第45章 孤高のフィリス
二人は宿を出て、ギルドへ向かって歩き出した。空は雲ひとつない晴天で、清々しい朝だった。
少し前を軽やかに歩くフィリスの背中を、丈太郎はぼんやりと見つめていた。
(フィリスさんの師匠が、仁さん達を召喚した魔女だったなんて……)
思い返せば、フィリスについて知らないことはまだ多い。
(フィリスさんは帝都で、どんな修行をしてたんだろう……)
フィリスはセラフィーナのことを、魔法の師匠だと言っていた。
ということは、剣の師匠もいるのだろうか。
気になる。
フィリスの、あの異次元の強さのルーツが。
そして――
(フィリスさんって、どんな人なんだろう)
「なに、ぼーっとしてるの?」
振り向いたフィリスが、丈太郎の様子をうかがう。
「いえ! なんでもありません! さ、行きましょう!」
二人は再び、ギルドへ向かって歩き出した。
冒険者ギルドの重厚な扉を押し開けると、朝の喧騒がふわりと押し寄せてきた。
「フィリス! 丈太郎くん!」
ホールに入ってすぐ、声がかかる。
銀髪の治癒士マリナと、銀の軽鎧をまとった戦士ダリオだった。
二人は足早にこちらへ駆け寄ってくる。
「ダリオさん、マリナさん。おはようございます」
丈太郎が頭を下げると、ダリオは安心したように大きく息を吐き、丈太郎の肩をバンバンと叩いた。
「おう! ちゃんと休めたか? 昨日は本当に、生きた心地がしなかったぜ……」
「ダリオったら、昨日は宿に戻ってからもずっと丈太郎さんの心配ばかりしてたのよ」
マリナが微笑みながら言うと、ダリオは気まずそうに頭を掻いた。
「そ、そりゃあ……俺の命の恩人だからな」
ダリオは話を反らすかのようにフィリスに話しかける。
「それにフィリスも、昨日はこの世の終わりみたいな顔してたもんな!」
「そりゃ弟子が行方不明になったんだから当たり前でしょ!」
「弟子ねぇ……」
ダリオがニヤニヤする。
「ちょっと、焼かれたいの?」
フィリスが睨みつける。
「ほんと分かりやすいんだから……」
マリナがぼそりと呟いた。
「マリナ! なんか言った!?」
「さ、感動の再会はこれくらいにして。ギールさんに報告に行きましょ」
マリナに促され、四人は魔力式エレベーターに乗り込み、四階のマスター室へ向かった。
そんな三人のやり取りを眺めながら、丈太郎はふと思う。
(ほんと仲がいいんだな……)
(かつてフィリスさんは、この人たちと冒険してたんだな……)
扉をノックして中に入ると、執務机の奥でギルドマスターのギールが待っていた。灰色の短髪に片目の眼帯。歴戦の猛者であるギルドマスターは、四人の姿を見ると、どこかほっとした表情を浮かべた。
「来たな。……改めて、無事の生還を歓迎するぞ、丈太郎」
「ありがとうございます。ギールさんにも、ご心配をおかけしました」
丈太郎が頭を下げると、ギールは静かに頷き、隻眼で鋭く丈太郎を見据えた。
「さて――昨日は疲労困憊で聞けなかったが、アークリッチを倒した後、一体お前の身に何があったんだ?」
マリナとダリオも、息を呑んで丈太郎の言葉を待っていた。
丈太郎は隣のフィリスと一瞬だけ視線を交わし、今朝の打ち合わせ通りの言葉を口にする。
「アークリッチを倒した後、足元に突然、闇の穴のようなものが現れて……それに飲み込まれました。気がついたら、迷宮のどこか分からない、見知らぬ場所を彷徨っていて……」
丈太郎は少し伏し目がちに、慎重に言葉を紡ぐ。
「しばらく歩いていると、偶然、転移陣のようなものを見つけたんです。それに乗ったら、元の第十階層に戻ってきて……そこでフィリスさんたちと合流しました」
