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第2巻 第2話:虚無

地獄には朝がない。顔を優しく撫でる太陽も、鳥のさえずりもない。あるのは、鉛の板のように重く垂れ込める永遠に紅い空と、決して慣れることのない硫黄の臭いだけだ。

ノックもなしに部屋に入ってきたサイトーの声で目が覚めた。彼はいつもの非の打ち所がないスーツを纏っていたが、その顔にはいつもの薄笑いがなかった。彼は……真剣だった。それはリュウザキのどんな脅しよりも恐ろしいことだった。

「起きたか、小僧」サイトーは窓際に歩み寄り、眼下に広がる悪魔の街を見つめた。カジノやバーのネオンサインが紅い空と競い合い、終わりのない祭りのような幻想を作り出している。だが、俺たちはそれが骨の上に築かれた祭りであることを知っていた。

「何かあったんですか、先生」俺はベッドに座り直しながら尋ねた。昨夜のカジノでの乱闘のせいで、まだ頭がズキズキする。

サイトーはため息をついた。普段は奔放で予測不能な彼のオーラが、今は冷たく硬い繭のように凝縮されている。

「クロナ、よく聞け。リュウザキは決して理由もなく贈り物をしたりはしない。昨日あんたを遊ばせたのも、ここへ招待したのも……すべては前払いだ。そして今日、奴は借金を取り立てに来る」

彼は俺の方を向き、その瞳に危うい光を宿した。

「魔界が震えているのを感じる。街じゃない、次元そのものだ。最深の深淵で何かが目覚めようとしている。リュウザキがあんたたちを呼んだのは、ヘンタイのコレクションを見せるためじゃない。黒龍の力を持つ者にしかできない何かを求めているんだ。警戒しろよ。俺より先に死ぬなんて真似、絶対に許さないからな」

そう言い残して彼は去り、俺は静寂と高まる不安の中に一人取り残された。俺の中のクラヤミは沈黙を続けていたが、より巨大な捕食者の接近を察知した獣のように、意識の奥底で身悶えしているのが分かった。

俺は着替えて大広間へ降りた。仲間たちはすでに全員揃っていた。青ざめて緊張した様子のホタル、腰に剣を帯びたユミコ。意外にも黙り込んで一心不乱にクッキーを齧っているアマネ、そして昨日よりもさらに虚ろな表情のキョウコ。

ゼパールに案内され、俺たちは玉座の間へと向かった。リュウザキは待っていた。闇そのもので織られたようなマントを羽織り、玉座の傍らに立っている。その表情は穏やかだったが、瞳には狂信的な炎が灯っていた。

「ようこそ、親愛なるゲストの皆様」彼の声が、誰もいないホールに雷鳴のように響いた。「昨日は私の世界のおもてなしを楽しんでいただけたかな。今日は……私の話を聞いていただきたい」

彼は間を置き、俺たちを一人ずつ見渡した。ホール内の緊張感は、物理的な重圧となってのしかかってくる。

「魔界の深淵……我々が『禁止区域』と呼ぶ場所に、古の異常事態が目覚めた。我々はそれを『虚無の欠片』と呼んでいる。それは魔法でもエネルギーでもない。それは……あらゆるものの『欠如』だ。一歩、また一歩と、それは魔界を飲み込んでいる。私の最高の衛兵たち、最も強力な悪魔たちでさえ、それに近づいた瞬間に存在そのものを消し去られた」

リュウザкиは視線を真っ直ぐ俺に向けた。

「この虚無は世界全体を脅かしている。止めなければ、魔界を飲み込み、次に天界を、そして人間界をも飲み込むだろう。我々が知るいかなる魔法も、これに対抗することはできない。通常の力はただ、その中に消えるだけだ。だが……」

