最初の品種改良
地中から石を表面に出し終わったら、今度はそれを細かく砕いて整地だね。
僕は土魔法を応用して、同じように裏庭をどんどん整地していく。
「アースコントロール!」
この魔法も大分扱い慣れてきたけれど、使う内に熟練度的なものが上がっていくのだろうか。
これだけ広い敷地を1人で完璧に整備出来たのは、気付けば作業を始めてから三ヶ月が経った頃だった。
ちなみに両親は、僕がただ泥んこになって裏庭で遊んでいるだけだと思っているみたいだ。
さて、土地は出来た。そろそろ本命の「食べ物」に手を付けていかないとね。我がリベイラ辺境伯領は、慢性的に食材の余裕が無いからだ。
最初は、初心者でも育てやすい芋類と、領地での需要が高い野菜からスタートした。
何度も失敗を繰り返しながら、植えた野菜達にスキル《育てる》を掛けていく。
最初は芽が出るまでに3日ほどかかっていたが、スキルを使い込んでいくうちに1日で芽が出るようになり、さらには半日、1時間……最終的には、植えた直後にすぐ芽が出るようになってしまった。やりすぎた。
そんな農業実験を繰り返すうちに、僕は2歳になり──そして遂に、念願の『お兄ちゃん』になったのです!
アメリア母様とミーナの子供が、同日に無事に生まれたのだ。
2人共に女の子で、本当に可愛らしい。
アメリア母様の娘の名前は、シエラ。金髪・碧眼で、母様にそっくりな絶世の美人さんになる予感が今からビンビンする。
ミーナの娘の名前は、リーナ。茶髪・茶目で、ミーナと同じ垂れ耳の獣人だ。リーナも間違いなく美人さんになりそう。
抱っこさせてもらうと、2人ともプニプニしていて、とっても温かかった。
「お母様、ミーナ、生んでくれてありがとう」
安心してくれ。この可愛い妹達は、僕がお兄様として、将来しっかりとステキなレディーに育ててみせるさ。
こうして、植物の実験と並行して、僕には「妹達と全力で遊ぶ」という至高の使命が出来た。
当然、領地の食料問題も大事だが、天使のような妹達の育児も同じくらい大事なので、そこは神様も許して欲しい。
さらに1年が経ち、僕は3歳になった。シエラもリーナも最近は自分の足でしっかりと立ち上がれるようになり、最近ではいつも僕の後ろをトコトコと付いて回っている。
……うん、マジで天使だな。
もちろん、お兄ちゃんとして魔力の《育てる》を使った英才教育を、2人には内緒で施している。少しずつだが確実に、2人の魔力総量は成長しており、お兄ちゃんは非常に嬉しいぞ。
それと同時に、僕への感情(好感度)の《育てる》も、将来の安全のためにほんの少しだけ始めてみた。
そして、領地の食料問題にも大きな光明が見えてきた。
裏庭で育てていた「芋類」の品種改良が驚くほど上手くいったのだ。
地球でいうところのジャガイモに似た『ジャガー』や、サツマイモに似た『サツモー』なのだが、品種改良の成功により、1度に採れる量が通常の「倍」になった。おまけに我がリベイラ領の気候に完全に適応したため、年間の収穫回数も「倍」になったのだ。
つまり、実質4倍の収穫量である。
この大成功をお父様に見せたら、顎が外れそうなくらい驚いていた。そしてすぐに領内にある他の農地へ回され、領地を挙げてこの新型芋類の大量生産が開始されることになった。
これにはお父様もお母様もミーナもひっくり返るほど驚いていたが、長年の課題だった食料問題に画期的な解決策が出来たため、最近ではみんなニコニコしていることが多い。
まだまだ改良したい食料は山ほどあるから、順番にやっていこう。
さらに月日が流れ、僕が生まれてから5年が経った。
今やリベイラ辺境伯領の畑は、どこを見渡しても青々とした緑で一杯になっている。
