自警団長マンミアは25歳(売れ残り)を気にしている——僕の要塞化計画、婚活の邪魔しませんよね?
自警団長マンミアは25歳(売れ残り)を気にしている——僕の要塞化計画、婚活の邪魔しませんよね?
「二十五歳! それがどうしたというのだ! なぜ皆、私を腫れ物のように扱うぅぅっ!!」
ズドガァァァンッ!!
ポポロ村の広場に、爆発のような轟音が響き渡った。
土煙が舞い散る中、広場の中央で大暴れしているのは、一人の美しい女性騎士だった。
凛々しい顔立ちに引き締まった上半身。しかし彼女の下半身は、力強いサラブレッドのような美しい馬の姿をしている。ケンタウロス種の自警団長、マンミアだ。
彼女の右腕には、攻防一体の重装盾——巨大な鉄の杭を射出する機構を備えた『パイルバンカー』が装備されており、それが打ち込まれるたびに、広場の岩や木製の訓練用ダミーが木端微塵に粉砕されていた。
「だ、誰か! 誰か私の背に乗る覚悟のある猛者はいないのかーっ!」
涙目になりながら鎖の分銅を振り回す彼女の姿に、自警団の男たちは皆、物陰に隠れてガタガタと震えている。
「ひぃぃぃっ! なんですかあれ! あのパイルバンカー、装甲車でもブチ抜けますよ!? 近づいたら絶対死にます!」
現場に到着した神谷シンは、頭を抱えて悲鳴を上げた。
極度の心配性であるシンにとって、あんな質量を持った暴走兵器は「歩く致死要因」でしかない。
「あの子、生真面目で強すぎるから、村の男たちが尻込みしちゃっててね」
キャルルがやれやれとウサギ耳を揺らしながら解説する。
「アナステシア世界では十六歳で結婚するのが普通なんだけど……今日が彼女の二十五歳の誕生日なのよ。周りから『売れ残り』なんて陰口を叩かれて、限界を迎えちゃったみたいね。シン、貴方なら止められるわよね?」
「なんでそうなるんですか!? 無理無理無理無理! 死んじゃいます!」
全力で首を振るシン。だが、広場で暴れていたマンミアの視線が、シンのオーダースーツ姿をピタリと捉えた。
「おのれ、見慣れぬ優男! キャルル村長といるということは、貴様が噂の凄腕護衛官か! もしや貴様も、私を二十五歳の売れ残りだと笑いに来たのだろう!」
「ひぃぃ!? 違います! むしろ二十五歳なんて地球じゃバリバリの適齢期で——」
「問答無用! 私の背に乗る覚悟があるか、その身で試させてもらう! チャージタックルぅぅっ!」
ドォォォン!と地面が弾け、ケンタウロスの超重量が猛スピードでシンに向かって突進してきた。
総重量およそ四百キログラム。時速六十キロの最高速度。
(衝突まで2.5秒! 直撃すれば全身の骨が砕けて即死する! 嫌だ嫌だ死にたくない!)
恐怖で視界が真っ白に染まる。だが、シンの『プロとしての生存本能』は、パニックに陥る精神とは完全に切り離され、極限の冷静さで状況を計算し始めていた。
殺してはならない。傷つけてもいけない。だが、安全に無力化しなければ自分が死ぬ。
「……危ないですから、止まってください!」
シンの声が、別人のように低く、冷徹な響きを帯びた。
同時に、スキル【合衆国官給品】が発動する。
空間が歪み、シンの両手に現れたのは、特徴的なブルパップ方式のサブマシンガン——**『FN P90』**だった。
五十発の5.7×28mm弾を装填可能なクリアマガジンを備え、銃口にはサプレッサー(減音器)が装着されている。USSSが、要人警護の乱戦時にコートの下から瞬時に展開し、面制圧を行うための特殊火器だ。
「なんだ、その奇妙な黒い筒は! そんなもので私の突進を——きゃあっ!?」
プスススススススッ!!
くぐもった、連続する発射音が響いた。
シンは、マンミアの身体には一発も撃たなかった。
その代わり——彼女の蹄が踏み込もうとしていた軌道上の『小石』や『地面のわずかな突起』を、ミリ単位の精度でフルオート掃射し、ことごとく弾き飛ばしたのだ。
超高速で突進していたマンミアは、頼りにしていた足場の摩擦とバランスを強制的に奪われ、前脚が不自然に滑った。
「あ、れ……っ?」
ズドッシャァァァァァァンッ!!
