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命乞いするビビリ警護官、0.1秒でヤラセ配信を物理で粉砕す〜近代兵器と極上メシでヒロイン達を餌付けする最強スローライフ〜  作者: 月神世一


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ヤンデレ村長の満月暴走(カチコミ)を阻止せよ!——僕の特製ケーキ(鎮静剤入り)でおやすみなさい

ヤンデレ村長の満月暴走カチコミを阻止せよ!——僕の特製ケーキ(鎮静剤入り)でおやすみなさい

 雲一つない夜空に、煌々とした満月が浮かんでいた。

 ポポロ村は静寂に包まれていたが、村長邸のバルコニーだけは、異様な魔力と熱を帯びていた。

「あぁ……お月様が、とっても綺麗。力が、身体の奥底から際限なく溢れてくるわ……」

 月光を全身に浴びるキャルル・ムーンハートの姿が、劇的に変化していく。

 普段は美しい金糸の髪が、月の光を吸い込んで銀色に輝き始める。ピンと立ったウサギの耳が微かに震え、その瞳は理性を失ったような血走った『真紅』へと染まりきっていた。

「誰かを……癒やしたい。私の有り余る力を叩き込んで、粉々にしてから、完璧に癒やしてあげたい……。あぁ、シン……私の、シン……ふふ、ふふふふふっ……♡」

 月兎族の特性——満月の夜に訪れる、圧倒的な身体能力のブーストと、極度のハイテンション状態。

 異世界のアナステシアにおいて、この状態の彼女を止めることは実質的に不可能とされている。

「ひ、ひぃぃぃぃっ!? キャ、キャルルさん!? なんですかその目は! 髪の色まで変わってますよ!?」

 寝る前の戸締まり確認に来た神谷シンが、バルコニーの異変に気づいて悲鳴を上げた。

 その声を聞きつけ、パジャマ姿のマンミアとリーザも部屋から飛び出してくる。

「しまった! 今日は満月だったか!」

 マンミアが青ざめた顔で絶叫した。

「シン殿、急いで身を隠すのだ! 村長は『満月暴走ハイ・モード』に入ってしまった! この状態の彼女は、有り余る治癒能力の衝動を抑えきれず、近隣の三大国の駐屯地へマッハの速度でカチコミに行くのだ!」

「カ、カチコミ!? なんで治癒能力でカチコミになるんですか!?」

「『完全に治癒するためには、まず対象を半殺しにしなければならない』という謎の理屈で、兵士たちをボコボコにしては全回復させるという、地獄と天国を味わわせるのだ! 翌日には恐怖に駆られた各国から大量の貢物が届くが……国際問題スレスレの最悪の暴走なのだ!」

「はた迷惑すぎますの!」

 リーザが芋ジャージの襟を掴んでブルブルと震えている。

 シンは頭を抱えた。

(近隣の軍隊をボコボコにする!? そんなことをされたら、いずれ村が危険視されて大軍で報復される! 僕の安全な平穏ライフが崩壊してしまう!)

「止めなきゃ! キャルルさん、正気に戻って——」

 シンが声をかけようとした瞬間。

 ギロッ、と真紅に染まったキャルルの瞳が、シンのオーダースーツ姿をピンポイントで捉えた。

「……あぁ、シン。私の愛しい、シン……♡」

「ひっ!?」

「他国の兵士なんかより、まずは貴方を『癒やし』てあげるわ。……両腕と両脚をへし折って、どこにも逃げられないようにしてから、私の愛で完璧に治してあげる……っ!」

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ! 愛が重すぎる! そして物理的に痛すぎる! お断りしますぅぅぅっ!」

 極度の心配性であるシンは、本能の赴くままに全力で背を向けて逃げ出した。

 ドォォォォォォォンッ!!

 次の瞬間、キャルルがバルコニーの床を蹴り飛ばした。石造りの床が爆発したかのように粉砕され、彼女の身体が文字通り『音速(マッハ1)』を超えて弾け飛ぶ。

「逃がさないわよぉぉぉぉっ!!」

「速い速い速い! 冗談じゃない速度ですよぉぉ!」

 村の広場を、衝撃波ソニックブームを撒き散らしながら逃げるシンと、それを追う銀髪のヤンデレ村長。

 通常の人間であれば、一瞬で追いつかれて四肢を粉砕されているところだ。だが、シンの足には、USSSの要人警護で培った『逃走経路の最適化』と、火事場の馬鹿力とも言える究極の生存本能が宿っていた。

(このままじゃ追いつかれる! 防弾シールドを展開しても、マッハの蹴りを食らえば衝撃で内臓が破裂する! 殺さずに、かつ完全に無力化する手段……!)

 走りながら、シンの脳内で二つのスキルが同時に連結リンクした。

「……スキル発動。僕の骨を折ろうとする不審者は、速やかにおやすみください」

 冷徹なエージェントの瞳に戻ったシンが、戦術端末(ATAK)で風向きとキャルルの突進軌道を計算し、即座に能力を起動する。

 使用するのは、医療品を生成する【第一応答者ファースト・レスポンダー】と、絶対安全食を生成する【安全保障配給セーフティ・レーション】のハイブリッド。

 USSSが、野生の大型熊などを無力化する際に用いる、即効性かつ人体に無害な『超高濃度鎮静剤』。

 それを、毒物混入率0%の極上スイーツ——地球の最高級人参を使用した、特製クリームチーズフロスティングたっぷりの『至高のキャロットケーキ』の内部に、完全に調合して実体化させたのだ!