ギールは腕を組んだまま、しばらく黙考していた。
「……奈落の罠、そして未知の転移陣か。五百年も未解明の迷宮だ、我々の預かり知らぬ空間があっても不思議ではない。だが、無事に帰還できたのは運が良かったとしか言いようがないな」
ギールはそう言って、深く頷いた。
「アークリッチの存在した痕跡を示す物はなにも見つけられなかったが、十階層の異常な瘴気が消え去ったことや状況からして、ギルドはアークリッチの討伐を認める事とした。よって、お前たちの功績は計り知れない」
「よかった……これで、マリナさんたちを苦しめた元凶もいなくなったんですね」
丈太郎の言葉に、マリナとダリオは深く頷き合う。
フィリスも明るく笑って応じた。
「ええ。それに、ダリオも無事だったし。結果オーライってやつね!」
「お前なぁ……結果オーライで済む話じゃねぇぞ、今回は」
ダリオが呆れたようにツッコミを入れ、マスター室に安堵の笑いが広がる。
「丈太郎、フィリス、それにマリナとダリオ。本当によくやってくれた」
ギールは四人に向かって深く頭を下げた。
「討伐報酬は弾む。今日はゆっくりと英気を養ってくれ」
報告を終え、マスター室を出ようとする四人。
「ああ、それと――フィリス。少し残ってくれるか?」
ギールが呼び止めた。
「わかりました」
フィリスは頷く。
「丈太郎くんは先に帰ってて。ダリオ、マリナ。またね」
フィリスを残し、三人はマスター室を後にした。
(よし……仁さんたちのことは、うまく誤魔化せた)
丈太郎は心の中で小さく息を吐く。
(でも……)
ギールとフィリスは、いったい何の話をするのだろう。
(あとで聞いてみよう)
ギルドを出たところで、ダリオがふと思い出したように言う。
「そういや俺、槍術士ギルドに顔出さねぇといけねぇんだった」
「今日だったの?」
マリナが首を傾げる。
「昨日は迷宮でそれどころじゃなかったからな。顔出さないとあの爺さんに怒鳴られる」
ダリオは肩をすくめた。
「じゃあ俺はここで失礼するぜ。丈太郎くん、またな」
ダリオの背中を見送るマリナを眺めながら、丈太郎はふと思った。
(マリナさんなら、フィリスさんのことをいろいろ知ってるんだろうな…聞いてもいいものだろうか……)
思案顔の丈太郎に気づいたのか、マリナがふと振り返り、微笑んだ。
「丈太郎さん。これからお茶でもどう?」
「はい! ぜひ!」
勢いよく答える丈太郎に、マリナはくすっとおかしそうに笑った。
ギルド近くの小さな喫茶店に入り、二人は窓際の席に腰を下ろした。
紅茶を注文し、しばらくして湯気の立つカップが運ばれてくる。
「今朝ね。ギルドに来る前に、ダリオと一緒にニックとビリーの埋葬をしてきたの」
「そうだったんですか……」
丈太郎は神妙な面持ちで答える。
「冒険者は危険が付き物って分かってはいるけど……慣れないものね」
マリナは少し悲しそうに微笑んだ。
「すみません。俺がもっと早く気づいていれば、二人も助けられたのに……」
「ごめん! そうじゃないの!」
マリナは慌てて首を振った。
「丈太郎さんがいなければ、私たちもこうなっていたって……ダリオと話してたのよ。丈太郎さん、本当にありがとう」
「いえ。俺は自分に出来ることをしただけです」
丈太郎は少し辛そうな表情で答えた。
「ふふ……フィリスが気に入るわけね」
マリナがぼそりと呟く。
「え?」
「ううん。なんでもない」
マリナは紅茶を一口飲み、くすっと笑った。
「で、聞きたいんでしょ? フィリスのこと」
「!!」
(この人……エスパー!?)
