表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/45

第12章 新たなる仲間

朝の治癒院。窓から差し込む柔らかな陽光が、木の床を照らしている。


丈太郎は、昨日の出来事――フィリスのイグニシアに起こった異変について、アンクとアリスに報告していた。昨晩、帰宅後にアンクには軽く事情を説明していたとはいえ、改めて全貌を共有しておきたかった。


「ごめんなさい。俺の不注意で……。色々聞かれる流れになりそうだったから、お二人にもいてもらった方が話しやすいと思って……」


丈太郎は申し訳なさそうに頭を下げる。


「いや、ここに呼んで正解だよ。俺たちなら、ちゃんとフォローもできるしな」


アンクはそう言って腕を組み、うなずいた。アリスも隣で小さく頷いている。


「それにしても……アーティファクトにも反応するなんて。そういえば魔道具はまだ試してませんでしたね」


アリスが感心したように言う。


「確かにそうだったな……盲点だった」


アンクが軽く顎をさする。


「アーティファクト?」


丈太郎が首をかしげると、アンクが補足した。


「まあ魔道具の一種だが、その中でも伝説級の代物だ。現代の魔法技術では再現できない、失われた技術で作られた逸品――それがアーティファクトだ」


「話を聞く限り、フィリスさんの持ってる《イグニシア》は間違いなく伝説級ですね。見てみたかったな~……」


アリスは目を輝かせる。


「なるほど……そんなすごいものだったのか。……元に戻ってほんとによかった……」


丈太郎は胸を撫で下ろす。あの時のフィリスの“笑顔”を思い出し、背筋にうすら寒いものを覚えた。


アンクは腕を組み、考えをまとめるように口を開いた。


「丈太郎くんに触れられたことで、イグニシアの魔力機能が停止した。そして維持できなくなり崩壊を始めた……だが、手を離すと元に戻った」


「つまり……」


アリスが言葉を引き継ぐ。


「丈太郎さんの能力って、“魔力を吸収”してるんじゃなくて、“触れている間だけ無効化”してるってこと……?」


「恐らくな」


アンクは頷いた。


「魔力そのものを奪ってはいない。接触している間だけ作用を打ち消す……そう考える方が筋が通る。崩壊はイグニシア固有の現象だろう」


そう言うと、アンクは棚から手持ちサイズの小さな光晶ランプを取り出した。内部の魔石が淡い光を放っている。


「ものは試しだ。丈太郎くん、これに触れてみてくれ」


丈太郎はそっと手を伸ばし、光晶ランプに触れる。その瞬間、ランプの淡い光がフッと消え、内部の魔石はただの石ころのように沈黙した。


「……おお、機能が停止しているな。崩壊は起きない……よし、離してみろ」


丈太郎が手を離すと、光晶ランプは淡く光を取り戻した。


「うん、すぐに機能が復活したな」


「なるほど……」


丈太郎は、自分の能力への理解がまた一歩進んだことを感じた。

同時に――この世界で、軽々しく触れてはいけない物がまだまだあることを、改めて痛感していた。



アンクは大きく息を吐き、静かに言った。


「……とにかく、こうなってしまっては正直に全部話すしかなかろう」


その言葉に、丈太郎はうつむきながら口を開く。


「……すいません」


だが、アンクは軽く首を振ってそれを制した。


「気にするな。あの様子を見る限り、フィリスくんは何故か君に執着していた。遅かれ早かれバレるのも時間の問題だっただろうさ」


丈太郎は、昨日のフィリスの笑顔――いや、あの満面の“狩りの顔”を思い出して内心で溜息をついた。


「……でも、フィリスさんは、信用できる気がするんです。ここ数日、短い間だけど一緒にいて……そう感じました。俺の直感ですけど」


その言葉に、アリスが嬉しそうに頷く。


「はい!私もそう思います!」


アンクも腕を組みながら小さく笑った。