「キャルルさん! これをどうぞ!」

 シンは村の広場の中央にタクティカルテーブルを展開し、その上にキャロットケーキを置き、自らは防弾シールドの裏へとヘッドスライディングで身を隠した。

「無駄よぉぉ! どんな障害物があろうと、貴方を——ピタッ」

 マッハの速度で突進し、まさにシールドごとシンを蹴り砕こうとしていたキャルルの身体が、慣性の法則を完全に無視してピタリと急停止した。

 ズザザザザザザッ!と土煙が舞う中、彼女の鼻(ピンと立ったウサギ耳の下にある、敏感な嗅覚)が、ヒクヒクと動いていた。

「な、なんなの……この、暴力的までに甘くて、スパイシーで……芳醇な香りは……っ」

 月兎族の嗅覚は、人間とは比較にならない。

 シンの【安全保障配給】によって作られた食事には、ただ美味しいだけでなく『精神的デバフの完全解除』という強力なバフ効果が備わっている。

 満月による狂暴化という精神異常状態にあったキャルルの脳は、このケーキの匂いを嗅いだ瞬間、本能レベルで「これを食べれば癒やされる」と誤認したのだ。

「あ……ああぁ……」

 キャルルはフラフラとテーブルに近づき、フォークも使わずに、両手でキャロットケーキを掴んで大口を開けた。

「はむっ!」

 ——その瞬間。

 人参の自然な甘み、クルミとシナモンの絶妙なアクセント、そして濃厚なクリームチーズの酸味が、キャルルの口の中で奇跡のシンフォニーを奏でた。

「んんんんんんんんんっっっ! 美味ひぃぃぃぃぃぃっ♡」

 キャルルの真紅の瞳から、スゥッと狂気が抜け落ちていく。

 銀色に輝いていた髪が元の美しい金糸へと戻り、全身から噴き出していた圧倒的な闘気が、まるで嘘のように霧散していった。

「あぁ……美味しい……シンの、ご飯……私、すっごく、幸せ……」

 そして、ケーキに仕込まれていた『超高濃度鎮静剤』が、彼女の血液に秒速で作用する。

 大型熊を3秒で眠らせる薬効の前に、いかに月兎族といえども抗えるはずがなかった。

「シン……愛して、るわ……むにゃ……」

 ドサッ。

 キャルルは幸福そうな笑顔を浮かべたまま、芝生の上に倒れ込み、スヤスヤと安らかな寝息を立て始めた。

「……ふぅ。ミッション・コンプリート。対象の無力化に成功しました」

 防弾シールドの裏から這い出してきたシンは、ハンカチで滝のような冷や汗を拭いながら、ガックリと膝をついた。

「ひぃぃ……死ぬかと思いましたよ……やっぱりこの世界、危険すぎますぅぅ……」

 泣きべそをかきながらも、シンは手早く自分のスーツの上着を脱ぎ、夜風で冷えないようにキャルルの身体に優しく掛けてやった。

 その一部始終を少し離れた場所から見ていたマンミアとリーザは、顔を見合わせてゴクリと生唾を飲み込んだ。

(マッハの速度で暴走する月兎族の村長を、暴力ではなく『甘いケーキ』一つで完全に制圧しただと……!?)

(シンさん、やっぱり恐ろしいオカン系暗殺者ですの……!)

 シンの異常な危機管理能力と料理スキルは、またしても村の平和(と近隣諸国の安全)を、誰にも知られることなく守り抜いたのであった。

 ***

 ——翌朝。

 チュンチュン、と小鳥のさえずりが聞こえる村長邸の寝室。

 ふかふかのベッドの中で目を覚ましたキャルルは、自分がシンのオーダースーツの上着に包まれていることに気づき、昨夜の記憶をフラッシュバックさせた。

「っ……!? わ、私……満月の暴走で、シンに襲いかかって……骨を折ろうとして……っ!」

 ボフッ!と、キャルルの顔が茹でダコのように真っ赤に染まる。

 大好きな彼に、あんな見境のない、はしたなくて恐ろしい姿を見せてしまった。嫌われたかもしれない。拒絶されるかもしれない。

 不安で胸が張り裂けそうになった時、ガチャリと寝室の扉が開いた。

「あ、おはようございますキャルルさん。昨夜は床で寝かせちゃってすみません。重くて運べな——ゲフンッ、起こしちゃ悪いと思って。朝食のパンケーキ、焼けてますよ」

 そこには、いつもと変わらない、温かくて優しい笑顔を浮かべるシンの姿があった。

「シン……」

 キャルルはベッドから飛び起きると、シンの胸に思い切り飛び込んだ。

「ひぃっ!? キャルルさん、まだ暴走が!? 僕の骨は——」

「違うわ、バカ……」

 キャルルはシンの胸に顔を埋め、上目遣いで彼を見上げた。

 その瞳には、狂気ではなく、純度100%の乙女の恥じらいが浮かんでいた。

「私の……あんな恥ずかしい姿を見たんだから……。ちゃんと、責任取ってくれるわよね……?」

「……はい? 責任?」

「私の専属護衛として……一生、私にあの甘いケーキを作り続けなさいって言ってるのよ! この朴念仁!」

 顔を真っ赤にして叫ぶキャルルと、全く意味が分からずに首を傾げるシン。

 ヤンデレ村長の重すぎる愛は、シンの極上スイーツによって、さらに深くて抜け出せない泥沼へと進化してしまったようである。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!

「マッハのカチコミをケーキで止める男(笑)」「クマ用麻酔入りキャロットケーキ美味しそう!」「キャルル村長可愛い!」と少しでも楽しんでいただけましたら、

ページ下部の【ブックマークに追加】と、

【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価していただけると、執筆のモチベーションが爆上がりします!

シンの平穏な生活は、ヒロインたちの愛(物理)によって今日も脅かされています!

次回、村の地下に眠る怪しい影……? ドワーフとの密輸交渉編! 何卒よろしくお願いいたします!

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