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第7章 告白

丈太郎たちは治癒院を後にした。診療に戻るアリスの背中を見送りながら、そっと手を振る。


丈太郎は、すやすやと寝息を立てるミィナを背負って歩いていた。しかし、その表情はどこか沈んでいた。治癒院で突きつけられた、自身の能力の「異常性」と「危険性」が、胸の奥で重く渦巻いていたのだ。


「丈太郎くん、重いだろう。代わろうか?」


「いえ、大丈夫です」


「……丈太郎くん」


アンクは立ち止まり、真剣な面持ちで丈太郎に向き直ると、不意に深々と頭を下げた。


「ちょ、ちょっと……何してるんですか、急に!」


道端での突然の行動に丈太郎が戸惑うと、アンクは静かに口を開いた。


「君がいなければ、ミィナは間違いなく命を落としていた……。改めて、礼を言わせてくれ」


「……頭、上げてください。俺、とっさに体が動いただけですし。それに……」


丈太郎は言葉を区切り、背中に伝わるミィナの小さな温もりを確かめるように感じながら続けた。


「たしかにこの能力は、誰とも触れ合えなくなるかもしれない、危険なものかもしれない。でも――ミィナを助けられて、本当によかったって思ってます。たとえ助けられた理由がこの得体の知れない力だったとしても、あの瞬間だけは……この能力に感謝したいです」


アンクは静かにうなずき、ゆっくりと頭を上げた。その瞳には、どこか確信めいた光が宿っている。


「君のその優しさが……この能力の根源なのかもしれないな」


「え?」


「うん、大丈夫。君なら、きっと大丈夫だ」


その力強い言葉に、丈太郎はわずかに口元をほころばせた。


「……さあ、帰ろう」


アンクのひと声で、二人は再び歩き出す。

吹き抜ける森の風は心地よく、背中から伝わるミィナのぬくもりが、丈太郎の不安をそっと溶かしていくようだった。



アンクの家に着くと、テラがすぐに出迎えてくれた。

眠ったままのミィナを丁寧に受け取り、寝室へと寝かせに行く。


残されたアンクと丈太郎は、食卓に並んで腰を下ろした。


「ミィナを背負って疲れただろう。本当にありがとう」


「いえ、ちょうどいい運動になりましたよ」


「丈太郎さん、本当にありがとうございました。いま、お茶をお持ちしますね」


寝室から戻ってきたテラがやわらかく微笑み、お茶の準備を始める。

やがて湯気の立つ湯呑みが二人の前に置かれ、丈太郎が一口すすると、温かさに少しだけ表情が緩んだ。


だが、その目がふと引き締まる。丈太郎は湯呑みを置き、意を決したように顔を上げた。


「お二人に、お話しがあります」


それまでの和やかな空気が一変する。軽い雑談を交わしていたアンクとテラは、丈太郎の真剣な声音に表情を改めた。


「……俺、本当は森に来る前の記憶があるんです。でも……みなさんを混乱させたくなかった。自分でも信じられなくて、ただ怖くて……それで、ずっと嘘をついていました。すみません、本当にごめんなさい!」


丈太郎はそう一気に告げると、勢いよくテーブルに額をこすりつけた。


一瞬、部屋に静寂が落ちる。

だが次の瞬間、アンクとテラは顔を見合わせ――そして、ふっと安堵したような笑みを浮かべた。


「……顔を上げてくれ、丈太郎くん」


「話してくれてありがとう。あなたがどこから来たのか、聞かせていただけますか?」


テラは、まるで我が子を諭す母のような、ひどく優しい声で言った。


丈太郎は顔を上げ、森に来る前の出来事を、思い出せる限り丁寧に話していった。


現実世界のこと。そこに残してきた両親のこと。

この世界とはまるで違う、魔法も魔物も存在しない「普通の世界」のこと。

そしてある日、マウンテンバイクで山道を走っていて転倒し、気がつくとあの森の中に倒れていたこと。


すべてを話し終えた後、彼は少し俯きながらぽつりと言った。


「……信じられないかもしれませんけど……これが、全部事実です」


アンクとテラは、途中で口を挟むことなく、静かに話を聞き続けてくれていた。


しばしの沈黙ののち、アンクが神妙な表情で口を開く。


「なるほどな……そういうことだったのか」


テラは両手を胸元で組み、そっと言葉を添えた。


「たった一人で、大変でしたね、丈太郎さん。……話してくれて、ありがとう」


テラの優しい目には、うっすらと涙が浮かんでいた。


その温かな反応に背中を押され、丈太郎は――治癒院で判明した自分に宿った“能力”についても、正直に打ち明けた。


物理攻撃が一切効かないこと。

魔法を無効化してしまうこと。

それが、この世界ではあり得ない「異常」だということ。


話している間、アンクはずっと静かに頷いてくれていた。まるで「すべて受け止める」と背中を押すように。


すべてを聞き終えたあと、テラはゆっくりと言葉を紡いだ。


「……きっと、あなた“だからこそ”、その力が宿ったのでしょうね」


丈太郎を真っ直ぐに見つめるその眼差しには、微塵の疑いもなかった。


アンクも、ぽんと丈太郎の背中を軽く叩く。


「つまり、しばらくは帰れないってことがわかった。ならさ、こっちにいる間は……俺たちが君の家族ってことでいいだろ? な、テラ?」


「ええ、もちろん」


二人は、揃って柔らかく微笑んだ。


丈太郎は、何も言えなかった。

ただ、こみ上げてくる涙が止まらなかった。

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