見事なまでに足がもつれ、マンミアは土煙を上げながら派手にすっ転び、シンの目の前まで数十メートルほど地面を滑って停止した。
圧倒的な質量による突進を、魔法でも力でもなく、わずかな石を弾き飛ばすという『異常な精密射撃』だけで完全に無力化したのである。
周囲で震えていた自警団員たちが、口をポカンと開けてその光景に釘付けになった。
「い、痛ぁ……」
マンミアが涙目で身を起こそうとした瞬間。
「ひぃぃぃぃ! だから危ないって言ったじゃないですかぁぁ!」
先ほどまでの冷徹な姿はどこへやら、シンは半泣きの顔でダッシュし、マンミアの足元に膝をついた。
「動かないで! 前脚、思い切り擦りむいてるじゃないですか! 痛いですよね!? 今すぐ手当てしますから!」
シンはすぐさま【第一応答者】を起動し、米軍仕様の消毒液と高品質の医療用包帯を取り出した。
そして、暴れるマンミアの脚を優しく、だが絶対に逃げられないプロの力加減で押さえ込み、恐るべき手際で傷口を処置していく。
「な、なにをするのだ! 離せ、私は誇り高き騎士——」
「痛くないようにしますから、我慢してください。……うん、筋肉の付き方が凄く綺麗ですね」
「えっ?」
「これだけ立派で美しい脚なら、きっと誰よりも速く走れるんでしょうね。傷が残らなくてよかったです」
消毒を終え、包帯を巻きながらシンがホッと安堵の息をついて見上げた。
その瞳には、打算も悪意もなく、ただ純粋に「怪我が治ってよかった」というオカン全開の優しさだけが満ちていた。
ドックン。
マンミアの胸の奥で、今まで鳴ったことのない音が跳ねた。
自警団の誰もが自分を「恐ろしい女」として恐れ、遠巻きにしていた。
二十五歳という年齢を気にしている自分を、誰も女性として扱ってくれなかった。
それなのに、この細身の優男は——自分の突進をいとも容易く制圧した上で、馬の脚を「美しい」と撫でてくれたのだ。
「わ、私の脚が……綺麗……? う、美しいだと……?」
「ええ。自警団長さんがこれだけ強くて頼もしければ、僕の夜の睡眠も安全に守られますから。本当に感謝しています」
ニコリと笑うシンの天然タラシ発言に、マンミアの顔が一瞬にして沸騰したように真っ赤に染まった。
「あ、あ、ああ……っ!」
マンミアは両手で顔を覆い、ケンタウロスの下半身をモジモジと内股にさせた。
「し、シン殿ぉ……! あ、貴方なら、その……私の背に乗って、生涯の手綱を握ってくれぬか……!?」
「えっ? 移動手段としてですか? それなら歩かなくて済むので助かりますけ——」
「ダメよ!!!」
シンの言葉が終わる前に、背後から猛烈な殺気を放つキャルルが飛び蹴りをかましてこようとした。
リーザも「シンさんのプロデューサーは私ですの!」とお賽銭箱型掃除機を構えている。
「ひぃぃ!? なんか増えた!? 勘弁してくださいよぉぉ!」
シンが頭を抱えて縮み上がった、まさにその時だった。
ピピッ、ピピッ、ピピピッ……!!
シンのスーツの内ポケットから、くぐもった電子音が鳴り響いた。
空気が一変する。シンは表情をスッと消し、懐から一つのスマートフォン型端末——USSSが使用する暗号化戦術端末『ATAK(Android Tactical Assault Kit)』を取り出した。
「シン? どうしたの?」
キャルルが怪訝そうに尋ねる。
シンの端末画面には、先ほど村の周囲にこっそり散布しておいた超小型の熱源感知センサーからのデータが、リアルタイムで赤い光点となって表示されていた。
「……森の奥から、多数の熱源が接近しています」
シンの声が、再び冷徹なエージェントのトーンに切り替わる。
「数は五十……いや、八十以上。人間ではありません。魔物の群れです。……一直線に、この村へ向かってきています」
村を護るという自警団長としての自覚を取り戻したマンミアが、スッと顔を上げた。
「魔物の群れだと!? 迎撃態勢を取らねば! シン殿、貴方の防衛方針に、私と自警団は全面服従を誓う! 指示を!」
「ええ。僕の安全のために、一匹たりとも村には入れませんよ」
平穏な日常への道は遠い。
ゴッドチューブで『ヤラセ配信』を目論む外道たちの魔の手が、すぐそこまで迫っていた。
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「小石を撃ち抜いて転ばせる神業!」「チョロインすぎるケンタウロス団長可愛い!」「とうとう魔物の群れが!?」と少しでも楽しんでいただけましたら、
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次回、いよいよシンの『USSS絶対警護領域』が牙を剥きます。
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