彼は一歩前に踏み出した。彼のオーラが一瞬、目に見えるほどに膨れ上がる。禍々しい闇のエネルギーの塊。

「伝説によれば、黒龍クラヤミのエネルギーだけが、周囲の世界を破壊することなく、虚無そのものを『喰らう』能力を持つという。クロナ……世界の終焉を止められるのは、君だけだ」

俺は凍りついた。世界の終わり? 全世界の救済という責任が、俺の肩にのしかかってきたのか? あまりにも馬鹿げている。あまりにも現実離れしている。

「リュウザキ」ホタルの声が冷徹な鋼のように響いた。「嘘よ。あなたはいつも嘘をつく。なぜ私たちがあなたを信じなければならないの?」

リュウザキは娘を見つめた。その眼差しに誇りと混ざり合った哀愁がよぎる。

「私を信じるかどうかは君たちの自由だ、ホタル。だが、虚無は信念など気に留めない。ただ前進するのみだ。私を信じられないなら、自分の感覚を信じるがいい。魔界が震えているのを、君も感じているはずだ」

ホタルは口を閉ざした。彼女が何を感じているか、俺には分かっていた。俺たち全員が、次元の底から伝わる根源的な震えを感じていた。

「俺が行く」サイトーが口を挟む前に、俺は言った。

「クロナ!」ユミコが俺の方へ踏み出し、剣の柄を握りしめた。「正気なの? リュウザキに利用されているのよ!」

「かもしれない」俺は彼女の目を見て答えた。「でも、もし彼が正しいなら……もし本当にすべてを消し去ってしまうなら……黙って見ていることはできない。やってみるしかないんだ」

サイトーがニヤリと笑った。

「小僧も成長したな。まあいい、あんたがヒーローになるって決めたなら、俺たちも付き合うさ。こんな見世物、見逃したら一生の不覚だ」

「一人にはさせないからね、クロナ!」アマネがようやくクッキーを飲み込み、好戦的に拳を突き上げた。「クロナがいるところ、アマネもありよ!」

ユミコは黙って頷き、忠誠を示した。キョウコは沈黙を守っていたが、床を見つめるその眼差しは言葉よりも多くを語っていた。

「素晴らしい」リュウザキは満足げに微笑んだ。「輸送手段は整っている。ゼパールが案内しよう」

リムジンは悪魔の街を突き抜け、ネオンの光と熱狂するファン(一体どこから湧いたんだ?)を置き去りにして走った。俺たちは沈黙していた。それぞれが思索に耽っていた。俺は自分の中で緊張が高まっていくのを感じた。それは戦いへの恐怖ではない。未知への、自分を存在ごと消し去るかもしれない虚無への恐怖だった。

隣に座っていたアマネが、突然俺の手に自分の手を重ねた。彼女の手のひらは温かく、クッキーのせいで少しベタついていた。

「クロナ」彼女は静かに言った。「怖がらないで。一緒だよ。私たちなら全部乗り越えられるわ」

俺は彼女を見た。その瞳には、この世界には全く似つかわしくない純粋な楽観主義が輝いていた。だが、その楽観主義こそが、今の俺を支えているものだった。

「ありがとう、アマネ」

向かい側に座っていたユミコは鼻を鳴らして視線を逸らした。だが、彼女が剣の柄をより強く握りしめるのが見えた。彼女は俺のために、最後の一息まで戦う準備ができていた。

ホタルは窓の外を流れる景色をじっと見つめていた。その表情は無表情だったが、オーラは抑えきれない怒りと不安で震えていた。彼女は、俺たちをこんなことに巻き込んだ父親を憎んでいたが、俺たちに選択肢がないことも理解していた。

キョウコは隅の方で小さくなって座っていた。まるでここではない、どこか遠くにいるような様子だった。彼女が何を感じているのか聞き出そうとしたその時、ゼパールが到着を告げた。