「恩人である丈太郎さんのためだもの。私が知ってることなら、なんでも答えてあげる」
マリナはやけに嬉しそうだ。
「参ったな……」
丈太郎は照れくさそうに頭を掻いた。
そして、意を決したようにマリナに問いかける。
「あの……フィリスさんが、なんであんなに強いのか……知りたくて……明らかに……強すぎるというか……」
丈太郎は、これまで対峙してきたAランク冒険者たちを思い出す。
オルド。
レイブン。
そしてダリオ。
皆、Aランクにふさわしい実力と雰囲気を持っていた。
だが――
フィリスと比べると、どうしても霞んでしまう。それだけフィリスの強さは、常軌を逸していた。
「それはね……」
マリナは少し残念そうな表情を浮かべ、考えるように視線を上げた。
「フィリスが天才だから、っていうのもあるわね」
「やっぱり……」
丈太郎は思わず頷く。
「魔力量、魔力操作、剣技、そして戦闘センス……。私から見ても、フィリスは全部が突出してるの」
「マリナさんがそこまで言うなんて……」
マリナは小さく頷き、続けた。
「それに、フィリスが師事していた人たちがまた凄いのよ」
「魔女セラフィーナ……」
丈太郎が小さく呟く。
「なんだ、知ってるんだ」
「はい、少しだけ……帝都の魔術師ギルドのマスターをしてるって事は聞いてます」
「そう。大陸最強の魔術師よ。その人に直接教えを受けていたの」
「そして、もう一人が――剣聖シュナイゼル」
「剣聖!?」
丈太郎は思わず身を乗り出した。
「そう。帝都……いえ、世界最強の剣士と言われた人よ。今はもう引退して、ほとんど表には出てこないけど……彼の名を知らない冒険者はいないわ」
マリナは少し誇らしげに微笑む。
「セラフィーナもシュナイゼルも、どちらもSランク冒険者なの」
「そんな凄い人達に鍛えられてたんですね……」
「ええ。才能と環境、両方揃ってる。強い訳よね」
マリナは静かに頷いた。
「今のフィリスは……実力だけならSランクをも凌駕してると思うわ」
「Sランクを凌駕!? 凄い! ……でも、なんでSランクになってないんですか?」
丈太郎は素直な疑問を投げかけた。
「色々、複雑な事情があるのよ」
マリナは少し肩をすくめる。
「まず、フィリスは若すぎる。それに、Sランクともなると国家戦力扱いなの」
「国家戦力……」
「ええ。簡単に依頼を受けることもできないし、ギルドも気軽に頼めない。国の許可が必要になるの」
「なるほど……」
「ギルドとしては、自由に動けるAランクの方が都合がいいのよ」
マリナはくすりと笑った。
「それに、フィリス本人も自由を何より愛してる」
「利害が一致してるわけですね」
「そういうこと」
マリナは紅茶を一口飲む。
「Sランクは一度認定されると降格がないの。だから審査もものすごく厳しいのよ」
「へぇ……」
「国の要職に就いた人とか、引退した英雄が多いのもそのためね」
「なるほど……フィリスさん、絶対嫌がりそうですね」
丈太郎は苦笑いを浮かべた。
「でも、こんな凄い人たちにどういう経緯で師事したのかは、私も知らないの」
マリナは少し申し訳なさそうに微笑んだ。
「冒険者に過去や個人の事情を詮索するのは、あまりいいことじゃないしね。ごめんね」
「いえ! そんなことないです!」
丈太郎は慌てて首を振る。
「フィリスさんの強さの秘密が、少しわかった気がします」
マリナは嬉しそうに微笑んだ。
「それにね、フィリスと一緒に冒険していたのは一年くらいなの。だから、過去のことは私もそんなに詳しくないのよ」
「そうなんですか……」
丈太郎は少し考え込む。
そして、ぱっと顔を上げた。
「それです!」
「え?」
「マリナさんたちと、フィリスさんの出会い……聞いてみたいです!」
マリナは少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに優しく笑った。
「出会い、か……」
彼女は紅茶のカップを両手で包み、どこか懐かしそうに窓の外へ視線を向ける。
「四年くらい前かな。帝都の冒険者ギルドでフィリスに会ったの」
「帝都で?」
「ええ。お互いに冒険者になりたてでね。情報交換なんかしているうちに仲良くなって……簡単な依頼を二人で受けるようになったのが始まり」
丈太郎は熱心に頷く。
「そのうちダリオが加わって、もう一人、ジェイドっていうシーフも仲間になったの。なぜかみんな気が合ってね。四人でよく依頼をこなすようになったんだ」
「その頃からフィリスさんは強かったんですか?」
「ええ」
マリナは少し笑う。
「その時から、もう飛び抜けてたわ。Aランクに届きそうなくらいに」
「凄い!」
丈太郎はなぜか自分のことのように嬉しそうだ。
「でしょ?」
マリナはくすっと笑った。
