水路工事
領内の食料に余裕が出てきた。となれば、次に僕が着手したいのは、領内の上下水道や城壁、それから道路なんかのインフラ整備だね。
人間が生きていくには、綺麗な水が絶対に必要だ。
けれど現在のリベイラ辺境伯領では、水といえば井戸水に頼るか、もっと大量に必要なら近くを流れる川まで行ってわざわざ汲んで来ている状態だった。
やっぱり、最初は水路の整備からだね。そうすると、近くの大きな川から領内へ水を強力に引き込みするのが一番手っ取り早いかな。
というわけで、早速近くの川まで下見に来てみた。
うん、川幅もしっかりあるし、流れはそこまで早くはなさそうだ。
じゃあ……ここから領内に向かって、一気に掘り進めていこうかね。
「アースコントロール!」
イメージを込めると、一度の魔法で約十メートルくらい綺麗に掘り進められた。
このままだとただの泥の溝で崩れてしまうので、掘った土を即座に頑丈な石へと変質させて、水路の形を美しく整えていく。
「ロッククリエイト!」
順調、順調。
これで領内に向かって「掘って、固めて、作って」をゲーム感覚で繰り返すこと一ヶ月。気付けば、もう領内に水を今すぐ引き込める手前の位置まで水路が到達していた。
よし、あとはお父様に最終的な水路引き込みの許可をもらいに行くだけだね。
「お父様、少しお話があります。よろしいでしょうか?」
「アランか。どうしたのだ、そんな真面目な顔をして」
「お父様、領内に立派な水路を作りませんか? 実は、僕が魔法の練習を兼ねて、近所を流れる川からすぐそこまで水路を作ってみたんです。あとはお父様が許可さえしてくれれば、いつでも領内に水を通せますよ。どうですか?」
「うん? ──いや、ちょっと待ってくれ。アラン、お前……魔法が使えるのか? 俺もアメリアも、まだ教えていないはずだが……」
あっ、そうだった。
自分の中では魔力を『育てる』のもしっくりきていて、流れで魔法が使えるのが当たり前みたいになっていたけれど、そういえば両親にはまだ一度も話していなかったっけ。
「……はい! ちょっと魔法を試してみたら、なんか出来ちゃいました! それで面白くなって毎日使っているうちに、ついでに水路を作ってみようと思い立ちまして……」
「そうか、そうか! ──ハハハ、流石は俺の息子、やっぱり天才だな!! なんで魔法が使えたからといって即座に水路に繋がるのかは少々分からんが、確かに水路があった方が色々と便利だしな!」
やっぱり、うちのお父様は話が早くて助かる。ちょっと親バカが過ぎる気もするけれど。
「そうですよ。ついでに、実際に領都をぐるっと水路で囲ってみませんか?」
「なるほど、お堀にするんだな。俺も昔考えたことがあるが、当時はとにかく金が無くて諦めたのだ。だが、アランが魔法でそれをやってくれるというのなら、許可を出すというか……むしろ是非お願いしたい!」
よしよし、辺境伯様から直々のお願いをゲットしたぞ。
そうと決まれば、僕は張り切ってやっちゃうよ。
◆◆◆◆
「おや、若様。今日はこんな泥臭い場所にどうしたんですかい?」
「やあ。実はこの辺りに、水を流す綺麗なお堀と水路を作ろうと思ってね。そうだ、街の人をここに集めてよ。実際に使うみんなで話し合いをして、一番使いやすい物にしたいからさ」
「はぁ……良く分かりやせんが、街の主だった者たちを集めればいいんですかい?」
「うん、そうだよ。お願いね!」
僕は村人たちが集まるまでの待ち時間を利用して、この街の簡易的な地図を地面に枝で描いた。う〜ん、やっぱりこれからは製紙技術も必要だよね〜、なんて考えながら。
