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息子は天才だ

【アレックス・リベイラ視点(アランの父親)】


 愛する妻アメリアとの間に生まれた長男アランは、我が息子ながら紛れもない天才だ。

 父親の私が言うのも親バカでおかしいが、容姿はとてつもなく可愛らしく、とにかく頭が良い。

 それこそ赤ん坊の時から色々な事に興味を持ち、小さな眉をひそめて何かを深く思案している姿をよく見かけたものだ。


 ……ただ、同じ男だからこそ気付いてしまったのだが、あいつはたまにアメリアや、メイドのミーナを妙にエロい目で見つめていることがある。

 ふむ。これは……私に似たのだろうか?


 何はともあれ、アランが生まれてからは、それまで暗い雰囲気が漂っていたリベイラ辺境伯領が、見違えるように明るくなっていった。

 それに、妻アメリアを始めとしたミーナや屋敷のメイドなど、女性達が日に日にドンドンと美しく……いや、最初から十分に美しかったのだが、さらに磨きがかかってきているのだ。

 これが、リベイラ領の男達が毎日張り切って仕事に励む最高のキッカケになっていた。


 ある日、そんな私の視線に気付いたのか、アランが幼い顔で意味深に私に向かって「親指」を立ててみせてきた。

 ……そうか、お前も男として、この素晴らしさが分かってくれるんだな、息子よ。


 また、アランは天性の人たらしでもあった。

 リベイラ領のほとんどの住人から異常なほど人気が高く、皆がアランを心から好いてくれている。全く我が息子ながら、次期当主として申し分ない素養があり、私もアメリアも将来が楽しみで仕方がない。


 アランが自分の足で動き回れるようになると、その行動力はさらに加速していった。

 危険がないようミーナに見張らせてはいたが、目を離すと信じられない場所までトコトコ歩いていってしまうので、何度肝を冷やしたことか……。

 心臓に悪く、アメリアもいつもハラハラしていたようだ。


 だが……不思議なことに、この頃からアメリアの一番の弱点、いや、私が愛してやまなかった「慎ましやかだったお胸様」が、突如として奇跡の成長を始めたのだ。さらに連動するように、ミーナや他のメイド達までもが……。

 これには領内の男達が色めき立ち、激しく歓喜した。もちろん、この私もである。


 おかげで男達のやる気も天井を突き抜け、天まで昇っていく勢いだ。

 お屋敷の中は今、自信に満ち溢れて胸を張り歩く女性達と、目のやり場に困って前屈みで歩く男性達で溢れかえっている。

 まだ屋敷内だけの現象だが、これが領地全体に行き渡れば、深刻な課題だった結婚ラッシュや出産ラッシュに繋がり、人口爆発のキッカケになるのにな……。こればかりは人知を超えている、天に祈るしかあるまい。


 そんな幸せな奇跡の中、我が妻アメリアに続き、メイドのミーナまで同時に妊娠していることが発覚した。

 ミーナの父親は、我がリベイラ辺境伯騎士団の団長であり、私の幼少期からの友人にして良きライバルでもあるガイウスだ。

 その報告を聞いた日は、ガイウスと2人でガシッと手を取り合って喜び、夜通し盃を互いに傾け合ったものだ。


 同じような時期にアランが言葉を喋るようになると、領内の住人達はより一層明るくなっていった。

 というのも、アランはよく、貴族の身分など全く関係なしに誰にでも愛想よく挨拶をして回っていたのだ。私はこれには本当に驚かされた。苛烈な貴族社会の常識だけで生きてきた私には、到底真似の出来ないことだと……いや、それは言い訳だな。

 我が息子の高潔な姿に胸を打たれた私は、私もアランを見習って、領内の皆に自ら声を掛けて回ることにしたのだ。

 するとどうだろうか……皆の表情も見違えるほど明るくなり、領地全体に凄まじい活気とやる気が漲り始めたではないか。アラン、お前は本当に凄い子だ。


 そんなある日、アランが珍しく私に直々におねだりをしてきた。

 普段あまり子供らしくない落ち着いた子だったからこそ、親として頼られたことが最高に嬉しかった。


「お父様、僕は色々と植物を植えられるお庭が欲しいです!」


 うんうん、幼いうちから植物を育てるというのは、大変に意義深いことだ。そこから自然の摂理など、学べることも多いだろう。

 しかし当時の私は、常に進行してくる魔物達の防衛線、王都からの少なすぎる援助、そして不安な隣国情勢などの様々な難問を抱えており、脳内がパンク寸前だった。嬉しく思う中でも処理しなければならない重要案件が多く、アランの件は同席していた執事に全て任せることにした。アランの良い勉強になればいい、と。


