育てるの使い方
初日は思わず寝てしまった。
アメリア母様のお胸様にスキルが使えたのは覚えているが……。
「アランちゃん、おはよう。今日も良い天気よ。まずはご飯にしましょうね」
はい、喜んで!
どこかの居酒屋並みに勢い良く心の中で返事をしてから、僕は本能のままに吸い付く。
ん〜? ん〜?
あれ? アメリア母様のお胸様が僅かに……増えとるじゃないか〜!
これはスキルの効果なのか?
大変素晴らしい。
色々と言い訳をしながら試してみたいが、今はまだ赤ちゃんだからな……。
歩けないし、とりあえずベッドの上で試せるモノを片っ端からやってみるかな。
まずはアメリア母様のお胸様へのスキル使用は確定として、あとは発動条件とか効果内容の確認をしないとね。
そこで、「自分に使ったらどうなるのか?」という疑問が出てくるよね。
何を成長させるかだが、いきなり赤ちゃんが大人になったらホラーだしな。
やはり異世界転生では、魔力的な力を鍛えるのがセオリーで、王道で、当たり前だよなぁー!
ってことで、まずは魔力的な不思議な力がないか、自分の中に意識を向けてみた。よく異世界小説で主人公がやっていたアレだ。
ん〜〜! ──あった!
胸の辺りにムラムラ……じゃないや、モヤモヤした何かがある。
小さな塊みたいなエネルギー。異世界転生モノでは皆がこれを動かしたりしてたなぁ〜と思い出し、手探りで動かそうとしてみる。
……うん、出来ない。どうしよう。
出来るまで踏ん張ってみるかな?
そう思って顔を真っ赤にしてフンフンと力んでみたら、魔力ではなく別の『実』が出てしまい、アメリア母様を大声で呼ぶことになった。切ない。
これじゃ埒が明かないなと、新しいオムツに替えてもらい気を取り直す。
今度はこの魔力的な塊に、スキル《育てる》を少しだけ意識して使ってみた。
すると、塊がほんの少し大きくなった……? と思った直後、またしても強烈な眠気が襲ってきた。
魔力的な存在に《育てる》を使う。
アメリア母様のお胸様にも《育てる》を使う。
という感じで日々頑張る僕は、世界で1番忙しい新生児アラン君です。
それから1ヶ月が経った頃、アメリア母様のお胸様は見事にワンサイズ上がり、お父様との仲は……まぁ、夜な夜な凄いことになっていた。
お父様、アランは新生児ながら大人の親孝行をしてますよ。もっと褒めて。
そして僕の魔力的な塊もある程度まで増え、ようやく体内で自由に動かせるようになった。順調順調♪
さらに嬉しいことに、《育てる》を使ってもブラックアウトしなくなってきた。
恐らくだが、《育てる》を使うには魔力を消費しているのだろう。多分、この読みは当たっているな。
ならばなおさら、自身の魔力を《育てる》ことを怠っちゃダメだね。アメリア母様へのスキル継続も含めて、頑張ろうね、お父様♪
そして、魔力だけではなく「頭(脳)」に使ったらどうなるのか?
そんなの、前世おじさんとしては試すに決まってるでしょ?
うん、やってみたよ。
結果は最高。なんかもの凄く頭の中がクリアになる感じ。僕の時代的な感覚で例えるなら、アナログのブラウン管テレビから地デジの液晶テレビに切り替わったくらい、鮮明さがまるで違う。
思考能力や記憶力だけでなく、恐らくだが、動体視力や反応速度なども爆上がりしている。
《育てる》ってスゲーじゃん。完全なチートだよ、チート。
神様ありがとう……会ったことないけど。
やがて、僕はハイハイが出来るようになった。
恐らくだが生後6カ月くらいかな?
