ヤラセ配信の足音と、シークレットサービスの準備——僕が死なないための絶対警護領域(キルゾーン)
ヤラセ配信の足音と、シークレットサービスの準備——僕が死なないための絶対警護領域
カンカンカンカンカンッ!!
ポポロ村の広場に、けたたましい警鐘の音が鳴り響いた。
平穏だった村は一瞬にしてパニックに包まれる。農具を放り出して逃げ惑う村人たち。泣き叫ぶ子供の声。
「落ち着きなさい! 非戦闘員は地下シェルターへ避難! マンミア、自警団を率いて村の正面ゲートに防衛線を敷きなさい!」
混乱の坩堝と化した広場に、キャルルの凛とした声が響き渡る。
先ほどまでシンの前でヤンデレの気配を漂わせていた少女とは別人のような、村を預かる長としての威厳に満ちた姿だった。
「はっ! 自警団、私の後ろに続け! 一匹たりともこの村には入れさせん!」
シンの手当てによって足を回復させたケンタウロス種のマンミアが、パイルバンカーを構えて猛然と駆け出していく。村の男たちも、震える手で粗末な槍や弓を握りしめ、それに続いた。
勇敢な立ち向かい方だ。ファンタジー世界の住人としては、百点満点の対応だろう。
だが、その光景を見ていた神谷シンは、頭を抱えて涙目で絶叫していた。
「ひぃぃぃぃぃっ! バカバカバカ! 死にますよ!? 肉体ひとつで八十匹の魔物の群れを迎え撃つとか、正気の沙汰じゃありません! ここは中世の戦場ですか!? あ、中世でしたね! でも嫌だ、僕は絶対に死にたくないぃぃっ!」
シンの極度の心配性と生存本能が警鐘を鳴らす。
シンの持つ暗号化戦術端末『ATAK』の画面には、森を突き抜けてくる大量の熱源が映し出されていた。ゴブリン、オーク、あるいはもっと凶暴な魔獣の混成部隊。
対する村の戦力は、実質的にマンミアと数人の男たちだけ。正面からぶつかれば、間違いなく防衛線は突破され、自分も魔物の餌食になる。
(逃げる? いや、この数の群れから逃げ切れる保証はない! だったら——僕が死なないための『安全地帯』をここに作るしかない!)
パニックで半泣きになりながらも、シンの『プロとしての思考』は冷徹に戦場の地形を計算し終えていた。
敵の侵攻ルートは村の正面ゲートの一カ所に絞れる。風速、湿度、射界、遮蔽物。すべてがシンの脳内で0.1秒のうちに図面化される。
「……スキル発動。少し荒療治になりますが、村を丸ごと要塞化させてもらいます」
シンの瞳から感情が消え去り、ユニークスキル【合衆国官給品】が連続で起動した。
空間が歪み、シンの足元に次々と大量の物資が実体化していく。
幾重にも巻かれた蛇腹状の鉄条網、防弾用の折りたたみ式シールド、そして——『FRONT TOWARD ENEMY(敵に向けて設置せよ)』と刻印された、湾曲した緑色のプラスチック製の箱。
米軍およびUSSSが拠点防衛に使用する指向性対人地雷、**『M18A1 クレイモア』**である。
「マンミアさん! その槍を置いて、これを受け取ってください!」
「シ、シン殿!? なんだこれは、奇妙な鉄の糸と、緑の小箱だが……」
「いいから急いで! 鉄の糸は村の入り口に三重に広げて! それからこの緑の箱は、絶対に『文字が書いてある方』を森に向けて、扇状に等間隔で設置してください!」
シンはマンミアたちに指示を飛ばしながら、自らも凄まじい手際で地雷に雷管をセットし、起爆用のワイヤーを引いていく。
「絶対に、箱の正面には立たないでくださいね! 立ったらミンチになって死にますから!」
「ミ、ミンチ!? よ、よく分からんが、シン殿がそういうのなら間違いない! 総員、シン殿の指示に従え!」
マンミアはすっかりシンに心酔しており、一切の疑問を持たずにシンの指示通りに動いた。
わずか三分。
のどかだったポポロ村の入り口は、鋭い刃を備えたレイザーワイヤーのバリケードと、緻密に計算されたキルゾーン(殺傷地帯)へと変貌を遂げていた。
「よしっ、起爆装置の接続完了。射線クリア。……はぁ、はぁっ」
シンは『Level IV』のセラミックプレートが内蔵された防弾シールドの裏に身を隠し、大粒の汗を拭った。
そして、先ほどまでの半狂乱が嘘のように、深く安堵の息を吐き出した。
「……よかった。これなら、僕に傷一つ付くことはありません。絶対に死にませんね」
震える手で起爆スイッチを握りしめながら、ポツリと漏らしたシンのその言葉。
それを隣で聞いていたキャルルは、ゾクッと背筋を震わせた。
(なんて恐ろしい男なの……! 怯えて泣き叫ぶようなフリをしながら、村人たちを的確に指揮し、あっという間に見たこともない『死の罠』を完成させてしまった……。やっぱり、この人は生粋の暗殺者だわ……!)
