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魔法で整地

「おはよう、今日もお疲れさま」

「良い日だね、風が気持ちいいよ」

「お仕事頑張って。ケガしないようにね」


 屋敷を回りながら、目に付いた使用人や兵士たちに声を掛けていく。

 話しかけられた者は皆、一様にパッと笑顔になる。

 いいねー。これだよね。


 あれからスキル《育てる》を使って皆の気持ち(好感度)を育ててきたが、すでにかなりの成果になっている。

 自分自身の育成も順調だし、何よりリベイラ辺境伯家の人達は僕の大事な家族だからね。

 僕に対して良い感情を持ってくれている人には、その人自身の能力(筋力や魔力、技術など)も一緒に育つように、薄く広くスキルを掛けるコツも掴んできた。アメリア母様のお胸様のように一点集中も出来るし、こうして「薄く広く、大勢に」掛けることも出来るようになったのだ。

 今や、リベイラ辺境伯家に関わる全ての人たちが、僕の《育てる》の対象である。


 そして現在、僕はこの世界の知識を蓄えるために書庫へと来ている。

 この世界の文字はミーナに教えて貰ったが、事前に《育てる》で強化しておいた脳トレのおかげで、たった一回で全て覚えてしまった。


「アランちゃんは本当に天才ね」

「キミに似て賢くなったんだよ、アメリア」

「もう、あなたったら……ウフフ」


 うん、今日も両親は仲良しだ。でも、僕の目の前でイチャイチャするなよ?

 母様のお腹には、僕の妹(か弟)がいるんだからね。

 そうだ、お腹の中の赤ちゃんに対して《育てる》はどう作用するのかな?

 僕は毎日、アメリア母様のお腹に優しく話しかけながら、スキルを弱く掛けている。「お兄様だよー、元気に育つんだよー」ってね。

 もちろん、同じく妊娠中のミーナのお腹にも同じように《育てる》を使っている。

 2人とも、元気に生まれてくるんだぞ。


 ◆◆◆◆


【辺境伯家のメイドの独白】


 なんだか最近、もの凄く体の調子が良いのよね。

 体が軽くて、毎日朝から晩まで立ち仕事をしていても全然疲れにくいの。おまけにお肌のハリもすごく良くて血色もいいし……私、どうしたのかしら?


 それに、辺境伯様や奥様も最近とってもお優しいし、何よりアラン坊ちゃまが本当に可愛いの! まだあんなに小さいのに、いつも私達のことを気遣って「お仕事頑張って」なんて声を掛けてくれるんだもの。もう、お姉さん全力で応援しちゃう!


【辺境伯家の騎士団・見習い騎士の独白】


 俺は今、毎日きつい訓練の日々を送っている。早く先輩達みたいに一人前の騎士として任務に就きたいが、そのためにはもっと強くならなければ……。

 ただ、不思議なことに最近、訓練をやればやるほど実が入るというか、自分でも驚くほどの成果が出ているんだ。昨日も剣技のキレを先輩達にベタ褒めされたしな。


 そういえば、辺境伯家の御曹司であるアラン様が、よく訓練場に足を運んで俺たちに話しかけてくれるんだよな。「頑張ってね」って。あんな可愛い坊ちゃまの前で、不甲斐ない姿は見せられないしな。よし、今日も気合を入れて剣を振るうか!


 ◆◆◆◆


 書庫の窓から外を眺めながら、僕は小さくガッツポーズをした。

 うんうん、ちゃんと遠隔での《育てる》の効果が出ているな。

 この調子でいくと、我がリベイラ辺境伯家の家臣団は、近い将来「世界最強の軍隊」になってしまうのではなかろうか。うししっ。


 さて、本題だ。本を読み込んで大体の地理が分かってきた。

 この世界はアルハダイル王国。そして我が家はその一角を担うリベイラ辺境伯領!

 しかし立地が最悪だ。領地の外は『魔の森』と呼ばれる魔物が徘徊する、世界でも有数の危険地帯に隣接している。さらには、隣国であるサラダン王国との国境でもあるのだ。


 サラダン王国とは今は停戦しているが、お世辞にも仲が良いとは言えない。数十年前にも激しい戦争をしていたらしいしね。

 つまり、戦力強化と領地内政を同時にやらないと生き残れない。そのためには、やっぱりスキル《育てる》を使ったリソースの強化は必須だな……。


 内政の本命は、やっぱり農業かな。食料自給率は絶対だし、冒険者や騎士たちが使うポーションの原材料になる薬草なども、早急に大量用意したいところだ。

 とはいえ、いきなり大掛かりな畑は作れないから、まずは小さな庭園くらいのスペースから始めさせてもらおうかな?

 よし、お父様に頼んでみよう!