この2年で麦、野菜、さらには砂糖の原料や、衣服になる麻などにも手を広げた結果、辺境伯領の農業生産高は、僕が生まれた年と比較してなんと『10倍近く』まで跳ね上がっていた。
それだけではない。僕が「薄く広く」スキルを掛け続けている人材の方も、騎士団は日に日に精強になり、領内の様々な職人の技術も爆上がりして、経済的にもかなりの余裕が出来てきた。
愛する我が家のお父様もお母様もミーナも能力が上がり、特にお母様とミーナは年齢に逆行するかのように益々美しくなっている。お胸様も。
そして、愛しの妹達は3歳になり──。
「シエラはねぇ、お兄様のお嫁ちゃんになうの〜!」
「リーナも、若ちゃまと絶対に結婚ちう〜!」
と、こんな感じで絶賛ブラコン街道をまっしぐらに突き進んでいる。
あぁ、素直でステキなレディーに育ってくれて嬉しいぞ……。
なんて僕が鼻の下を伸ばしていたら、なぜか訓練場の壁の向こうから、我が父君と騎士団長のむせび泣く声が聞こえてきた。
「なんでだ……。なんでシエラはアランばかりなのだ……。普通、女の子は父親と結婚すると言うものだろう……?」
「そうですな、旦那様……。私なんて、リーナが生まれてすぐに若様に心を盗られてしまいましたぞ。普通は一番最初に父親を好きになるはずが……ううっ」
……いやいや。でも、なんかごめん。
そんな僕も、最近では剣術や槍術、弓術など、本格的に体を動かす戦闘訓練を始めている。その際にも、自分自身への《育てる》は忘れずに使い続けているため、5歳児にしては既に驚異的な身体能力の成長を遂げていた。
「さぁ、こい! アラン!」
今、木剣を構えた現辺境伯当主(お父様)の目がマジになっている。
……絶対に娘を盗られた腹いせだよね、これ?
お父様はこれ見よがしに嬉しそうな顔をして、僕の木剣を力任せに弾き飛ばしてくる。
その後ろには、同じく目を血走らせた騎士団長が、僕と手合わせするための順番待ちの列を作っていた。
「くそー、全然敵わないな。お父様、いくらなんでも手加減なしですか?」
「ふん! 娘を盗む男に、手加減なんてするわけないだろう!」
「そうですな。若様には、リーナを命がけで守って貰わねば困りますからな……(ギロリ)」
いい歳したオヤジ共が、寄ってたかって5歳児にする嫌がらせかよ、これ。
……よし、そっちがその気なら、僕にだって大人のサバイバル術(前世の知恵)がある。
「分かりました。お父様と騎士団長の覚悟、しかと受け取ります。……それじゃあ、──お母様ぁ〜〜! ミーナぁ〜〜!」
「あらあら、どうしたのアランちゃん!?」
「ご用でしょうか、アラン坊ちゃま!?」
その声を合図に、一瞬でオヤジ共の顔がサァアッと青ざめる。
「お父様と騎士団長がね、シエラとリーナを盗ったって怒って、その腹いせに剣の訓練で本気で叩いてくるの……っ。うう、僕はとっても恐かったよぉ……」
言った瞬間、場が凍り付いた。マジでピキピキと音が聞こえそうだった。
「あなた? ……一体どういう事かしら? 私たちの大事なアランちゃんに、大人気なく暴力を振るっているのですか?」
「アナタという人は……? 貴方、お仕えするアラン坊ちゃまに対して、訓練にかこつけて何をしているのですか?(ゴゴゴゴゴ)」
鬼、降臨……。
そこから先は、まさに地獄絵図。阿鼻叫喚の現場となった。
この凄惨な事態を招いたのは僕だが、おじさんとして最後まで見届ける責任があるよね。うん。
この日の夜、妻たちからコッテリと魂が抜けるまで絞られた辺境伯と騎士団長は、翌朝、完全にゲッソリと干からびた顔をしながら朝食を食べていた。
一方、お母様とミーナさんは、いつも以上にツヤツヤのお肌でご機嫌さんだったとさ。
めでたし、めでたし。
へへ〜ん、べーだ。




