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第16話【気付き①】

 私の人生において、告白されるなんて一大イベントが起こるなんて思ってもみなかった。ましてや太っていた私でもいいと、そう言われるなんて。ただ、どう返事をするかはずっと答えが出ないでいた。


 この一年、本当に頑張ってダイエットをしてきた。それに、今だって前ほどではないけれど運動もして、食事も注意している。春からはちょっとずつではあるが、まだ体重は減らせている。以前はお兄さんに告白したいという気持ちでダイエットは頑張っていた。でも今は、自分を好きになって、自信を持ちたくて、前を向けるようになりたくて、自分のために頑張っている。


 玲央くんは太っている子が好きなんだよね。じゃあ頑張ってきたこの一年は? これから痩せようとしている私は?


 一人の女性としてみてもらっていることは本当に嬉しい。それに誰でもいいわけではないとも言っていた。それでもずっと胸の内に引っかかる物があった。


「はぁ……」

 部屋で勉強をしていたが集中できず、スマホを手にした。


 いっそ春ちゃんに相談したい。でも、今回はそれはしてはいけない気がした。自分で解決しないといけないことだと思った。それが玲央くんに対しての誠意だとも思う。


「戸津はすごいなあ……」

 何度も告白されているだろう彼を思い出す。どうやって自分で決めて返事をしているのかアドバイスをもらいたいくらいだ。


 人を好きになる気持ちはお兄さんに教えてもらった。ちょっとしたことでドキドキしたり、悲しくなったり、嬉しくなったり、その人の事を思うと胸がギュッとしたり……


 玲央くんといて、ドキドキはした。でも他の気持ちはどうなんだろう。付き合ったりして育まれるものなのかな。長くいないと分からないこともあるんじゃないかな。


「お兄さん。私、分からないことがまだいっぱいあるよ……」


 お兄さんとクリスマスに撮った写真を眺めた。今だって胸の奥がほんのり熱くなる。でも、時間が経つに連れて、その熱さも少しずつ消えかけていることに気付いていた。




「優奈ちゃん、おはよ」

 ゴールデンウィークが明けて初日、席に着くと玲央くんに挨拶をされた。今まで通り、変わらない挨拶だ。


「お、おはよう」

 一方の私はぎこちなくなる。意識しすぎてどうやって話せばいいのかが分からない。


 結局答えも出せていないし余計に気まずい。

 目を合わせずにいると、スカートのポケットに入れていたスマホが軽く振動した。


『返事、急いでないから。ゆっくり考えてくれると嬉しいな。またよろしくね』

 と、玲央くんからのメッセージだった。右後ろを振り向くと、ピースをして可愛く笑う彼と目が合った。


 玲央くんはどこまでも気遣いができて、優しい人なんだと思う。きっと付き合ったらほしい言葉も沢山くれるんだろう。なのに、何故か心が決まらない。


 考えて考えて考えてみよう。

 この答えが見つかるとき、何かが変わる気がする。




 それからしばらく経ったある日の放課後、戸津と春ちゃんに呼び出された。部活に行ったり、帰宅したりで人の気配が少なくなっていた教室の端で、不機嫌そうな二人に静かに問い詰められた。この二人が結託するなんて想像もしていなかった。


「優奈、最近また少しおかしいよ。ボーッとしたり、人の話聞いてなかったり。また何かあったでしょ」

「一人で抱え込むなって言っただろ。まだ俺達のこと信用してねぇのか?」


 ドキッとした。また心配をかけてしまっていたらしい。


「ごめん、二人とも。今回はそういうのじゃないの、本当に」

「でも悩んでるようにみえるよ?」


 春ちゃんは食い下がる。


「二人のことは信用してる。ただ今回だけは自分の力で答えを見つけないといけなくて……」

「そんなに言えないこと……?」


 春ちゃんが私の手を握りしめる。


 うう、胸が痛い。


 決心が揺らぐ。

 いっそ彼女にだけでも相談してみようかと、そう思っていた矢先だった。


「皆、どうしたの?」


 ちょ……!

 待って待って待って。タイミング最悪!