リムジンが止まった。俺たちは外に出た。

目の前には「禁止区域」の境界が広がっていた。そこは、俺の夢に出てきた焼け跡のような場所だった。周囲は黒い灰に覆われ、まばらに立つ枯れ木は黒焦げの骨格のように突っ立っている。ここの空は紅ではなく、光を一切失った濁った灰色をしていた。

だが、本当に恐ろしいのはその先だった。

死に絶えた風景の中心に、穴が開いていた。それは単なる地面の穴ではない。現実そのものに開いた穴だった。光も音も、そして希望さえも吸い込む、黒く渦巻く裂け目。そこから漂ってくる凄まじい冷気に、俺は思わず身震いした。

俺たちは虚無の境界線までたどり着いた。これ以上先へ進む道はない。

「さて、小僧」サイトーが俺の肩に手を置いた。「あんたの出番だ」

俺は一歩前に踏み出した。虚無が俺を呼んでいた。その引力を、絶対的な安らぎと忘却の約束を感じた。

その時、長い沈黙を破って、俺の中のクラヤミが声を上げた。だが、それはいつもの猛々しい咆哮ではなかった。それは「恐怖」だった。何ものも恐れないはずの強大な龍が、今、恐怖に震えていた。

『そこに入るな、小僧……』その声は、頭の中で響く怯えた囁きのようだった。『この虚無は……魔法ではない。エネルギーでもない。それは万物の終わりだ。そこでは俺でさえお前を守ることはできない。手遅れになる前に引き返せ!』

俺は立ち止まった。あのクラヤミが恐れているというなら……そこで俺を待っているのは一体何なんだ?

俺は振り返った。仲間たちが後ろに立っていた。拳を握りしめるホタル。剣を抜こうとするユミコ。期待と不安の入り混じった目で俺を見つめるアマネ。薄笑いが完全に消えたサイトー。そして、言いようのない痛みに満ちた瞳のキョウコ。

もしここに入れば、二度と彼らに会えないかもしれない。永遠に消えてしまうかもしれない。

だが、俺が行かなければ……彼らは全員死ぬ。人間界も、すべてが滅びる。

俺は深く息を吸った。地獄の空気が肺を焼いたが、その現実の感覚が今の俺には必要だった。

「行かなきゃいけないんだ」仲間たちを見つめて俺は言った。「ごめん」

俺は彼らに背を向け、虚無と向き合った。彼らの返事も、止めようとする言葉も待たなかった。一瞬でも躊躇えば、恐怖に負けてしまうと分かっていたからだ。

俺は一歩、前に踏み出した。そして、虚無が俺を飲み込んだ。

一歩。それで世界が消えた。

後ろから俺を呼んでいたホタルやアマネの声が、オーディオケーブルを叩き切られたかのように唐突に途絶えた。足元に地面の感触はなく、空気の抵抗さえも感じない。痛みが襲い、体が原子レベルまで引き裂かれるのを覚悟したが、代わりに訪れたのは絶対的な、耳を聾するほどの静寂だった。

虚無の中には何もなかった。上も下もなく、時間さえも存在しない。ただ果てしない灰色の霧が立ち込め、自分の声さえも他人のもののように感じられた。

「おい……」と声を上げてみたが、その言葉は唇から一メートルも離れないうちに霧に溶けて消えた。

俺の中のクラヤミは、意識の最も深い隅に完全に閉じこもってしまった。彼の恐怖は肉体的な感覚として俺に伝わってきた。指先は痺れ、心臓はこの死に絶えた空間で唯一の生き物であるかのように激しく鼓動していた。

俺は何らかの奇妙な本能に導かれるように、前へと進んだ。次第に灰色が形を成し始めた。床が見えた。それは石でもタイルでもなく、夢で見たあの焼け焦げたフィルムを思わせる、滑らかで硬質な黒い物質だった。

そして、その絶対的な「無」の中心で、俺は彼女を見た。

俺は指一本動かせないまま立ち尽くした。理性が目の前の光景を拒絶していた。リュウザキが語ったあらゆる恐怖、世界の終焉という予言……俺は数千の口を持つ怪物や、純粋な悪意が脈打つ塊が現れるのを予想していた。

