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「杜若美南さんをここにつれてきたカードは、カップの6。逆位置。これは、過去と思い出を表しています。正位置も逆位置も、基本的にはポジティブな解釈をすることが多いですね」
包帯を巻きとったもう片方の手で、ボディバッグのファスナーを開ける。五芒星の書かれたレザーケースを取り出した。片手だけで器用にふたを開け、カードをしまいこむ。
「だからといって、あなたの悩みがポジティブに解決できるとは限りません。素晴らしい過去や思い出に依存している、とも読み取れるからです。あなたは今、現在と未来を否定しているのかもしれない。……これからの未来はいかようにも変えられるというのに」
ケースをボディバッグにしまい、ファスナーを勢いよく閉めた。
「杜若美南さん。あなたはなにも、話さなくていいですよ。僕の目を、しっかりと見ていてください」
再び、紫色の目が美南さんにまっすぐ向かう。美南さんはというと、ただただ睨み返していた。
空気がどんどん張り詰めていく。声を出すのはもちろん、ピクリと動くことさえも許されない。どちらかが反応を見せるまで、俺はただひたすらに待つしかなかった。
「お考えのとおり、絶縁しかないでしょうね」
先に口を開いたのは星空だった。美南さんの目が、若干見開いたような気がする。
「今考えている方法でうまくいきますよ。それが最善です。なるべく早くがいいでしょう。手遅れになって、抜け出せなくなる前に」
以上、とでも言わんばかりに、包帯を目元に合わせて巻き始めた。
「え? それだけ?」
ギャル娘が目をぱちくりとさせ、へらりと笑う。
「なにそれぇ? 適当言ってんじゃないの? それらしいこと言ってるだけじゃん」
「この場でもっとはっきりと言うこともできますが、ここでことを大きくするのは望んでいらっしゃらないのでしょう?」
美南さんは返事をしない。アイラインを跳ね上げた目で、じっと星空を見据えている。
「ってかぁ、絶縁って、あの絶縁? ママ、最近やらかしたやつとか、いたっけ?」
その問いに答えることもない。
「……あんた、なにが望みだい? 金かい?」
テーブルに腕をのせて前のめりに尋ねる美南さんに、星空は手を止めることなく返す。
「そうやって身構える必要はありません。僕たちがあなたから読みとった情報を口外することはありませんから」
「どの程度の情報握ってんのかわからんが、場合によっちゃ」
「杜若美南さんにしては、不毛なことをおっしゃるんですね」
頭の後ろで、ぎゅっと結ぶ。
「ほかの組のスパイとか、情報屋の存在とか、ご自身でもその可能性は低いとわかってらっしゃるのに」
美南さんの表情が、理解不能な宇宙人を前にしたそれに変わった。若干、身を引いている。
「気味が悪いね、あんた。まるであたしの心と会話してるみたいだ」
そうです。その通りです。正解です。
「じゃあ、ほんとうに占っただけだと? 私をゆするつもりもなく?」
「ゆするつもりはありませんが、報酬はいただくことになるでしょう」
「ふん、やっぱり金か」
「これから、杜若美南さんの運命は少しずつ変わっていきます。その変化が大きければ大きいほどに、報酬の質や量も変わっていくことでしょう」
ギャル娘は、星空の怪しさに警戒するような目を向ける。美南さんは握りこぶしを口元に当て、なにやら考え込んでいた。
その全身にまとっていた荒々しさが、消えている。――よし。チャンスだ。
「それでは、今回の報酬について」
「今はいただきません」
星空がかぶせてきた。こいつ……せっかく俺が交渉しようとしてたのに~。
「報酬は、僕の助言に従って結果が出たときにお支払いください。うちは、後払い制なんです。お金でもいいですしお金でなくてもいいです。いくら、とも言いません」
「後払い、ね。うちらが金を払わずにトンずらするとは思わないのかい?」
「……言わずもがな。払わないという選択は、おすすめしません」
星空の声質が、変わった。一言一言がやけに冴えわたる。
「すべてを終えたとき、あなたはきっと、僕のことを思い出すはずです。どんな報酬をどれほど渡すべきか、自然と頭に思い浮かぶことでしょう」
まるで、こんこんと頭に植え付けていくかのようだった。
「適切な報酬でなければ、幸せになるはずだった未来はねじれます。すべてが、台無しになるんです。まあ、あなたともあろうお方が、そんな馬鹿な真似をするとは思いませんがね」




