リナ、真相を知る
無事に任務を達成して王国を救った私は、今夜はキャロラインさんの公爵家に泊めてもらうことになった。
国王様やブレンダンさんは正式に宴席を設けてくれようとしていたけど、堅苦しいのは苦手なので丁重にお断りした。理想的なのは気楽にごちそうを食べられるシチュエーション。という話をしたところ、キャロラインさんが「ぜひ当家に」と言ってくれたのでお言葉に甘えることに。
希望通りの状況で夕食をごちそうになった私は、キャロラインさんの自室でまったりとくつろいでいた。
彼女には魔獣を撃退した時にはずいぶんと怖がられていたものの、どうやら魔力を纏っていなければ平気らしい。まあ私の方は、聖女を殺害してでも結婚を守ろうとした彼女がまだちょっと怖いんだけど。
と昼間のことを思い出していて、疑問に感じていたこともあったのでキャロラインさんに尋ねてみた。
「聖女と王子様が恋に落ちるって言い伝えですけど、そもそもそれって本当に確かな予言なんですか?」
「え、もちろん確かな予言……、……なのでしょうか?」
「私が尋ねているんですけど……」
「考えてみれば、なぜか私はこの話を必ず現実のものになると、強く思いこんでしまっていました。いったいなぜ……?」
キャロラインさんはそう言って、過去の記憶を探るように物思いに耽り出す。
その時、部屋の扉が少しだけ開いてメイドさんらしき人が顔を覗かせた。
「……お嬢様、おそらくこれが原因ではないかと」
と彼女が中に差し入れてきたのは古びた一冊の絵本だった。受け取ったキャロラインさんの顔が輝く。
「まあ懐かしい! これは私が幼い頃大好きだった聖女と王子様のお話です!」
メイドさんはこくりと頷いて返す。
「はい、お嬢様はこの絵本が本当にお好きで、何度も繰り返しお読みになっておられました。それこそ、物語が真実であるとお信じになるほどに」
「……え?」
「聖女と王子様のお話は、舞台がたまたまこの王国に設定されているだけで完全に作家の創作です。古くからの言い伝えもございません」
「で、では、私が勝手に……?」
「……ブレンダン様とご婚約なさってから、なぜかお嬢様の中で絶対的な予言となっていて、怖くて言い出せませんでした……」
…………、幼少期に繰り返し読みすぎて自己暗示にかかっていたのか。
キャロラインさんは顔を真っ赤にして立ち尽くしていた。きっと消え去りたいくらい恥ずかしい思いなんだろう。
やがて彼女は、突然私の前でひれ伏した。
「リリリリリリナ様! 申し訳ありませんでした! ナイフで刺してしまい本当に申し訳ありませんでした!」
「お気になさらず。幸いにも武神ゆえに無傷なので。言い伝えでも予言でもないと分かってよかったじゃないですか」
こうしてキャロラインさんは悩まされ続けていた聖女の呪縛から解放された。
翌朝になると彼女は精神的にも落ち着き、普通の令嬢になっていたのだから、人間とは本当に不思議なものだと思う。




