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マリセポネは嘘をつかない  作者: ひろほね


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2/3

拒絶の森、記憶の湖

呼吸を整えた後、ゆっくりと立ち上がると、

ロイはマリセポネを指して言う。

「めざすよな。あれ。」

「なんで?意味あるの?」

少し考えてからロイは言った。

「果実を見つけたやつは、願いを叶えてもらえるらしい」

「なんでもってわけじゃないけどな。」

果実を見つけられれば、願いが叶う。

俺の願いってなんだ。

少しの間黙った。

「別にいいんじゃね、意味なんて後で見つければ。」

少しめんどくさそうな顔をしてロイが言った。

「なんだそれ」

笑いながら二人で歩き始めた。


しばらく歩くと、さっきまでいた街が、遠くに見えていた。

気づけば黒い木々で覆われた場所まで来ていた。

「ここどこ・・・」

風が吹いているわけでもないのに、肌がざわつく。

空気が変わった気がした。

木々はまっすぐ伸びているのに、どこか歪んで見える。

「・・・なんだよここ」

足元の土はやけに柔らかい。

沈むような感覚。

ロイは何も言わず少し前を歩いている。

「なあ」呼びかける。

「ここ、なんなんだよ」

ロイは少しだけ振り返って軽く答えた。

「拒絶の森」

そのまま、また前を歩く。

「見たまんまじゃん」

乾いた笑いが漏れる。

そのとき。

――やめてよ。

声がした。

足が止まる。

「・・・今の」

ロイは止まらない。

――触らないで。

さっきよりはっきり聞こえる。

周りを見るが、誰もいない。

でも、“いる”。

木の隙間に、何かが立っている気がした。

「気持ち悪いな」

目を逸らそうとする。

「見ろよ」ロイの声。

短い。

「・・・は?」

「見ないと進めない。」

足が動かない。

視線だけをゆっくり戻す。

木の影。

人の形。

ぼやけているが、確かにこっちを見ている。

「・・・誰だよ」

一歩近づく。

その瞬間、はっきりと“顔”が見えた。

クラスの女子だった。

「・・・ッ」

思わず体が止まる。

その顔が、歪む。

「タバコ臭い」

心臓が跳ねる。

「近づかないで」

声が刺さる。

思わず後ずさる。

「・・・違うだろ」

言葉が勝手に出た。

横からクラスの男子が出てくる。

笑っている。

「くさ」「マジ無理」「なんであいつ普通にしてんの」

心臓が強く打つ。

「・・・違う」

影は止まらない。

同じ言葉を繰り返す。

「お前、そんな言い方―」

言いかけて止まる。

なんだか違和感がある。

ロイの声が横から入った。

「それ、本当に“そいつ”の言葉か?」

「・・・は?」

もう一度影を見る。

口は動いているが、どこかおかしい。

「臭い、映る、ムリ」

同じ言葉が繰り返されている。

感情が無く、ただなぞっているだけ。

「なんだよ、これ」

ロイが近づいてくる。

「お前がそう思ってる言葉だろ」

ロイはそれ以上何も言わない。

ただ少しだけ距離を詰める。

「じゃあさ、どうすりゃいいんだよ」

声が低くなる。

ロイは肩をすくめる。

「簡単だろ、“拒絶”すんなよ」ロイが言う。

簡単に言うな。そう思った。

「“見たくないものが出る場所”なんだよ」

「そんなの、放っておけばいいじゃん」

「それ、今までずっとやってきたことだろ」

言葉が刺さる。

「だから何だよ。」

ロイはそれ以上何も言わず、ただ待っていた。

逃げ場がない。

すると、影が近づいてきた。

思わずあとずさる。

足元が沈む。

「うつるって」「近づくなよ」

声が重なり、増えていく。

一人じゃない。

周りにどんどん増えていく。

