第17章 攻撃
丈太郎は“強者の姿勢”を手に入れたことによって、自分の成長を感じていた。(内心はまだ少し恥ずかしいが)少しずつ特訓が楽しくなっていく。
「防御面の立ち回りはだいぶ良くなったわね。動き自体は素人だけど……まあ、あとは旅をしながらコツコツと教えていくわ」
フィリスは腕を組み、今度は真剣な表情になった。
「次は攻撃ね。丈太郎くんからは魔力の揺らぎを感じない……きちんと調べたわけじゃないけど、おそらく魔力は限りなくゼロに近いと思うわ。魔法のない世界から来たのだから当然といえば当然なんだけどね。つまり、魔法は使えない」
「で、剣のほうだけど……私たち剣士などの近接職は身体強化魔法を使いながら戦うのが基本。より強い身体強化魔法を扱える者が有利になるの。もちろん経験や技能も重要だけどね。でも、丈太郎くんは武の経験がない……」
フィリスは少し間を置いて、きっぱりと言った。
「唯一の希望があるとしたら……武器を持ってなら相手への攻撃が通るということ。でも、この世界の武器は身体強化を前提に設計されているものがほとんど。でも、この間のイグニシアみたいに壊しちゃうからアーティファクトも使えない……」
「……攻撃に関しては絶望的ね」
「……でも、方法がないわけじゃない……投擲武器や遠距離武器なら、あるいは……」
フィリスはなにやらぶつぶつと考えている。
丈太郎はそんなフィリスを見ながら考えていた。
絶対に自分が傷付かないのなら、果たして相手を攻撃することになんの意味があるのだろうか……相手を傷付けてまで手に入れたいものなど、あるのだろうか。
「フィリスさん、俺、攻撃はいいです。ケンカとか得意じゃないし……人を傷付けるとか……嫌なんです」
フィリスは驚いた顔をして丈太郎を見る。
「……あなた、ほんとに変わってるわね」
「変わってる、ですか?」
丈太郎は少し困ったように笑う。
「普通の冒険者はね、強くなるって聞けばみんな目の色を変えるわ。自分の身を守るためにも、相手を倒す力を欲しがる。でも、あなたは“攻撃しなくていい”って言う……」
フィリスはじっと丈太郎を見つめる。その青い瞳に、茶化しの色はなく、真剣さだけがあった。
「俺……本当に必要な時以外は、人を傷付けたくないんです。魔物だって、襲ってこなければわざわざ倒そうとは思わない」
少しの沈黙の後、フィリスはふっと息を吐き、笑った。
「……まあ、それがあなたの戦い方になるのかもしれないわね。無敵の盾。守るための戦士。……ちょっと、カッコいいじゃない」
丈太郎は耳が熱くなるのを感じたが、視線を逸らさなかった。
「じゃあ決まりね。攻撃は最低限、防御を極めて、誰も傷付けずに勝てる方法……私が一緒に考えてあげる」
その言葉に、丈太郎は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
――ほんと、甘っちょろい。平和な世界で生きてきたのね……。でも、絶対防御があれば、それも貫けるかもしれない。彼だからこそ、こんな異質な能力が与えられたのかもしれない……。
フィリスはそんなことを思いながら、丈太郎の横顔を見ていた。