アメリア母様のお胸様も、僕自身の魔力や脳トレ並みに順調に《育てる》毎日だ。
最近ではメイドのミーナもよく抱っこをしてくれるから、ミーナにも《育てる》のお裾分け(どこがとは言わないが)をしている。
ハイハイで動き回れるようになってからは、自身の体力や筋力なども《育てる》を開始した。
でも、「赤ちゃんのうちからムキムキになったらどうしよう?」というのが今の悩みだ。
さすがにベビーベッドの中でプロレスラーみたいな体型になったら引かれるので、筋力の育成は少し控え目にしている。赤ちゃんがシックスパックっていうのも笑えるが、取り返しのつかない事になっても困るからね。
さらに3か月が経ち、僕は遂に自分の足で立ち上がる事ができた。
最近では屋敷の中をトコトコと歩き回り、その後ろを心配そうにミーナが付いてくるのが日常だ。
分かってきたことだが、ウチの家系はどうも貴族で、それもかなり上の『辺境伯』らしい。
広大な屋敷には執事もメイドも沢山居るし、なんと私設の騎士団まである。
異世界スゲー。本物の騎士様だよ。
そして、日々《育てる》を施されているアメリア母様とミーナは、最近では実に見事なプロポーションで胸を張りながら廊下を歩いている。良きかな、良きかな。
歩けるようになって世界が広がると、関わる人が増えて、様々な人の考え方に触れるようになる。
そこで僕は、遂に禁断の手段を試してみたくなり、まずはミーナを実験台にして《育てる》を使ってみることにした。
それは、「このスキルは感情(好感度)にも利くのでは?」という疑問からだ。
もし敵対している相手に使うと敵対心が育ってしまう可能性がある。それなら、最初から僕に対して好意的なミーナなら安全だろうと踏んだのだ。アメリア母様だと、万が一にも計算が狂って嫌われたらショックで立ち直れないし、精神的に一番信頼出来るのはミーナしかいなかった。お父様はちょっと脳筋っぽいしな。
結果は大成功だった。
ハハハッ! これは最高の結果だ!
人間の感情すら育てられるなんて、この世界で生きる上でこれ以上ないアドバンテージになるはずだ。
そう確信した僕は、僕に対して最初から強い好意がある人物に絞って、感情の《育てる》を使う事にした。
お父様とアメリア母様、まずこの2人は絶対に大丈夫。そしてミーナも継続。それ以外の使用人はまだ保留だ。人間性をジャッジするには、まだ赤ん坊の僕には情報が足りないからね。
そして、僕はめでたく1歳を迎えた。
最近では、周囲への言葉(会話)を解禁している。
本当はもっと前から脳の《育てる》の効果でペラペラ話せたのだが、さすがに生後数ヶ月で流暢に喋り出したら「悪魔の子」と怯えられかねないので時期的にマズイと思い封印していたのだ。
満1歳の誕生日付近でその封印を解除し、ウチの使用人や騎士団の騎士などに会えば、愛想よく挨拶して回るようにした。
良い感情を育てるには、最初のアプローチが肝心だ。
可愛い赤ちゃんに挨拶されて、嫌な顔をする人はいない。これぞ前世でおじさんだった僕の持論である。
そのお陰で屋敷の皆とすっかり仲良くなり、非常に快適な引きこもり(?)ライフを過ごしているよ。
そして、僕の親孝行な計画の肝だったアメリア母様は、遂に第二子を妊娠した。
お胸様が育った効果でお父様が毎日かなり熱烈な感じになった結果、アメリア母様のお肌はいつもツヤツヤで、幸せそうに笑顔でニコニコしている。
さらには、なんとミーナまで妊娠した。
ミーナの旦那さんは、ウチの騎士団の団長さんらしい。
ミーナは初めての妊娠がよほど嬉しかったのか、僕の目の前でうれし泣きをしていたよ。
本当によかったね、ミーナ!!
さぁ、僕の可愛い妹か弟、そしてミーナの赤ちゃんのために、これからもこの領地をどんどん『育てて』いこうかね!




