高値で毎度あり〜
フフフッ、セリア率いる魔法部隊の活躍で、ズルガト伯爵軍はリベイラ辺境伯領の領都へ着く頃には『ヘロヘロ』になっていた。
それもそうだろう。リベイラ辺境伯領とズルガト伯爵領の間にある村々からはすべての食料を持ち出してもらい、領民にはリベイラ領都へ避難してもらっていた。
しかも井戸などは、土魔法で残らずすべて塞いである。
その上で魔法部隊が物資を焼き回ったため、ズルガト伯爵軍にはパン一袋すら残っていない。痺れを切らして伯爵領へ引き返そうとすれば、リベイラ領から部隊を出して後ろから襲いかかる。
それを何度も繰り返されたことで、彼らは逃げることすらできなくなっていたのだ。
領都前に布陣したズルガト伯爵軍は、何日も飲まず食わずで誰もがフラフラだ。中にはその場に座り込む者までいる……。
そこで──
「ズルガト伯爵様の軍隊とお見受けいたしますが、どのようなご要件でしょうか? 我が主人、リベイラ辺境伯様は通行の許可を出してはおりませんが……」
騎士を伴ったセバスチャンが、交渉のためにズルガト伯爵軍の前に立った。
「しかし、可笑しいですな~。隣国のミランド伯爵と同じ時期に、我がリベイラ辺境伯領へいらっしゃるとは……これは国王陛下へご相談しなければならない案件ですかな?」
セバスチャンが追及する中、腹の出た一人の中年男性が前に出た。
「これはこれは、リベイラ領の執事殿。我らはリベイラ辺境伯様への援軍として参った次第で、深い意味なぞ……」
「おや、これはズルガト伯爵様。お久しぶりでございます。援軍ですかな? またこれは不思議なことを……ミランド伯爵が攻めて来られたのはもう1ヶ月前。既にリベイラ辺境伯様に敗れ、国元へお帰りになりましたよ。多額の賠償金と、捕虜の身代金付きで……」
セバスチャンはニッコリと笑い……次の瞬間、急に鋭い目つきになった。
「いやあ、良かったです。ズルガト伯爵様がミランド家と繋がっていなくて。さもなくば、ズルガト伯爵様を滅ぼさなければならないところでした。何しろミランド軍が弱兵過ぎて『次に来た軍隊を相手に暴れさせろ』と軍部から強い要望が来ておりましてな……ズルガト伯爵様、一戦交えて行かれますかな?」
「い、いや。ウチは遠慮させてもらう! 援軍の必要が無いならワシらはこれで……あっ、そうだ! 食料や水などを売ってもらえないだろうか!?」
どうやら戦わず、おとなしく軍を引くようだね……そして狙い通りに──
「食料でございますか……我らもミランド軍と事を構え、畑などが荒らされてしまいましてな。なけなしの食料になりますが……少々割高になってしまい申し訳ないものの、ズルガト伯爵様だからこそお売りいたしましょう」
うししっ! ミランド軍から奪った食料は平民や農民に配ったけれど、まだ半分くらい残っていたんだよね。
それを高値でズルガト伯爵へ売りつけられたぞ。セバスチャンの名演技に拍手したい。
ちなみに僕は黙って着いてきた。だって結末を見たいじゃん。ズルガト伯爵のあの引きつった顔……ウププッ。
その後、領内からミランド軍から頂戴した食料を運んできてズルガト伯爵へ引き渡す。その場にある現金だけでは到底足りず、リベイラ辺境伯への借金という形で収まった。
もちろん、リベイラ辺境伯領と接する領地を担保に設定することで合意したけれどね。
『あーあ、ズルガト伯爵はこの借金が返せるのかな? 結構な額が残ったし、キロイフ子爵領の山道整備がそろそろ終わるから、通行する人の流れが変わるのに……。リベイラ辺境伯領を目指す人たちはキロイフ子爵領を通ってくることになるから、あちらの領地は日干しになるよ』
そうなんだよね。ついに王都とリベイラ領を繋ぐ、キロイフ子爵領の山道が開通するんだ。これで今まではズルガト伯爵領を通らないとリベイラ辺境伯領へ来ることができなかったけれど、これからは完全に素通りされることになる。
それに、王都からの援助なんかもズルガト伯爵が着服していた疑いがあるんだよね。王都からの使者も怪しい。
そうでなければ、過去の戦争で王国軍の敗退を殿で支え、当時の領主(おじい様)まで失った傷つきしリベイラ辺境伯家を、王国が見捨てるわけがない。
王都へ使者を何度も送ったけれど……返事はいつも同じだった。これはズルガト伯爵以外の大物貴族が関わっているか、王族そのものが腐っているか……。
それでも僕は、リベイラ領の発展と、将来のんびり畑仕事なんかをするスローライフを目指して頑張るけどね……人を『育てて』楽をしなくっちゃ!
「アラン坊ちゃま。居るのは分かっておりますぞ。このような危険な場所に来られるとは……これはアメリア様へご報告しなければいけませんなぁ」
あっ、バレて~ら。笑顔が怖いセバスチャンに首根っこを掴まれ、僕はリベイラ領の領都へ連れ戻されるのでした……。
◆◆◆◆
ズルガト伯爵との交渉を見たかった僕は、伯爵の引きつる顔が見れて大満足だったけれど……その代償は大きかった。
馬車に揺られて帰宅した僕を待っていたのは、シエラとリーナの幼女コンビで……開口一番、いきなり泣かれた。
「クスン、お兄様……」「若様~、うわ~ん!」
僕の両肩に頭を押し付けて泣く幼女たちに、僕の胸が痛む。
──と同時に、上から振り下ろされる、かた~く握られたゲンコツ。
般若が可愛く見えるほど青筋をピクピクさせていたのは、お母様だった。
「戦場になるかもしれない場所へ行くなんて……長男の自覚はないのかしら!?」
「あだっ!? う~、マジで怖い……!」
「まあまあ、アメリア。アランも反省し……」
「うるさい、黙りなさい! 大体あなたがちゃんとしないから、アランちゃんが……!」
正座して怒られていた僕の隣に、お父様が巻き込まれて加わった瞬間だった。
ごめんね、お父様……!