やりたい事が多すぎる。でもやっぱり、最低限の食料生産と備蓄、そしてそれを支える水。領地の民衆を飢えさせるワケにはいかないからね。
「若様、お待たせしました! 街の職人や老人たちが集まりましたぞ」
「やぁ、みんな。今日集まってもらったのはね、この街に便利な水路を作ろうと思うんだ。それには、実際に毎日使うキミたちの意見をまず聞いてから設計したいなと思ったんだけど……どうかな?」
「す、水路……ですかい? 若様、お気持ちは嬉しいですが、そんな大工事、いったい何千人の人手と何年かかるか……」
集まった街の職人や老人たちは、一様に困惑の表情を浮かべた。当然だ。地球の中世ヨーロッパ並みの文明において、川から街まで水路を引くなど、膨大なお金と人手、そして何年もの歳月が必要な一大国家プロジェクトなのだから。5歳児が思いつきでやっていい規模ではない。
「あ、そこは心配しないで。川から街のすぐそこまでは、もう僕が一人で掘って、石でカチカチに固めておいたから。一ヶ月くらいで終わっちゃった」
「「「は?」」」
職人たちの時が止まった。全員が口をあんぐりと開けてたまげている。
一ヶ月で、たった一人で掘った……? 意味が分からない。
だがその時、日頃から僕の《育てる》を薄く広く掛けられまくっている『アラン信者』の街の男が、
「若様なら……若様ならあり得るのか……?」
もう、やっちゃったもん……と誤魔化してみる。
「それでね、ただ水を流すだけじゃもったいないでしょ? だから、みんなの意見が聞きたいんだ。どこに洗濯場があったら便利かな? 炊事場や公共トイレも作りたいし……それに、やっぱり1日の疲れを癒やす大きなお風呂も欲しいよね。仕事場だと、例えば鍛冶屋さんは大量の水を使うでしょ? 街の中心には、いつでも綺麗な水が汲める中央広場なんてあったら素敵じゃない?」
僕が地面に描いた地図を指差しながらニコニコと提案すると、職人たちの目の色がガラリと一変した。彼らの職人気質に火がついたのだ。
「……若様! もしそれが本当なら、俺の鍛冶場の手前に水を引き込んで『水車』を作りたいです! そうすれば、重い鉄を叩くハンマーを自動で動かせます!」
「私は、各家庭の近くに生活用水の汲み場が欲しいわ。毎朝の荷運びがどれだけ楽になるか……!」
「だったら、汚れた水をそのまま綺麗な川に戻しちまったらマズイ。排水用の水路も、最初から分けて作るべきだな……!」
「いいね、いいね! 生活排水と綺麗な水は完全に分けよう。それと、お父様が『お堀』にしたいって言ってたから、街の周りをぐるっと水路で囲んで、外敵を防ぐ頑丈な城壁もセットで上から生やしちゃおうか!」
出たよ、前世おじさんの近大都市への憧れ。
脳みそがフル回転で「最強の上下水道都市」の設計図を組み立てていく。もちろん、集まったみんなに、薄く広く《育てる》のスキルをかけながらね。能力も、僕への絶対的な好感度も、同時にグングン育てていくよ。
「よし、みんなの意見はまとまったね。じゃあ、今から早速水路を通すから、僕についてきて。位置を確認しながらやるからさ」
僕は街の人たちを後ろに引き連れてトコトコと歩きながら、その場で魔法を次々に放ち、目の前でみるみるうちに水路を完成させていく。
──実は、僕の今の魔力なら、数日間で街全体を大改造することだってやれない事はなかった。
だけど、こうして「みんなで話し合い、一緒に作った」というコミュニケーションのプロセスが、実は何よりも大事なのだ。これが民の帰属意識を生み、後々のトラブルを防ぐことを、前世の僕は嫌というほど知っているからね。
目の前で爆速で出来上がっていく完璧な上下水道を見ながら、職人たちは腰を抜かしつつも、狂喜乱舞の声を上げていた。