 後で戻ってきた執事から報告を受けると、どうやら屋敷のすぐ裏手にある土地を与えたようだ。あそこは確かに空いているが、石だらけのひどい荒れ地だったはずなのだが……。

「まぁ、後で様子を見に行ってやるか」──そう思っていたのだが、激務のせいですっかり忘れてしまっていた。


 なぜなら、我が家に本物の天使ちゃんが誕生したからだ!

 アランの時も信じられないくらい嬉しかったが、産まれたのはなんと待望の女の子だったのだ! 父親にとって、娘ほど大事な宝物がこの世にあるだろうか? いや、断じて無い。(もちろん妻は別腹だ)

 我が家の天使ちゃんこと、シエラちゃん。まさにアメリアにそっくりで、将来はとんでもない美人さんになりそう……いや、絶対になる。将来、悪い虫が一切付かないように、私が目を皿のようにして見張っていなければ……。


 時を同じくして、ガイウスのところにも娘のリーナが産まれ、俺達はまた肩を抱き合い、狂喜乱舞しながら祝いの酒を喉に流し込んだ。

 こんなに心地よく、美味い酒に酔えたのはここ最近全く無かったことだ。

 まあ……そのおかげで翌朝、アメリアとミーナの2人から並んで般若のような顔で激怒されたが、それも今となっては良い思い出である。


 そんな幸せの絶頂の中、アランが急に「お父様に話がある」と執事を通して言って来た。

 私は執事に案内されるまま、すっかり失念していた例の裏庭へと足を運び……そして、アゴが外れんばかりに驚愕した。


「な……なんだ、これは……っ!?」


 なんとそこには、見渡す限りの美しい緑の絨毯が広がり、整然と様々な野菜が実を付けて植わっていたのだ。

 そうだった。確かにアランに裏庭を使っていいと許可を出したが……これはいくら何でも想定外だろう。あそこは人が立ち入れないほどの石だらけの荒れ地だったはずなのに!


 しかも、アランが誇らしげに持ってきて見せてくれたのは、我がリベイラ辺境伯領の厳しい気候に完全に対応した、独自の新型品種『ジャガー』や『サツモー』という芋類だった。

 普通なら、5歳にも満たない子供の作ったおままごとの産物だ。領主としてまともに相手にせず、後回しにするところだが……アラン信者と化した執事を含め、複数名の家臣たちからの熱烈な嘆願もあり、領都近くの村で試験的に植えさせてみることにした。

 その結果は──言葉を失うほどの大成功だった。


 私は、天を仰いで我が息子の規格外の才能に涙した。

 これで、我がリベイラ辺境伯領の長年の弱点だった食料事情は、劇的に改善されるだろう。私は領主として、我が息子アランに救われたのだ。

 最近はなぜか領内の女性達もみんな綺麗になり、それに釣られて男達も異常に張り切っているからな……。アランがもたらしてくれたこの圧倒的な食料があれば、これからどれだけ人口が増えてもびくともしないだろう。


 さらにアランは手を緩めず、野菜に砂糖、さらには衣服の原料となる麻などにまで手を広げ、辺境伯領の食料・農業生産高は、アランが生まれた年と比較してなんと『10倍近く』まで跳ね上がっていた。

 当然、未曾有の好景気に沸く領内では、幸せそうな妊婦の姿も目立ち始め、領地の行く末はこれ以上なく明るい。


 人材の方も騎士団は日に日に見違えるほど精強になり、領地の様々な職業の職人たちの能力も爆上がりして、財政的にも信じられないほどの余裕が出来てきた。

 アランの誕生からわずか数年で、ここまで全ての状況が劇的に向上するとは……私は世界一運が良い領主かもしれない。


 まだまだ隣国の脅威や魔の森など、問題は山積みだが、アランがいてくれれば一つ一つ解決していけそうな気がする。

 特に、こうして領地内が信じられないスピードで安定・豊かになってくると、今度はそれを狙う「外敵」の心配が増すのが世の常なのだが……今の精強な我が軍なら、それすらも跳ね返せるだろう。

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