「・・・やめろ」

耳を塞ぐ。

でも聞こえる。

「やめろって!」

叫んだ瞬間、地面がひび割れた。

足元が崩れる。

「ヒロキ」ロイの声。

「落ち着け」

「うるさい!」反射的に返す。

「お前のせいだろ」

空気が止まる。

ロイの表情が変わる。

「は?」

「お前が見ろとか言うから」

言葉が止まらない。

「ほっとけばよかったんだよ」

森が揺れて、影がさらに増える。

「・・・ヒロキ、それ本気で言ってる?」

「は?」苛立ちのまま睨む。

ロイが一歩踏み出す。

「じゃあさ」静かに言う。

「一生そうやって逃げてろよ」

「・・・ッ」

初めての“拒絶”。

胸がざわつく。

「どうせ無理なんだろ?」

さっき自分が思った言葉。

そのまま返される。

言い返せない。

沈黙があり、影の声だけが響く。

「臭い」「無理」「一人でいろよ」

足が震える。

でも、ロイが見ている。

「どうすればいいんだよ」

小さく漏れる。

ロイはすぐには答えず、間を置く。

顎で前を指す。

「一人選べ」

「え?」

「全部相手にすんな」

「・・・」

「“これ”ってやつ一個だけでいい」

周りを見る。

全部同じに見えるが、よく見ると違う。

一人だけ、少し距離が近い。

プリントを拾った時の女の子。

「・・・これかよ」

最悪だ。

一番嫌なやつ。

足が動かない。

(どうせ)浮かぶ。

その瞬間、影がまた歪む。

歯を食いしばると、一歩踏み出した。

「一回だけだからな」

誰に言うでもなく、つぶやく。

近づくが、怖い。

でも、止まらない。

手を伸ばすと触れた。

―消えない。

「・・・え」

影がこちらを見る。

さっきと違がい、少しだけ表情がある。

「・・・ありがとー」

一瞬だけそう聞こえた。

次の瞬間、すっと消えた。

静寂が訪れる。

影も、声も消えて、崩れていた地面が戻る。

「なんだよ、これ」

ロイが隣に来る。

「な?」短く言う。

「・・・意味わかんねえ」

本音が出る。

ロイは笑う。

「それでいいんだよ」

前を見ると少しだけ開いている。

「・・・進めるな」ぼそっと言う。

ロイは何も言わず、ただ、少しだけ嬉しそうにしていた。


―ヒロキは気づかない。自分から前に進んだことに―


森を抜けた先は少し開けていた。

風がある。

でも音はしない。

「・・・ここは」

目の前には、湖。

波は立っていないのに、水面が揺れている。

覗き込むと自分の顔が映る。

「普通じゃん」思わず言う。

ロイは少し離れたところで立ち止まっている。

「入るか?」

「は?」

「入らないと見えないよ」

軽く言う。

嫌な予感しかしない。

「なんでだよ。」

ロイはしばらく考えてから言う。

「逃げられないから。」

意味が分からない。

でも、わかりたくないことは分かる。

「別に見なくても」

目を逸らす。

ロイは否定しない。

「いいんじゃね」

あっさり言う。

「どうせまた、“どうでもいい”で終わらせるんだろ」

振り返る。

「なんだよそれ」

ロイはこっちを見ない。

「事実だろ」

その一言で、胸がざわつく。

「・・・違う。」

小さく否定する。

「違わないって」ロイの声は静かだった。

「お前さ、見てないだけじゃん」

イラついた。

「見たって、意味ないだろ」

「意味あるかどうか決める前に、見ろよ。」

言い返せない。

沈黙の中、水面がゆらりと揺れる。

逃げるか、それとも。

「・・・一回だけだからな」ぼそっと言う。

靴のまま、水に足を入れる。冷たい。

だが、不思議と沈まない。

一歩、二歩。

膝まで入ったところで、世界が変わった。

――暗い。

息が詰まる。

視界が狭い。

何だよこれ。

狭くて動けない。

水の音。

でも、湖じゃない。

