第14章 晩餐
治癒院の午前。
丈太郎はいつものように診療の手伝いをしていたが、頭の中には昨日の広場での出来事が何度もよみがえっていた。
患者が帰った後、アンクとアリスにあらためて話をする。
「……そんなことがあったんですか!」
アリスは目を輝かせ、両手を胸の前でぎゅっと握る。
「本当に……無敵なんですね、丈太郎さん!」
「まさか、そこまでとはな……」
アンクは腕を組み、深く息をついた。
「それにしても、考えなしに必殺技をぶっ放すとは……フィリスくんも無茶するもんだ」
丈太郎は少しだけ笑って、首を振る。
「……なんとなくですけど、あの人は“俺なら大丈夫”って、心から思っていたんじゃないかって……そう感じたんです」
アンクは一瞬黙り込み、ふっと口の端を上げた。
「……なら、信じてやってもいいかもしれんな」
「そういえば、フィリスくん、今日は来ないのかな?」
アンクがふと思い出したように言う。
「そういえばそうですね……ここ最近は、ほぼ毎日顔を出してたのに」
アリスも首をかしげる。
「昨日、あれだけ全力を出してましたから……今日は休んでると思いますよ」
丈太郎は苦笑しながら答えた。
――あのあと、フィリスはひどく消耗していた。
立ち上がっても足元がふらつき、歩くのもやっと。
結局、丈太郎が肩を貸し、宿屋まで送っていったのだった。
丈太郎とアンクが家に戻ると、ちょうど玄関の扉がノックされた。
開けると、にこやかな笑顔のフィリスが立っている。
「やっほー、丈太郎くん。昨日はお世話になったから、お礼に来たの」
そう言いながら、手には立派な酒瓶をぶら下げている。
「……それ、お礼っていうより、飲みに来ただけですよね?」
丈太郎が半眼になる。
「まー、そうとも言う!」
悪びれもせず笑うフィリス。
「夜ご飯、一緒してもいい?」
案の定、図々しく上がり込む。
「フィリスお姉ちゃん来たー!」
ミィナが嬉しそうに飛びつく。
テラも「まあまあ、賑やかな方がいいわ」と歓迎ムードだ。
一方で、アンクと丈太郎は顔を見合わせて、同時にため息。
それでも、食卓が並び始めると空気は一気に温かくなる。
香ばしい焼き魚の匂い、煮込み料理の湯気、そしてフィリスが持ってきた酒の香りが、部屋いっぱいに広がった。
「かんぱーい!」
「かんぱーい!」
フィリスは酒を豪快にあおるが、顔色ひとつ変わらない。
逆に、少し飲んだだけのアンクのほうが赤くなってきた。
「アンクさん、もう顔真っ赤じゃないですか~。丈太郎くん、これじゃアンクさんが潰れて、私と二人きりで飲むことになっちゃうわよ」
「……俺は酔わないですから」
「それそれ! あなた、ほんとつまらない体質してるわね。酒飲み泣かせよ」
「すいませんねぇ……」
そんなやり取りにミィナがケラケラ笑い、テラも穏やかに目を細める。
夕食の席は、いつになく賑やかだった。
フィリスは手土産の酒を片手に、すっかりくつろいだ様子で魚をつつき、テラは客人を歓迎して腕をふるっていた。
ミィナは隣に座ったフィリスに、今日あった出来事を一生懸命話している。
アンクは呆れた顔をしながらも、杯を手にしているあたり、まんざらでもないようだ。
「そういえばさ、丈太郎くんの“絶対防御”って……弱点とかないの?」
フィリスが、焼き魚の骨を器用に外しながら聞いてくる。
「今のところは……特に。でも、お腹は減りますし喉も渇きます」
「え、じゃあ攻撃じゃなくて断食させれば倒せるってこと?」
フィリスがにやりと笑う。
「……まあ、餓死はありえるかもしれません」
「はい、弱点判明~! これからは丈太郎くんのご飯を私が管理するわ」
「いや、やめてください」
「いいじゃない、美味しいもん作ってあげるんだから。毎日パンと水だけとか」
「それ管理じゃなくて拷問ですよね!?」
テラとミィナがクスクス笑い、アンクは「くだらん」と呟きながらも、口元が緩んでいた。
和やかな雰囲気のまま、杯が進み、夜はゆっくりと更けて行った――。