勘違いを加速させるヤンデレ村長をよそに、ついに森の木々がなぎ倒され、魔物の大群が村の正面に姿を現した。
グギャアアアアアアッ!!
ブヒィィィィィンッ!!
血走った目をしたオークやゴブリンの群れ。その数は優に八十を超えている。
だが、その魔物たちの動きは、どこか不自然だった。まるで『何者かに無理やり村へ誘導されている』かのような、統制された動き。
——事実、この襲撃は自然発生したものではなかった。
『よしよし、いい画が撮れてるぞぉ!』
村から少し離れた小高い丘の上。
そこに、白銀のミスリル鎧に身を包んだ、爽やかなイケメンの青年が立っていた。
彼の名はゼロス・ディバイン。神々が運営する配信サイト『ゴッドチューブ』で、絶賛売り出し中の「契約勇者」である。
彼の周囲には、透明な球体のカメラがいくつも浮遊し、村の様子をあらゆる角度から撮影していた。
『いいか、炎上神ワイズ様。もう少しだ。もう少しあの村の原住民どもが絶望して、何人か引き裂かれたあたりで……俺が颯爽と登場して魔物を蹴散らす! 悲劇から救い出す聖人勇者の姿に、視聴者は涙し、スパチャの雨が降るって寸法だ! ぎゃははは!』
ゼロスはカメラの死角で下劣な笑みを浮かべていた。
そう、この魔物騒動は、炎上神ワイズとゼロスが仕組んだ『完全なヤラセ』だった。PV(再生数)と金のためなら、村人の命などただのコンテンツの燃料でしかない。
『さあ、泣き叫べ! 絶望しろ原住民ども!』
ゼロスが丘の上からほくそ笑んだ、まさにその時。
「——あー、あー。マイクテス、マイクテスですの」
絶望に包まれるはずのポポロ村の広場に、場違いなほど可愛らしい、しかし力強い少女の声が響き渡った。
「え?」
防弾シールドの裏に隠れていたシンが、目を丸くして顔を上げる。
なんと、魔物の群れが迫る防衛線のド真ん中、シンのすぐ隣に——『みかん箱』が置かれていた。
そしてその上には、ボロボロの芋ジャージを着た人魚族の少女、リーザが仁王立ちしていたのだ。
その手には、どこから拾ってきたのか、木の枝で作った即席のマイクが握られている。
「リ、リーザさん!? 何をやってるんですか! 危ないですからシールドの裏に隠れてください!」
「ふふん。シンさん、プロデューサーならしっかり見ていてくださいですの」
リーザは、魔物の咆哮を前にしても一歩も引かず、むしろ獲物を見つけた猛禽類のようなギラギラとした笑みを浮かべた。
「アイドルたるもの、用意されたステージから逃げるなんてあり得ないですの。……さあ、私のライブ(防衛戦)の始まりですの!!」
ヤラセ配信を目論む外道勇者と、絶対安全のキルゾーンを構築したビビリ護衛官。
そして、五円玉のスパチャを要求する強欲な極貧アイドル。
混沌を極めるポポロ村の防衛戦が、いよいよ幕を開けようとしていた。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「クレイモア地雷キター!」「ヤラセ勇者がクズすぎる!」「まさかのアイドルライブ開幕!?」と少しでも楽しんでいただけましたら、
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次回、リーザのヤバすぎる「歌バフ」と、シンの無慈悲な近代兵器の乱舞が始まります!
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