「出して!」

声が響く。

自分の声だと気づくのに時間がかかった。

「出して!怖い!」

上をたたく。

でも、開かない。

重く、苦しい。

そこで気づく。

風呂だ。あの時の。

蓋を閉められた。

―出てこなくていいから。

声がよみがえる。

「やめろ・・・」

目を閉じるが消えない。

苦しい。怖い。

「ロイ!」叫ぶ。

返事はない。

「ロイ!!」返ってこない。

一人だ。

「・・・ふざけんな」

呼吸が乱れる。

叩く、押す。

でも開かない。

あの時と同じ。

諦めかける。

(どうせ)浮かぶ。

その瞬間。

「ヒロキ」声がする。

外じゃない。

中でもない。

どこからかわからない。

「それ、どう思った」

ロイの声。

でも姿はない。

「・・・わかんねえよ」叫ぶ。

「怖かった」反射的に出る。

言った瞬間、空気が変わる。

「そっか」短い返事。

それだけで、否定も、慰めもない。

でも、少しだけ呼吸が戻る。

「怖かったよ」もう一度言う。

今度は自分の為に。

押すと、蓋が少し開く。

「は?」

もう一度押す。

今度は開いた。

光が差し込む。

大きく息を吸う。

「・・・はぁ・・・はぁ」

次の瞬間、また景色が変わる。

リビング。

「なんで学校行かないの!」

母の声。

「じゃあタバコやめてよ」

自分の声。

空気が張り詰める。

「それとこれとは関係ないでしょ!文句ばっかりいわないの!」

「あるんだよ!」

言い争い。

何度も繰り返した光景。

今度は外から見ている。

自分が怒っている。

でも、少しだけ震えている。

「・・・・」

気づく。

怖かったんだ。

あの匂いも、あの空気も、全部。

「関係あったじゃん。」

小さく呟く。

その瞬間景色が揺れる。

リビングが消える。

今度は自分の部屋。

サスケが暴れまわっている。

ピギャー、ピギャー

バタバタ羽を羽ばたいて、鳥かごの中で必死に暴れている。

隙間の空いた窓をこじ開けて猫が入ってくる。

それを遠めに見ている自分。

「やめろ!」「サスケ!逃げろ!」

鳥かごはひっくり返り、ばらける。

必死に飛び回るも、捕まえられ、かじられる。

猫の目をひっかき、何とか脱出するも、

羽は折れ、血だらけになって動けないまま、息絶えた。

あたりには羽が散らばった。

「なんでだよ。」

「どう思った」ロイが問う。

「・・・悲しかった」

するとまた水面が大きく揺れ、明るくなった。

今度は体操服を着た自分がいる。

「お弁当作ってきたから、頑張って1位とってね!」

「うん、頑張る。」

かけっこが始まる。

「位置について」

体に緊張が走る。

「よーい、ピー」

足を踏み込んで、めいっぱい走る。

ふと横を見ると、カメラをもって、母が同じくらいの速度で、

なりふり構わず走っていた。

「はずいって」

結局1位にはなれなかった。

「ヒロキ、頑張ったね、えらいわ」

「お母さん目立ちすぎ。はずい」

二人で笑いながら、唐揚げと卵焼きを頬張った。

「嬉しかった」

ぽつりと出る。

その瞬間、水面が光る。

「あったじゃん。」

ロイの声。

振り向くと、少し離れた場所に立っている。

言葉が出ない。

ロイは軽く笑う。

「ちゃんと」

それだけ言う。

湖が静かになる。

さっきまでの揺れが嘘みたいに。

少しだけ暖かい風が吹く。

「なぁ、これ終わり?」

ロイを見る。

ロイは考えながら言う。

「さぁな」またそれ。

でもイラつかない。

まぁいいや。

小さく息を吐く。

前を見ると、湖の向こうに道が続いている。

「行くか」自分から言う。

ロイは何も言わず、その後ろを歩き出した。












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