リナ、アフターケアする
同じ十七歳ということもあって、私と(正常になった)キャロラインさんは妙に話が合った。
今回の王都防衛後はしばらく休暇を貰えることにもなっていたので、このまま公爵家でお世話になることに。何しろ、王都を消滅から救った英雄ということでトップ貴族が全力でお世話してくれるのだから、とても居心地がいい。
普段人類のために戦っているんだし、休暇くらいは楽しんでもいいでしょ。
「リナ様は私と同い年なのに、あんな大きな竜とも戦ってすごいですね」
魔獣の襲撃から二日経ったある日、いつものように二人でお茶をしている時にキャロラインさんがそう呟いた。
「本当は戦争なんて怖いし嫌だけど、力を与えられたから仕方ないです」
「魔獣との戦争も激しくなってきていますし、私にもそんな力があれば王国の皆を守れるのに。と思ってしまいますが、それは私がリナ様のご苦労を知らないから言えることなのでしょうね」
「キャロラインさんってやっぱり……。そういえば、あれからずっとブレンダンさんには会ってませんよね?」
「……ええ、ナイフで聖女を殺害しようとする女性は、やはり無理なようです」
キャロラインさんは気落ちした様子でお茶のカップを置く。
私の方はお菓子に伸ばしかけていた手を止めた。
「国王様から、正式にお礼がしたいからって明日城に呼ばれているんです。キャロラインさん、一緒に行きましょう」
――翌日、城に赴くとまず国王様と面会を果たす。私個人へのお礼は断った上で、代わりに連合軍への支援を増やしてもらう約束を取りつけた。
謁見後、隣で一連のやり取りを見ていたキャロラインさんが不思議そうな顔で。
「リナ様は欲深いのか深くないのか、よく分かりませんね」
「お金は本国から給料も貰っているからそんなに欲しくないんです。ただ、たまに豪遊したくなるんですよね。さて、じゃあ次はブレンダンさんの所に行きましょうか」
途端に緊張した面持ちに変わったキャロラインさんの手を引いて、半ば強引に王子様の執務室へと向かった。
案の定と言うべきか、数日ぶりに再会した二人の間には少し気まずい空気が流れていた。
このままでは埒が明かないので私から話を切り出す。
「ブレンダンさん、キャロラインさんは以前とはちょっと違うんですよ。試しにお二人で話してみてください」
「しかし、リナ様……」
「お気持ちは分かりますが、これが私へのお礼だと思って。国王様からも、結婚については二人に任せる、というお言葉をいただいています(それもさっき取りつけた)」
「そういうことならば……、分かりました」
ブレンダンさんが了承してくれたところで、私は執務室から退出しようと出入口の扉へと向かう。最後にキャロラインさんの方に振り返った。
「充分に豪遊したのでもう仕事に戻りますね。今日までお世話になりました」
「え、もう行ってしまわれるのですか。……リナ様、どうして私のためにここまでしてくださるのです?」
その質問には答えずに私は部屋を出た。
意外と、と言ったら失礼だけど、キャロラインさんは国民思いだ。
以前、私が魔獣の襲撃を告げた時も彼女は真っ先に国民の心配をした。聖女の呪縛が解けてからは本当にまともになったし、案外いい王妃になるんじゃないかと思う。
私にできるアフターケアはやったよ。後はあなた次第だ、頑張って。
――――。
クロイゼム王国の王都を防衛してから約一か月が経過した。
この一か月で王国には大きな変化が起こっていた。国の後継者である王子様が結婚したらしい。
「結婚おめでとう、キャロラインさん」
私がそう祝辞を述べると、彼女は照れくさそうに笑った。
「リナ様のおかげです。あの時、私は婚約破棄されていてもおかしくありませんでしたから」
キャロラインさんは遠くの景色を眺めながら一か月前を振り返る。
現在、私達は二人で町を見渡せる城の屋上にやって来ていた。ここに上るのも一か月ぶりになる。
「私は別に何も。でも、懐かしいですね。この場所で刺されたのを昨日のことのように思い出します」
「……言わないでください。あの時の私はどうかしていたのです」
「うん、あの時のキャロラインさんは本当にやばかった」
「ですよね……。それにしても、本日はどうしてこちらに?」
「まあ、追加のアフターケアといった感じでしょうか。魔獣は一旦標的を定めると定期的に襲撃してくるんですよ」
連合軍は戦線を維持しているものの、敵は飛行型の魔獣を使ってそれを飛び越えてくる。戦う力のない者を大規模に葬ろうという恐ろしい思惑で。
また、一度撃退しても時間を空けて再び同じ箇所を狙ってくるので非常に厄介だった。
「実際に、今日はまたクロイゼム王国の番が来ました(だから屋上に上ったんですよ)」
「また私達の、番?」
キャロラインさんは状況が飲みこめていない様子なので、私はいつかのように空を指差して見るように促す。
程なく雲を切り裂いて、体長百メートルはあろうかという巨竜が姿を現した。
「先ほど定期的にと言いましたよね! まさかあれは毎月やって来るのですか!」
「はい、そう思ってもらっていいかも」
これにて完結になります。
少し、いえ、かなり風変わりな聖女のお話でした。
ナイフで刺されても死なない聖女を追求した結果、このような形に……。
アフターケアに関してはキャロラインのフォローがメインで、竜の再来はおまけの締めに使った感じでしょうか。
楽しんでいただけたなら嬉しいです。
最後までお読みいただき、有難うございました。
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