「私もあまりに強いから気になってね。『なんでそんなに強いの?』って聞いたの。そしたら、師匠の話を教えてくれたってわけ」
「わかります!」
丈太郎は大きく頷いた。
マリナは少しだけ視線を落とす。
「それから私たちは四人で色々な依頼をこなしながら、ここ――メイキュリアに辿り着いたの」
紅茶の表面を見つめながら、ぽつりと続ける。
「でも……その頃からかな」
「?」
「私たちは、フィリスに引け目を感じるようになっていたの」
丈太郎は黙って話を聞く。
「圧倒的な実力にね。私たちがどれだけ努力しても、フィリスはその倍くらいの速さで成長していく……」
マリナは苦笑する。
「才能って、残酷ね」
空気が少しだけ重くなる。
「ある日、フィリスが言ったの」
マリナは静かに続けた。
「『ねえ、私たち……正式にパーティー組まない?』って」
丈太郎は息を呑む。
「でも……誰も即答できなかった」
マリナの声が少しだけ小さくなる。
「みんな、目を逸らしてしまったの」
「……」
「フィリスも察したのね」
マリナは寂しそうに笑う。
「『なーんて冗談!』なんて言って笑ってたけど……」
少しだけ間を置く。
「あの時のフィリスの顔……今でも忘れられない」
静かな沈黙が流れる。
「それから数日後かな」
マリナは窓の外を見たまま言った。
「フィリスは『自由な冒険がしたい』って言って、私たちの元を去ったの」
紅茶のカップをそっと置く。
「それをきっかけに、ジェイドもパーティーを抜けた」
「……」
「残ったのは、私とダリオだけ」
マリナは小さく笑った。
「それが、三年前の話」
「そう……だったんですね……」
丈太郎は静かに呟いた。
「“孤高のフィリス”なんて呼ばれてるけど……」
マリナは少し寂しそうに笑う。
「きっと、それは……私たちが原因なの」
「……」
丈太郎は何も言えず、黙って話を聞いていた。
「あれから私とダリオは、死に物狂いで努力した」
マリナの視線はカップの中の紅茶に落ちている。
「いつかまた……フィリスの隣に立てるように」
少しだけ自嘲気味に笑う。
「でも、結局また助けられちゃった」
静かな空気が流れる。
そしてマリナはふっと表情を緩めた。
「でもね」
丈太郎を見る。
「安心したの」
「え?」
「フィリスの隣に、丈太郎さん……あなたがいたから」
マリナは優しく微笑んだ。
「フィリス、とても楽しそうよ」
丈太郎は少し困ったように頭を掻いた。
(俺なんて……そんな大した人間じゃないのに)
それでも――マリナの言葉が胸に残る。
丈太郎はカップを見つめながら、小さく笑った。
「まあ、私が知ってるのはこれくらいかな」
マリナは肩をすくめて笑った。
「ありがとうございます。話しづらいことまで教えてくれて……」
丈太郎は少し照れくさそうに頭を掻く。
「でも、なんだか……人に歴史ありって感じで。感動しました」
「どういたしまして」
マリナはくすっと笑う。
「それに、丈太郎さんには聞く資格があると思ったから」
「え?」
丈太郎がきょとんとする。
するとマリナが、少し身を乗り出した。
「……あ、それと」
「?」
「もう一つ、フィリスの重要情報教えてあげる」
「情報!? 重要情報!?」
丈太郎は思わず身を乗り出した。
――時間は少し遡る。
冒険者ギルド・マスター室。
「で、話ってなんですか?」
ギールと二人きりになった部屋で、フィリスは問いかけた。
「他でもない――丈太郎のことだ」
その名前を聞いた瞬間、フィリスの肩がわずかに動く。
「丈太郎……あいつの力はなんだ?」
ギールは腕を組んだまま続けた。
「マリナの呪いを解呪したことといい、アークリッチを討伐したことといい……異常すぎる」
フィリスはうつむいたまま、何も答えない。
数秒の沈黙。
「……わかったよ」
「こっちだって、冒険者の飯の種を探るような野暮な真似はしたくねぇ」
頑なに口を閉ざすフィリスを見て、ギールは小さく息を吐いた。
「ただの興味だ。忘れてくれ」
「……ありがとうございます。ギールさん」
「で、本題はここからだ」
「本題?」
「ああ」
ギールは椅子にもたれ、口元をわずかに歪めた。
「お前さえ良ければ、丈太郎をBランクに昇格させてもいいと思ってる。どうだ?」
「Bランク!?」
フィリスは思わず声を上げた。
「当然だろう」
ギールは肩をすくめる。
「Sランクでも討伐不可能だったアークリッチを倒したんだ。本来ならAランクでもいいくらいだ」
「だがまあ、順序ってものもある」
ギールはフィリスを見据える。
「どうだ?」
「……」
フィリスはしばらく考え込んだあと、静かに口を開いた。
「せっかくの申し出ですが……お断りさせてください」
ギールの片眉がわずかに上がる。
「確かに、彼は実力だけならAランクかもしれません」
「でも、冒険者としての知識も経験も……まだまだです」