「お父様、僕は色々と植物を植えられるお庭が欲しいです!」


 僕はトコトコと執務室に入り、デスクに向かっている父親にお願いした。

 父アレックスは、常に進行してくる魔物の脅威、王都からの少なすぎる援助、そして不安な隣国情勢などの難問を抱えており、ぶっちゃけ脳内がパンク寸前で余裕がなかった。

 だからこそ、僕の頼みの詳細をろくに確認もしないまま、二つ返事で許可を出してしまったのだ。


「おっ、アランは花でも植えるのか? 分かった分かった。何事も経験が大事だな。おい、アランにどこか適当な土地を与えてやってくれ」


 お父様は一緒にいた執事にそう丸投げすると、すぐに自分の書類仕事に戻っていった。

 しかしお父様は知らなかったのだ。この側に控えていた執事もまた、すでに僕の《育てる》によって重度の『アラン信者』と化していた1人だということを。

 これが後々、リベイラ辺境伯家にとって最大の転機になるのだが、それはまた別のお話。


「アラン坊ちゃま、まずはどのような場所がよろしいでしょうか? どこでも手配いたしますよ!」


「うんとね、お屋敷の近くで、ある程度の広さがある所がいいな!」


「それでしたら、屋敷の裏手広大な敷地がありますが……あそこは石だらけの荒れ地ですからねぇ……」


「いいよ! そこで色々実験したいから、連れて行って!」


 さっそく執事さんに案内されて裏庭へとやってきた。

 うん、見事なまでの荒れ地だ!!

 雑草の背丈も凄いし、確かにゴツゴツとした石だらけである。普通の人間なら開墾するだけで数ヶ月はかかるだろう。

 でも、こういうのって魔法で何とかならないかな?


「ありがとう、執事さん! 僕、これからこのお庭の整理をするからもう大丈夫だよ。お仕事頑張ってね!」


「はっ! ありがたきお言葉! 失礼いたします!」


 執事さんにお礼を言って見送った後、僕はさっそく周囲の安全を確認して魔法の実験を始めることにした。


「やっぱり、基本の草刈りは風魔法かな? ──ウインドカッター!」


 ひゅ〜。

 ……うん、可愛いそよ風が出ただけだった。でも、一応風は出たね。

 何がダメなんだ? こういうときは、前世のラノベの知識通り「明確なイメージ」が大事なのかな?


 僕は目を閉じ、空気を鋭利な刃物にするイメージを浮かべた。明確な真空刃。そう、日本でいうところの『カマイタチ』ってやつだ。

 魔力を胸の塊から腕、そして手のひらへと移動させ、そのイメージを具現化するように放つ──。


 シュバババババッ!!!


 手応えあり。真っ直ぐに放たれた不可視の突風が通り抜け、目の前の頑固な雑草たちを一瞬できれいに刈り上げた。


「いいね、いいね! 魔法はこうでなくちゃ! 楽しいね!」


 僕は辺りの雑草をターゲットに、ゲーム感覚で風魔法の練習を重ね、夕方前にお屋敷へと帰った。魔法の特訓、楽しすぎるな〜♪


 次の日は、水魔法を試してみることにした。


「水魔法は……水圧を限界まで鋭くして、ウォータージェットみたいに切ればいいのかな? ──ウォーターカッター!」


 パシュッ! 綺麗に石が真っ二つになった。うん、これもめちゃくちゃ切れるな。

 風魔法と水魔法の合わせ技で、荒れ地の雑草は全て綺麗に刈り取ることができた。

 風魔法は見えないから不意打ち用だけど、水魔法は視認できる。何かに美味く利用できるかもしれないな。


 その次の日は、男のロマンである火魔法だ。

 さすがにお屋敷の近くは危ないので、建物からかなり離れた場所へ移動し、今まで刈り取って積み上げておいた大量の草を燃やしてみることにする。


「火魔法は出力をしっかりと調節して……──ファイア!」


 ゴオオオオオオオッ!!!

 まるで軍用の火炎放射器みたいな猛烈な業火が吹き荒れ、一瞬で草が灰になった。火魔法はやっぱり威力が高い分、攻撃範囲が広くなるな。実戦で魔物に使うと、素材まで燃え尽きちゃうのが問題になりそうだ。要調整だな。


 そして次の日、いよいよ本命である「土魔法」の出番だ!

 まずは、この敷地内をごろごろと占領している大量の石を何とかしなければならない。


「う〜ん、何とか地中の石だけを表面に引っ張り出せないかな? 土全体に僕の魔力をじっくり染み込ませながら……よし、やってみよう。──アースコントロール!」


 ズズズズズ……ボコボコボコッ!!!


 僕のイメージ通り、地中に埋まっていた大小様々な石が、まるで生き物のように意思を持って地表面へと這い出してきた。

 この魔法は、一度に使う範囲が広ければ広いほど魔力をゴリゴリ消費するな。

 でも、自身の魔力総量を《育てる》ための、これ以上ない良い訓練になるぞ。


 こうして僕は、次の日も、その次の日も、地中から石を引っ張り出しては魔法で細かく砕く作業を繰り返し、さらに一週間が経過していった──。

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