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死にたがり予言者と迷える子羊たち  作者: 冷泉 伽夜
Six of Cups ~自立~
19/24

2-1


 奇抜(きばつ)な名前の飲み屋にスナック、レトロな外観のストリップ劇場、そして、修正済みの女の子(パネル)が並ぶ風俗店――。通りには、どこか怪しい、ディープな店が並んでいた。


 日が昇る昼下がりだというのに、酔っぱらってるおじさんが道端に座ってゲラゲラと笑っている。すれ違った女性は、丸々とした体を揺らし、ボロボロのヘルスに入っていった。


 タロットカードを拾った女性に案内されて到着したのは、この通りにしてはやけにきれいなマンション。の、一階。


 エントランスに続く中央の階段を貸し店舗で挟んでいる。通りの奥側には汚れた暖簾のラーメン屋、手前側が空き店舗だ。


 すりガラスの引き戸を開けて入ると、中は薄暗い。女性が奥に向かってしばらく、オレンジ色の灯りがパッと点いた。


 見た感じは、雑居ビルなんかによく入ってる、狭い飲み屋と言ったところだ。

 十人も座れないようなカウンター席と、反対側の壁に背面を付けた、長いソファ席。小さいテーブルが二つだけ並び、簡素な丸イスが乱雑に置かれている。


「悪いねぇ」


 奥の廊下で、開きっぱなしのドアが道を塞いでいた。おそらく、その部屋がバックヤードだ。中で張り上げる女性の声が、店に響いていた。


「ここに人が来ることなんてめったにないから。なんにも出せやしないんだ」


「お構いなく」


 星空(せいら)は手前側のテーブル席に進み、ためらいなくソファに腰を沈める。ずっと持っていたカードをテーブルに放った。


 ギャル娘が丸イスを引きずり、向き合うようにして座る。その後ろを通りながら、改めて店の中を見渡した。


 カウンターの中には酒棚が取り付けられていたが、酒瓶も調理道具もそこにはない。テーブルやイスにほこりが積もっていないところを見ると、管理はされているらしい。


 壁紙が大きくはがれているなんてこともないし、床に目立つ汚れやシミもなかった。もしかすると、空き店舗になってそこまで日がたっていないのかもしれない。


 テーブルの間に入り、星空(せいら)のとなりに腰を下ろす。


「ここはね、もともとバーだったんだ」


 バックヤードから女性が戻ってきた。


「ホスト上がりの薄っぺらい野郎がオーナーでね。あたしらが出資して開いたんだけど……すぐにつぶれたよ。オーナーが失踪しちまってね」


 ギャル娘のとなり、俺の前に座って背筋をのばす。


 漂う品の良さ、常にキープしている強い笑み。そのたたずまいはやはり、クラブのママのそれだった。まるで彼女のほうが俺たちを接客しているかのようだ。


 その口から飛び出る言葉は、決して上品なんてもんじゃなかったが――。


「借りた金を返せないようじゃあ、火だるまか海の藻屑になるしかないもんね。開いて半年もたってなかったってのに、かわいそうなもんだ」


 思い出すように上を見ながら喉を鳴らす。少なくとも冗談ではなさそうだ。彼女にとっては取るに足らない、世間話の一つなのだろう。


「つまり、ここは今私のものってわけ。なぜかだあれも使いたがらなくってねぇ」


「もう、ママったら。そりゃ上に怖い人がたくさん住んでるんだから使えないよ~」


 つまりここは、彼女たちのテリトリー。少しでも対応を間違えれば命取り。――リンチされたときとはまた違う恐怖が、じわじわとこみ上げてくる。ピンと伸ばした俺の背中で、変な汗が噴き出していた。


 一方で、となりの星空(せいら)は平然と包帯をほどき始める。


「ありがたいことです。こういった場所のほうが、こちらも都合がいいので」


 はらりと外れていくのを手に巻きとり、まぶたを開く。


 あらわになったのは、透き通るラベンダーの瞳。屋内ではわかりにくいが、ほのかに光を放っている。


「へえ、驚いた。あんた、意外ときれいな目ぇしてんだねぇ」


「それ自前? カラコンとかじゃなくて?」


 ギャル娘はテーブルに手をついて身を乗り出し、その目をのぞきこむ。星空(せいら)は斜め前に座る女性に顔を向け、微動だにしない。


「ふえぇ……はじめてみたぁ」


 瞳の色すべてが本物であることを理解したのか、ギャル娘は呆(ほう)けた顔で腰を戻した。


「紫はかなり珍しいけどいるにはいるさ。日本人にはほとんどいないレベルだけどね。この目玉なら、かなりの高値で売れそうだ」


「確かに~」


 親子は上機嫌に笑い合う。――冗談かガチかわからねえ言い方しやがって。


「お会いできて光栄です。杜若(かきつばた)美南(みなみ)さん」


 星空(せいら)が名前を呼んだ瞬間、二人の笑みが消えた。


「先に断っておきます。僕は、四柱推命や占星術のような占いはしません。ただ、あなたを視るだけです」


 女性、もとい、杜若(かきつばた)美南(みなみ)さんは冷ややかに星空(せいら)を見返す。親子そろってうんともすんとも言わない。


 まるで室内の温度が氷点下にまで下がったかのようだ。


 へたに茶化す言葉もフォローの言葉も出せない状況で、星空(せいら)は淡々と続けた。


「心配しなくても、あなたがたの敵ではありません。しょせんはただの、占い師です」


 テーブルに置いていたカードを手に取り、二人に見せる。

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