フィリスは視線を落とす。
(それに……丈太郎くんは、冒険者として成功したいわけじゃない。きっと……これ以上目立つのは、本意じゃない)
「……そうか」
ギールは短く頷いた。
「まあ、お前が言うならこの話は見送ろう」
「申し訳ありません」
「気にするな」
ギールは手をひらひらと振る。
「話は以上だ」
フィリスは一歩下がり、ふと思い出したように口を開いた。
「あの……捜索隊の件、ありがとうございました」
そして深く頭を下げる。
「なに。メイキュリアのためにやったことさ」
ギールはニヤリと笑った。
「フィリス」
「はい?」
「丈太郎は……いい師匠を持ったな」
フィリスは一瞬驚いた顔をし、すぐに笑った。
「ギールさん……ありがとう!」
そう言って、フィリスはマスター室を後にした。
――再び、喫茶店。
「それで!? フィリスさんの重要情報って何なんですか?」
丈太郎は身を乗り出す。
「それはね……」
マリナは得意げに微笑んだ。
「フィリスの誕生日が、明後日ってこと!」
「誕生日!? 明後日!?」
丈太郎は思わず声を上げる。
「そ。だから思いきり祝ってあげなさいよ」
「はい!」
丈太郎は元気よく頷いた。
「せっかくだし、マリナさんもダリオさんも一緒にお祝いしましょう!」
「え?」
マリナは少し驚く。
「私たちがいたら邪魔でしょ」
「そんなわけありません!」
丈太郎はきっぱり言った。
「フィリスさん、賑やかなの好きだし。二人もいたら絶対喜びます!」
自信満々の様子に、マリナは苦笑する。
「……まあ、丈太郎さんがそこまで言うなら」
(はあ……春はまだ遠いわね)
「ありがとうございます!」
丈太郎は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、誕生日会は明後日の夜でいいですか?」
「そうね」
マリナは頷く。
「でも、フィリスには言っちゃダメよ。サプライズにしましょう」
「なるほど!」
「明後日は“迷宮帰還の慰労会”ってことにして誘うの」
「了解です!」
二人が楽しそうに話していた、その時――
「……二人で楽しそうじゃない?」
振り向くと、そこには。
ひきつった笑顔のフィリスが仁王立ちしていた。
「あら、フィリス。早かったじゃない」
マリナは平然としている。
「フィリスさん、お疲れ様です」
「“早かったじゃない”じゃないわよ!」
フィリスはマリナを指差す。
「あなた、ダリオって人がいながら、なに、ひとの弟子にちょっかい出してるのよ!」
「あら」
マリナはにやりと笑った。
「フィリス、ヤキモチ?」
「なっ!?」
フィリスの顔が一瞬で赤くなる。
「ち、違うわよ! 弟子の心配してるだけよ!」
「はいはい」
マリナは楽しそうに笑う。
「丈太郎さんと、慰労会の打ち合わせしてただけよ」
「慰労会?」
フィリスが首をかしげる。
「はい」
丈太郎が説明する。
「明後日の夜、迷宮帰還の慰労会をみんなでやろうって話になって」
「飲み会!?」
フィリスの目が輝く。
「いいわねそれ! 楽しみー!」
さっきまでの険しい顔はどこへやら。
満面の笑みだった。
そんなフィリスを見て――
丈太郎とマリナは、思わず顔を見合わせて苦笑した。
マリナと別れ、喫茶店を出た二人。
メイキュリアの街は今日も賑やかだった。
通りには人々の話し声や商人の呼び込みが飛び交い、活気に満ちている。
雑踏の中を歩きながら、丈太郎はふと思い出したように尋ねた。
「ところで、ギールさんと何を話してたんですか?」
フィリスはあっさり答える。
「丈太郎くんをBランクに上げるって話」
「え!? Bランク!?」
丈太郎は思わず声を上げた。
「そりゃ驚くわよね」
フィリスはくすりと笑う。
「あの……俺にはまだ早すぎるような……それに……」
丈太郎は少し言いにくそうに続けた。
「あまり目立ちたくないし」
「ふふ」
フィリスは楽しそうに笑う。
「そう言うと思って、断っておいたわ」
「ありがとうございます!」
丈太郎は心からほっとした顔をした。
「とにかくこれからは、帰還に向けて集中していきましょ」
「はい!」
丈太郎は心の中でそう思う。
(フィリスさん、頼りになるな……)
少し歩いたところで、フィリスがふと思い出したように言った。
「ところで、明後日の飲み会まで時間空いちゃったわね」
「そうですね」
「ってことで!」
フィリスはくるっと振り返り、満面の笑みで言った。
「メイキュリア探索ツアーへご招待!」
「え?」
「せっかくだもの。楽しみましょ!」
フィリスは楽しそうに手招きする。
「え!? これからですか!?」
「当たり前じゃない!」
フィリスは胸を張る。
「善は急げよ!」
こうして――
飲み会の日まで、丈太郎はフィリスに街中を連れ回されることになるのだった。




