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奇抜な名前の飲み屋にスナック、レトロな外観のストリップ劇場、そして、修正済みの女の子が並ぶ風俗店――。通りには、どこか怪しい、ディープな店が並んでいた。
日が昇る昼下がりだというのに、酔っぱらってるおじさんが道端に座ってゲラゲラと笑っている。すれ違った女性は、丸々とした体を揺らし、ボロボロのヘルスに入っていった。
タロットカードを拾った女性に案内されて到着したのは、この通りにしてはやけにきれいなマンション。の、一階。
エントランスに続く中央の階段を貸し店舗で挟んでいる。通りの奥側には汚れた暖簾のラーメン屋、手前側が空き店舗だ。
すりガラスの引き戸を開けて入ると、中は薄暗い。女性が奥に向かってしばらく、オレンジ色の灯りがパッと点いた。
見た感じは、雑居ビルなんかによく入ってる、狭い飲み屋と言ったところだ。
十人も座れないようなカウンター席と、反対側の壁に背面を付けた、長いソファ席。小さいテーブルが二つだけ並び、簡素な丸イスが乱雑に置かれている。
「悪いねぇ」
奥の廊下で、開きっぱなしのドアが道を塞いでいた。おそらく、その部屋がバックヤードだ。中で張り上げる女性の声が、店に響いていた。
「ここに人が来ることなんてめったにないから。なんにも出せやしないんだ」
「お構いなく」
星空は手前側のテーブル席に進み、ためらいなくソファに腰を沈める。ずっと持っていたカードをテーブルに放った。
ギャル娘が丸イスを引きずり、向き合うようにして座る。その後ろを通りながら、改めて店の中を見渡した。
カウンターの中には酒棚が取り付けられていたが、酒瓶も調理道具もそこにはない。テーブルやイスにほこりが積もっていないところを見ると、管理はされているらしい。
壁紙が大きくはがれているなんてこともないし、床に目立つ汚れやシミもなかった。もしかすると、空き店舗になってそこまで日がたっていないのかもしれない。
テーブルの間に入り、星空のとなりに腰を下ろす。
「ここはね、もともとバーだったんだ」
バックヤードから女性が戻ってきた。
「ホスト上がりの薄っぺらい野郎がオーナーでね。あたしらが出資して開いたんだけど……すぐにつぶれたよ。オーナーが失踪しちまってね」
ギャル娘のとなり、俺の前に座って背筋をのばす。
漂う品の良さ、常にキープしている強い笑み。そのたたずまいはやはり、クラブのママのそれだった。まるで彼女のほうが俺たちを接客しているかのようだ。
その口から飛び出る言葉は、決して上品なんてもんじゃなかったが――。
「借りた金を返せないようじゃあ、火だるまか海の藻屑になるしかないもんね。開いて半年もたってなかったってのに、かわいそうなもんだ」
思い出すように上を見ながら喉を鳴らす。少なくとも冗談ではなさそうだ。彼女にとっては取るに足らない、世間話の一つなのだろう。
「つまり、ここは今私のものってわけ。なぜかだあれも使いたがらなくってねぇ」
「もう、ママったら。そりゃ上に怖い人がたくさん住んでるんだから使えないよ~」
つまりここは、彼女たちのテリトリー。少しでも対応を間違えれば命取り。――リンチされたときとはまた違う恐怖が、じわじわとこみ上げてくる。ピンと伸ばした俺の背中で、変な汗が噴き出していた。
一方で、となりの星空は平然と包帯をほどき始める。
「ありがたいことです。こういった場所のほうが、こちらも都合がいいので」
はらりと外れていくのを手に巻きとり、まぶたを開く。
あらわになったのは、透き通るラベンダーの瞳。屋内ではわかりにくいが、ほのかに光を放っている。
「へえ、驚いた。あんた、意外ときれいな目ぇしてんだねぇ」
「それ自前? カラコンとかじゃなくて?」
ギャル娘はテーブルに手をついて身を乗り出し、その目をのぞきこむ。星空は斜め前に座る女性に顔を向け、微動だにしない。
「ふえぇ……はじめてみたぁ」
瞳の色すべてが本物であることを理解したのか、ギャル娘は呆けた顔で腰を戻した。
「紫はかなり珍しいけどいるにはいるさ。日本人にはほとんどいないレベルだけどね。この目玉なら、かなりの高値で売れそうだ」
「確かに~」
親子は上機嫌に笑い合う。――冗談かガチかわからねえ言い方しやがって。
「お会いできて光栄です。杜若美南さん」
星空が名前を呼んだ瞬間、二人の笑みが消えた。
「先に断っておきます。僕は、四柱推命や占星術のような占いはしません。ただ、あなたを視るだけです」
女性、もとい、杜若美南さんは冷ややかに星空を見返す。親子そろってうんともすんとも言わない。
まるで室内の温度が氷点下にまで下がったかのようだ。
へたに茶化す言葉もフォローの言葉も出せない状況で、星空は淡々と続けた。
「心配しなくても、あなたがたの敵ではありません。しょせんはただの、占い師です」
テーブルに置いていたカードを手に取り、二人に見せる。