「ふっ……まあ、そうだな。あの子は根は真っ直ぐだ。信用してやる価値はあるだろう」


そして立ち上がると、手をパンと叩く。


「よし! じゃあ、仕事をはじめるか!」


丈太郎とアリスも、気持ちを切り替えるように深呼吸した。


三人は、ここから始まる今日という一日に備えていた。



夕方の治癒院。

閉院の札が下げられるのとほぼ同時に、フィリスが姿を現した。


いつもの漆黒の軽甲冑は身に着けておらず、動きやすいシンプルな私服姿だ。無造作に束ねていた金髪も今日はストレートに下ろしており、どこか年相応の柔らかな雰囲気を漂わせている。 だが、そんなリラックスした出で立ちにもかかわらず、その背には相変わらず漆黒の大剣イグニシアが揺れていた。


「こんにちは、アリスちゃん」


軽く片手を上げ、笑顔を向ける。


「あ、フィリスさん。お待ちしてました」


アリスはすぐに院長室兼診療室へ案内した。


中では丈太郎とアンクが待っていた。


「約束どおり来たわよ、丈太郎くん」


フィリスはひらひらと手を振る。


「アンクさんもこんにちは」


相変わらずの“ついで感”に、丈太郎は内心で苦笑した。


「やあ、フィリスくん。待っていたよ。さ、掛けてくれ」


アンクは手で椅子を示した。


院長室は、木の机と本棚、それに壁際の薬棚が並ぶ落ち着いた空間だった。

外の喧騒は厚い扉で遮られ、窓からは夕陽が差し込み、薬草の匂いがかすかに漂っている。


アンクが机の奥の院長席に腰を下ろすと、机を挟んで向かい合うように置かれた三つの来客用椅子の、その中央にフィリスが座った。彼女を挟み込むようにして丈太郎とアリスも左右の椅子に腰掛け、三人はフィリスへ真剣な視線を向ける。


丈太郎は背筋を伸ばし、真剣な眼差しで口を開いた。


「これから話すことは……誰にも言わないと約束してくれますか?」


フィリスも視線を返し、頷く。


「わかったわ。他言はしない」


その言葉を確かめるように、丈太郎はゆっくりと自分の能力について語り始めた。

ところどころで、アンクが専門的な補足を入れ、アリスが例を挙げて説明を助ける。


話が終わる頃、フィリスは目を見開いていた。


「そんな……そんな能力、聞いたこともない……」


冒険者としての豊富な知識を総動員しても、類似する力は存在しない。

だが、この力なら――これまで丈太郎の周囲で起きた不可解な出来事も、確かに説明がつくのだ。


「なるほどね……こんな、世界の理を逸脱したような力……そりゃあ隠したくもなるわよね」


フィリスは腕を組み、納得したようにうなずいた。


そして次の瞬間、ぱっと表情を明るくする。


「……それに、俄然興味が湧いてきた! 丈太郎くんの能力の解明、私も手伝うわ!」


「えっ!?」


丈太郎は思わず声を上げ、アンクとアリスの顔を交互に見る。


「確かに……Aランク冒険者の知識は君の能力解明に役立つだろう。……少し不安も残るが」


アンクは椅子にもたれながらも、興味深そうにフィリスを観察する。


「そうですね。フィリスさんなら、きっと丈太郎さんの助けになると思います!」


アリスは迷いのない笑顔で断言した。


「決まりね! これからもよろしく、丈太郎くん!」


フィリスは勢いよく手を差し出す。


「……よろしくお願いします」


丈太郎は一瞬だけためらったが、その手をしっかりと握り返した。

フィリスの掌は温かく、何かを決意させる力強さがあった。


「ふふっ。これで私、丈太郎くん専属の“観察係”ってわけね」


フィリスは悪戯っぽく笑う。


「いや……そういう言い方はやめてください……」


丈太郎が苦笑すると、アリスがくすっと笑い、アンクは肩をすくめた。

部屋の空気が、少しだけ和らいだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