱を帯び、バフの効果が最高潮に達する。
自警団の猛攻と、シンの的確な狙撃支援により、八十匹以上いた魔物の群れはみるみるうちに数を減らし、後退し始めた。
「よし、敵が密集しました! 今です!」
シンが叫ぶ。魔物たちが、シンの仕掛けた『キルゾーン』——M18A1 クレイモアの有効射程内に押し込まれたのだ。
「ひぃぃ、ごめんなさい! 痛いのは一瞬ですからぁ!」
カチッ。
シンが震える手で起爆スイッチ(クリッカー)を強く握り込んだ。
ドゴォォォォォォォォンッ!!!
轟音と共に、爆発の閃光が走る。
クレイモア地雷の内部に仕込まれたC4爆薬が炸裂し、およそ七百個の鋼鉄のパチンコ玉が、秒速千二百メートルという圧倒的な速度で扇状にバラ撒かれた。
「ギギャアアアアアッ!?」
「ブギュルルルルッ!」
魔法の防御など一切意味を成さない、純粋な近代兵器の暴力。
パチンコ玉の暴風雨を浴びた魔物たちの先陣は、文字通りミンチとなって吹き飛び、残った者たちも恐怖に悲鳴を上げて森の奥へと逃げ去っていった。
静寂が訪れたポポロ村の広場。
絶望的な大群の襲撃は、アイドルの狂気的なライブと、臆病な元エージェントの兵器運用によって、ただの「エンタメ的作業」としてあっけなく粉砕されてしまった。
「終わった……終わりましたよね!? はぁ、はぁっ……生きた心地がしませんでしたよぉぉ……」
シンはSR-25を取り落とし、地面にへたり込んで大泣きしている。
だが、村人たちの目に映る彼は、神が遣わした絶対無敵の守護神そのものであった。
一方、その頃。
村を見下ろす丘の上で、ヤラセ配信の仕掛け人である勇者ゼロスは、目を血走らせてワナワナと震えていた。
『な、なんだぁ!? なんであの村の原住民ども、あんなに強いんだよ!? ていうかあの黒い服の男、なんだあの爆発魔法は!?』
ゴッドチューブのカメラが映し出しているのは、悲劇に泣き叫ぶ村人……ではなく、アイドルのライブに熱狂し、魔物を一方的に蹂躙するサイヤ人のような原住民たちの姿だった。
『ふざけんな! 俺の出番が! 俺の輝かしい救出劇とスパチャが台無しじゃねえか!!』
ゼロスはギリッと歯を食いしばり、自らの聖剣を引き抜いた。
『ええい、こうなったら俺が直接火を放って、悲劇を演出してやる! ワイズ様、見ていてください! 俺が真の勇者だってところを証明してやりますよ!』
PVと自己顕示欲に狂った偽勇者が、焦燥に駆られて丘を駆け下りる。
臆病なプロフェッショナルと、命をオモチャにする外道との直接対峙の時が、すぐそこまで迫っていた。
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「アイドルとスナイパーの謎の共闘!」「クレイモアえげつない!」「ついにヤラセ勇者が乱入!」と少しでも楽しんでいただけましたら、
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