だがそこに座っていたのは、あぐらをかいて床に腰を下ろした一人の女だった。

光沢のある長い黒髪が、死人のように白い肌と対照をなして肩に流れ落ちている。頭部からはマッドパープルの角が優雅に曲線を描き、背中では巨大な深紅の翼が気だるげに揺れていた。その翼を広げれば、小さな街一つを覆い尽くせそうなほどだ。身に着けているのは、豊かな胸をかろうじて支える薄い紫のブラジャーと短いショーツだけだったが、彼女は虚無の冷気など全く気にかけていないようだった。

だが、最も荒唐무こうだむどうだったのはそこではない。

彼女は……溶けかかったアイスの棒を、冷静に、淡々と舐めていた。鮮やかな緑色の、フルーツ味のアイスだ。

俺はあまりに馬鹿げた顔で立ち尽くしていた。世界を救うために自らを犠牲にするという決意も、英雄的な覚悟も、すべてがこの光景を前にして塵となって消え去った。

「一体全体、何なんだ?」脳が処理できる思考はそれだけだった。

女は動かなかった。恍惚とした表情で目を閉じ、デザートを堪能することに全神経を集中させている。彼女からは、空気が液状化するほど濃密で黒いオーラが漂っていたが、本人は瞑想中のユミコよりも落ち着いているように見えた。

突然、彼女の手が止まった。俺は息を呑んだ。

彼女は獲物を狙う猛獣のようなしなやかさで、ゆっくりと視線を上げた。その瞳は流したばかりの血のように鮮やかな赤で、縦長の瞳孔が瞬時に俺を捉えた。

その瞬間、膝を突きそうなほどの重圧が俺を襲った。それは魔法ではない。この世界どころか、宇宙全体の食物連鎖の頂点に立つ存在の放つプレッシャーだった。筋肉が麻痺し、まぶた一つ動かせなくなった。

彼女は数秒間俺を見つめ、それから緑色の果汁で汚れた唇を、退屈そうな、それでいて艶然えんぜんとした笑みに歪めた。

「おや……」その声は低く、ベルベットのように滑らかで、わずかなハスキーさが俺の背筋を震わせた。「生きてる。それに……懐かしい匂い。あの古臭いトカゲのクラヤミは、新しい棲家を見つけたのかしら?」

彼女はゆっくりと立ち上がった。その動作は蜂蜜のように粘り強く、一歩踏み出すたびに俺の頭の中でクラヤミが悲鳴を上げた。内なる龍は恐怖で咽び泣き、逃げろと懇願していたが、俺の体はもう俺の言うことを聞かなかった。

彼女は至近距離まで歩み寄ってきた。彼女から漂う夜の花のような、そして古く恐ろしい何かの香りが鼻を突く。彼女は俺よりも背が高く、その存在感だけで俺のすべてが圧倒されていた。

女はアイスの棒を手にしたまま、俺の顔を覗き込んできた。赤い瞳は、博物館の興味深い展示品を見るように俺を観察していた。

「……じゃあ、あなたが深淵の囁く『脅威』なの?」彼女は俺から目を離さずに、再びアイスを舐めた。「こんなに小さくて。こんなに脆そうなのに」

彼女は空いた手を伸ばし、俺の頬に触れた。その指先は氷のように冷たかったが、触れた場所には黒い炎が走った。

「ねえ、クロナ……」彼女は、まるで俺を永遠に知っていたかのようにその名を囁いた。「リュウザキが言ったことは半分しか合っていないわ。虚無は世界を滅ぼしたいわけじゃない。虚無とは私のこと。そして私はただ……とてもお腹が空いているだけ」

彼女はさらに顔を近づけ、その吐息が俺の唇を掠めた。

「そして、私のアイスは今ちょうど終わったところなの」


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