 悩みの種である玲央くんが私の背後から顔を出した。


「あ、はは。玲央くん、今ちょっと話してて……」

「細田。お前、細川を悩ませてる原因だったりしないよな?」


 戸津が私の言葉に被せるように尋ねた。


 心の中でやめろー! と、叫ぶがそれは声にならない。


「あ、あ……」


 どうしよう、なんて言えばいいのか言葉が見つからない。私が明らかに動揺してるのを見て、戸津も春ちゃんも原因が玲央くんだということに勘付いたようだった。


「ん?」


 玲央くんがキョトンとした顔で私達の顔を順番に覗く。

 それから「あ、なるほど」と、彼は手をポンと叩いた。


「それ多分僕だ」

「はあ? お前何したんだ? 表向きいい顔して、裏で嫌がらせでもしてないだろな?」

「そんなことするわけないよ。だって僕……」


 玲央くんが私の顔を見てにこりと笑いかけてきた。

 まさか、と思い慌ててシーッと人差し指を立てて、首を横に振る。が、彼は続けた。


「優奈ちゃんに告白したんだもん」

 彼は小声で二人にだけ聞こえるようにこそっと話した。


 終わったー!


 血の気が引く感じがした。なんだかめまいがしてくる。


「ちょ、ちょ……玲央くん、なんで言っちゃうの」

「だって二人とも、優奈ちゃんのこと心配してるんでしょ? ちゃんと説明しないとだし」


 私が慌てて二人の顔を見ると、二人は対称的な表情をみせている。

 春ちゃんは目を輝かせて口元のにやけを手で覆って隠している。


 それ、隠してもバレてるよ……


 そして戸津はというと、かなり険しい顔をしていた。

 こんなくだらないことで心配かけるなって怒られるかと思い、戸津の目を見ていられなかった。


「その話詳しく……」

 春ちゃんはわくわくが隠せていない。


「ま、まだ返事に悩んでて……自分でちゃんと決めたいから。だから言えなくて……」

「そう、だからまだ僕の片想いってことなの」


 あっけらかんと話す玲央くん。その肝の太さは見習いたい。


「細田。ちょっとだけあっちでいいか」


 ずっと黙っていた戸津が顎で廊下を指すと、私に見向きもせず玲央くんを連れて行く。

 不機嫌な戸津、私に手を振っていく玲央くんに、横でウズウズしている春ちゃん。


「はは……どーしよ」




 結局、その日の帰り道、事の顛末を春ちゃんには伝えた。


「というわけで、今回だけは自分でちゃんと答えを考えたいの」

「なるほど……そういう事だったんだね」


 一通り話しを聞くと彼女は満足そうに頷いた。


「じゃあ、一点だけ。思考をまとめやすくするために話を聞いていて思ったこと言っていい?」

「うん、お願いします」

「……好きって気持ちって、どれも同じなのかな?」

「え?」


 予想しなかったその言葉に首を傾げた。


「優奈はお兄さんに対して好きの気持ちがあった。その時の気持ちと比べちゃってるんでしょ? でもそれが全部当てはまらないといけないのかな。人によって変わることはないの?」


 春ちゃんは一呼吸置く。


「一緒にいてドキドキする人もいるだろうし、安心する人もいるだろうし、守りたいって思う人もいるだろうし……多分好きって人それぞれなんじゃないかなぁ。だからさ、お兄さんと比べなくていいんじゃない?」


 彼女の言葉はどれも私の思考からは生まれようがないもので、目から鱗が落ちる気がした。


「す、すごい。春ちゃんって実は百戦練磨?」

「私は漫画のキャラにしか恋したことないから分からない」


 キッパリと否定され思わず笑ってしまう。


「あとね、優奈。もう一つあったわ」

 春ちゃんの顔つきがキリッと変わる。


「『私なんかに告白してくれて』って、また『なんか』って言ってたでしょ。あれ、禁句」

「あっ」

「春休み、泊まりに来たときも話したでしょ。私が優奈のどこが好きかって」

 その時の春ちゃんの誠実な言葉を再び思い出した。


『優奈は自分を下げすぎる。私は良いところいっぱい知ってるよ。素直なところ。優しいところ。困ってる人をほっとけないところ。優奈の傷付きやすさは、優しさの裏返しなんだと思う。そんな優奈を内面からしっかり見てくれる人はこれからも沢山出てくる。私が保証する』


 彼女の言葉は心に染み入るようで、お兄さんに振られて傷付いていた私の自尊心を温かく包んでくれた。


「優奈。自分にも優しく、ね。自分の気持ちに嘘をつかないこと」


 ニヒッと笑いかけてくれる。いつも味方でいてくれているその存在に、私はいつだって救われている。


「あー、春ちゃんが男だったらなぁ!」

「現実逃避は禁止」


 二人で顔を見合わせ、吹き出して笑い合った――

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